6(ジェームス)
「やってみますか?」
と、ティナは聞いてきた。
できるものなのだろうか。
やってみたい。
久しぶりに、まともに心が動いた気がした。
頷くとティナは嬉しそうに笑ってそれから一枚の板を取り出した。
それから魔法陣の設計図もそこにあった紙にさらさらと書き出す。
「発光するタイプの魔道具なんですが」
もっと他のものの方が良いですか?と聞かれて「これでいい」という。
彼女が専用のペンを貸してくれた。
先に石が付いている所為か思ったよりペンは重たい。
「基本的には筆圧の強さが魔力の流れの太さとほぼ同じ感覚です」
これは、強弱はそこまで関係がないものなのであまり気負わず。そうティナは付け加えた。
魔法陣もそれほど難しそうな図案ではない。
魔法陣を真似するようにペンを走らせる。
板に沈み込む様な、それにペンに何かを吸い取られる様なそんな感覚がして思わずペン先を板から離してしまいそうになる。
吸い取られるって当たり前だ。
自分の体内にある魔素を使って魔法陣を書くのだ。吸い取られる感覚がするに決まっている。
一瞬の驚きがペンにも伝わったのだろう。
線は一瞬細くなってそれから太くなってしまった。
けれどティナは何も言わない。
問題ないのだろうと先にペンを進める。
ほどなくして魔法陣をすべて書き終えてペンを板から離す。
ふう、と大きく息を吐く。
大した作業量じゃないのにどっと疲れる。
「さすがです。魔法陣のことをよく理解していますね」
そう言うとティナは板をきれいに装飾が施された枠にはめ込む。
トントンと軽く指で叩くと板がほのかに発光をした。
室内のランプなどにも使われる魔法陣なのだと気が付く。
それから、いくつか魔法陣などについて質問をするとどの質問にもティナは穏やかに答えてくれた。
「さすがです」
ティナがそういう。
魔法陣はガタガタで先ほどティナの見せてくれたような美しいものじゃないのにティナは心の底からそう思っている様に言う。
「他にも何か作ってないのか?」
気恥ずかしくなって話を逸らす。
「そうですね。今お見せできるものだと」
彼女が取り出したのは小さなビーズだった。
これは知っている。
「香水の匂いがするやつだ」
今もアクセサリー型の魔道具から匂いが香る魔道具は人気だがこれはそれよりも小さい。
それにドレスなどに縫い付けることが出来るので人気だという。
ドレスとして売り出してるのは……。
「君は公爵家とも取引があるのか」
俺がそう言うと彼女は少し驚いている様に見えた。
「各家でやっている産業にもお詳しいのですね」
勉強位しかもうやることがないのだ。
ここのところまともに誰かと話をしたことが無かった。
家族ともギクシャクしていたし、教師すらまともに話しかけてはこない。
彼女だけが俺を見て、俺に話しかけてくれた。
「まあ、な……」
「いくつかの共同プロジェクトに携わっております」
そう言うと彼女は「香水は私の原点ですから」と言った。
「俺は、公爵家からにらまれていると思うんだが」
「そんなことは関係ありません!」
ティナはきっぱりと言った。
それはまるで公爵家よりも俺をとると言っている様に聞こえた。
あり得ないだろうと思う。
一時の恋に溺れているとしてもそんな当たり前の様に言う彼女が信じられずまじまじと顔を見る。
目が合うと途端に顔を赤くしててれる彼女に偽りのいろはない。
逆にその反応にこちらまで照れてしまい、じわりと体温が熱くなる気がした。