8(ジェームス)
(side ジェームス)
* * *
宮殿に赴いて案内されたのは応接室だった。
王宮には官吏のための応接室と、貴賓のための応接室がある。
それとは別に国王が正式な面会をする謁見室もあるのだが、今回案内されたのは貴賓のための応接室だった。
二人でと言われたので待ち合わせをしていたティナと案内した部屋に入るとすぐに公爵令嬢が室内に入ってきた。続いて、豪奢な恰好をした人が入ってくる。
「第二王子殿下だ」
ティナに俺が耳打ちをする。
なぜ彼がここにあらわれたのか状況を考えるが、第一王子関連で追加の制裁を与える以外思い浮かばない。
ただそれに彼女が関係あるとも思えない。
その考えもその後すぐに入ってきた人物を見て頭から飛んでしまう。
「王国の太陽であらせられる陛下にご挨拶を申し上げます」
俺が礼をするとティナも礼をする。
中々慣れている。おそらく魔道具の関係で陛下にお目通りが叶ったことがあるのだろうと思った。
だからこそ、この集まりの理由が分からなかった。
「楽にして良い。これは非公式の場であるゆえ」
陛下は俺たちに向かってそう言った。
それから、きれいな細工の施された椅子に座った。
左隣に王子がさらにその横に公爵令嬢が座る。
俺たちに椅子は勧められなかった。
当たり前だ。俺たちの立場は貴族ではないのだから。
「カトリーヌ嬢説明を」
促されて公爵令嬢が口を開く。
「この度の一件はすべて、第一王子を試すためのテストでした」
そう言って公爵令嬢はニコリと笑みを浮かべた。
「代々王族は若い年代で王にふさわしい人間かどうかの試練を与えられます。
あの令嬢との一件は第一王子に課せられた試験でした」
代々、ほとんどの王族は試験をクリアするのですが。
そう付け加えながらコテンと公爵令嬢が首を傾げた。
話の内容さえなければかわいらしい仕草だったのかもしれない。
「あの男爵の庶子とかいう令嬢は……。」
「勿論仕込みですわ」
俺の仕えている人は茶番を茶番だと見抜けず、俺も臣下として止められなかった。
それがあの茶番劇の正体だというのか。
「はっ……」
思わずため息の様な嘲笑の様な声が一瞬出てしまった。
「ですが、あなたは茶番をそうとは見抜けなかったものの、臣下として殿下に忠言をいたしました」
公爵令嬢はそう言った後、第二王子を見てうなずき合った。
「ですので、“特別な裁可”として第二王子の元での下積みを認めることとしますがいかがでしょうか?」
公爵令嬢の笑みは自分が素晴らしいものを施しているというものだった。
「勿論一度白紙になってしまった婚約も再び取り持ちましょう」
婚約が戻るという事は伯爵家の跡目も戻るということだ。
跡取りとして復帰して今度は第二王子の元で働く。
貴族としてはありがたい話なのだろう、きっと。
けれど、この話をするためであれば俺一人を呼べば済む話だった。
平民で、あの婚約破棄騒動に関わっていないティナを呼びつける必要は全くない。
それで、あの茶番の後も俺が監視されていたことを知る。
あの茶番の後、恨みを抱いて何か行動しないのか、テストをされていたのだろう。
それで浮かび上がったのがティナとの関係だったのだろう。
ティナはこの国にとって必要な人材なのだろう。
彼女をこの国にとどまらせて、且つ、平民である彼女と手を切ること。
この場で俺が求められていることがそれなのだと知る。
陛下と第二王子それから公爵令嬢を順番に見る。
まるで答えが一つで決まり切っている様な表情をしていた。
全てが元通りとはいかないけれど、復帰する道を示されたのだから当たり前なのかもしれない。
ティナを見た。
ティナはぽろぽろと涙をこぼしていた。
彼女は天才と呼ばれる魔道具技師だ。今まで話してきた感じでも敏い。
ぽろぽろと涙を流す少女を見て、ある記憶がフラッシュバックする。
その女の子は彼女と違って金の髪をしていたけれど彼女と同じ濃いオリーブ色をした瞳で、そうだ、彼女と同じ表情で泣いていた。
何故今まで思い出さなかったのだろう。
「お、おめでとうございます……」
ぼろぼろと涙をこぼしながらティナは言う。
「ジェームス様が貴族として活躍されることは、この上ない喜びです」
そう言うのであれば何故泣くのか。
婿に来て欲しいと言ったくせに、そのことをもう口にも出さない。
あの時この娘が泣いているのが嫌だと思った癖にまた泣かせてしまっている。
子供のころから俺の魔道具の話をずっと楽しそうに聞いてくれて、俺の小さな夢を肯定し続けていたあの娘がぽろぽろと泣きながら、貴族としての準備した道に戻って自分を捨ててくれと言っている。