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5(ジェームス)

(side ジェームス)


* * *


俺は昔から、魔道具が大好きだった。

夜会を美しく照らすランタン型の魔道具、騎士を守る守護の魔道具、それから炊事や洗濯で人々の暮らしを豊かにしてくれる魔道具。

そのどれもが繊細に編み込まれた魔法の力で動いている。


伯爵家の嫡男として生まれたからには貴族の義務は果たさねばならない。

趣味として少しだけ余裕ができた際に魔道具をいじるくらいであれば許されるかもしれないが、本格的に魔道具の製作を行いたいとことが貴族の社会で許されることはない。


学園に入る前にもう割り切ったことだった。


けれど――


今の自分は貴族として望まれている義務は何もない。

だからこそ、とティナと名乗る少女が魔道具技師だと聞いた時に思ってしまったのだ。


今ならあの美しい魔道具に自由にかかわれるのではないか。


しかも目の前の少女はあの天才魔道具技師だという。


「勿論です。

是非見ていただきたいです」


ニコニコと嬉しそうに笑ってティナは言った。

その嬉しそうな笑顔をどこかで見たことがあるような気がした。



彼女と約束をした日になった。

別にその日までに何か特別なことがあった訳ではない。


学校では遠巻きにされているし、家では気まずい空気が流れている。

弟に当主教育をするために、バタバタと家庭教師が出入りしている位で、特に自分には何もない。


馬車の心配もいらず、ティナが迎えをよこしてくれることになっていた。

迎えに来た馬車に乗って揺られる。


貴族街からは少し離れてはいるが見渡しのいい、治安のよさそうな場所に彼女の工房はあった。

堅牢な石づくりの建物はとても自分好みの場所だと思った。


そわそわとした空気をまとって、ティナが出迎えてくれる。

今日は、学園の制服ではなく、眼鏡もかけていた。


さっぱりとしたワンピースはハウスメイドが午前中掃除ををするときに着ている物に似ている。

そこに白い前掛けをしている。


飾り気のないワンピースを着て出迎えてくれたティナは、さあ中へと促してくれる。


案内された工房は壁には本がぎっしりと並び、真ん中にある作業台にはいくつもの魔法陣の書かれた紙が置いてある。

それに作りかけなのだろう魔道具が作業台の上にある。


遮光のためなのだろう、ぶ厚いカーテンがかけられた窓の横の棚には完成品であろう魔道具が並んでいる。

カーテンは今は開け放たれていて太陽光が室内に入っておいてあるものがよく見える。


「量産型の生産はこことは別の工場で主にやっていて、ここは研究とオーダーメイド品の製作をしています」


興味があれば、工場も今度案内させてください。そう言われると量産品を作っている工場も気になる。


参考品として棚に飾られていた魔道具をいくつか見せてもらう。

自宅でも使っている魔道具もあって、同い年なのにこれを一人で作ったのかと驚く。


ティナはニコニコと穏やかに説明してそれから「実際に魔法陣を刻印するところを見ますか?」と聞いてきた。

作業台にあるあの繊細な魔法陣を描くところを見られるのだろうか。


思わずうなずくと「ちゃんと作業着を着てお待ちしていてよかったです」とティナは言った。


椅子を進められてティナの横に座る。

作業台に向かうティナは俺の隣に座って、ペンの形をした魔道具に魔法陣を刻印するためのスティックを持っている。


「今作業しているのは、糸車のタイプの魔道具になります」


絹を紡ぐ際に特殊な加工を施す機能を足すための魔法陣だそうだ。


「その糸車で紡ぐとどうなるんだ?」

「今までの布より薄く仕立てることが出来るのと、ここで特殊な染色を行います。

この魔道具を通した糸は光の当たり具合によって色をグラデーションするように変えることが出来ます」


糸車の輪に沿って魔法陣を構築するらしい。


「現状強度が若干足りないのですが貴族向けですとそちらの方が良いという事で刻印作業に入っているものです」


そう言いながらティナはペン先で輪の形に滑らせていくようにする。

ペン先の滑った軌跡が淡く光る。


紙に書かれていた繊細な魔法陣が刻まれていく様子はいくら見ても飽きない。

これを見ただけで彼女が天才と言われる所以が分かった気がする。


その手さばきもそうだが、真剣なまなざしから目を離せない。


どのくらい時間が経っただろうか、一周ペンを走らせると車輪の部分のパーツを他の部品と組み立ててそれから、魔蚕の繭をいくつか取り出して、糸を紡ぎ始めた。


糸はすぐにきれいに()られていく。

縒られた糸は窓からの自然光でキラキラとブルーとグリーンをいったりきたりしている。


「すごい」


出た言葉はそれだけだった。

けれど、これは絶対に流行る。

少なくともうちの母や姉なんかは喜んでこの糸で織られたドレスに金を払うだろう。


ふふふ、とティナがてれた様に笑った。

その笑顔をどこかで見たような気がする。


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