7(ティナ)
(side ティナ)
* * *
香水の様な匂いのする魔道具は私の原点だ。
今も彼にもらったあの指輪はチェーンに通してペンダントヘッドの様にしている。
初めて工房を案内した日の後、ジェームス様は告白をした日の様な強い拒絶を示すことがなくなった。
彼がクラスで孤立していたことは知っている。
彼の周りに人がいたときには諦めてみていることしかできなかった私は卑怯者だと自分でも思う。
彼が理不尽に孤立してからしか彼に声がかけられなかったのだ。
彼に婚約者がいるから建前上の逃げでしかない。
平民だという理由で彼から拒絶されたら立ち直れなかっただろうからというのが一番大きかったからかもしれない。
自分でも嫌な女だと思う。
ジェームス様にふさわしくはない嫌な女だ。
彼があの茶番を苦々しく思っていたことも、皆の見ている前で何度も殿下を諫めていたことも学園のものなら知っている。
彼が、まじめできちんとわきまえることのできる人間だと誰もが知っているのに、誰もなんとかしようとしない。
公爵家が怖いから、王家が怖いから。
それはそうだろう。目をつけられてしまったら家族も巻き込まれるかもしれない。
私も少しだけそういう懸念はあったけれど、それよりも彼を優先したかった。
家族にはもう話してある。
昔私をまるで貴族の様に型にはめ込もうとしたことに後ろめたさがある両親は、私に反対はしなかった。
勿論私が手掛けているプロジェクトが商会の売り上げの大多数になっているというのも勿論あるだろうけど。
最近ジェームス様は私に笑いかけてくれるようになった。
私がお昼に呼びに行っても何も言わなくなった。
彼から話しかけてくれることもある。
それに二人でいろいろな魔道具の話をするのは楽しい。
まるで昔に戻ったみたいだ。
子供のころの話はまだしていない。
彼の様子から彼はあの時のことを覚えていないし、私はあの時の貴族のフリをしていた私があまり好きではない。
そう思える様になったきっかけはジェームス様だけれど、それを話す勇気はまだ私にはない。
だから、婿入りの話を断られないまままるで友人の様な穏やかな時間が過ごせるだけで私は舞い上がってしまっていた。
そんな時だった。
あの公爵令嬢が私とジェームス様に話しかけてきたのは。
ジェームス様は明らかに緊張しているのが分かった。
話の内容は王宮へ招集するという内容だった。
正式な書状もあった。
何故官吏ではなく彼女が渡すのか。
私は嫌な予感がした。
それはジェームス様も同じようで表情は硬い。
詳しい内容は王宮でと言われた。
彼女が去ってから、思わずため息の様に息を吐いてしまった。
磨かれぬかれた美少女というものは近くで見るだけで圧がある。
「……書状は本物の様だ」
ジェームス様が固い声で言った。
平民の私とジェームス様がそろって呼ばれる理由がまるで浮かばなかった。
日付は次の学校が休みの日だった。
私はドキドキと不安を訴える心臓の音を無視するように「きっとなんてことはない話に決まってますよ」と言って無理矢理笑顔を作った。