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3(ティナ 過去)

(side ティナ)


* * *


それは私がまだ5歳の時のことだ


スミス商会はその時すでにかなり手広く商売をしていて、時々貴族のちょっとした集まりに顔を出しては商談をしていた。

貴婦人が集まる会でドレスや貴金属を。

男性が集まる会では猟銃や馬を。


様々なものを父は売り歩いていた。

幼いころはよく貴族の家に連れて行ってもらっては、貴族の子息たちと遊びながらその商談が終わるのを待っていた。

今ならわかる。

父が望んでいたのは貴族との縁、それが無くてもそれなりに子供同士が仲良くなって貴族と家族ぐるみで商売をしたいという打算だという事が。


けれど、当時の私はそういう事はまだよくわからず、お姫様みたいな令嬢や美しい服を着た令息たちと庭で飛び跳ねて遊んでいた。


私を貴族に近づくための手段の一つ、と考えていたことでも分かる通り、両親は、というよりも商会は、貴族にあこがれを持っていた。

成りあがってきたと言っても所詮は平民の中でのことだ。

貴族と平民は依然として違いがある。


両親は何とか貴族に近づけないかと考えた。

家の内装を貴族風にして、自分たちが着る服も貴族風のものを着、そして母の化粧も貴族と同じものを使っていた。

使用人として没落した貴族の令嬢を雇ったのもその一環だったと思う。

私はその令嬢に幼いころから“貴族令嬢”としての教育を受けてきた。


今になれば、馬鹿みたいだと思うけれど当時の私は他を知る方法も無かったしそれが普通だった。


貴族にあこがれる両親は私の赤い髪の毛も、まるで金髪に見えるように染めた。

染めるときは頭全体がチクチクいたい。

幼い私には薬剤が強すぎたみたいで私のうなじのあたりはいつもかぶれていた。


けれど、「ティナはかわいいねえ」と両親が言ってくれるので私はそれでよかった。


貴族の様な恰好と言っても、実際に貴族に目を付けられない程度に上等なという意味だ。

貴族の家に行ったときに出会った人たちは皆私より上等な恰好をして髪も私よりみんなキラキラでさらさらだった。

皆日焼けはほとんどしていないし爪の先まで美しく整えられている。


本当は私も同じにならないといけないと思った。

きっとそっちの方が両親は喜ぶから。


両親が喜べば私もうれしい。


だからおしとやかにしないといけない。

この前も商談で来たうちの令息と飛び跳ねて鬼ごっこをしていたらものすごく怒られた。


淑女らしく、貴族っぽくふるまわなければいけない。

刺繍が好きで女の子同士ではにかむみたいに笑いあわないといけない。


「お前、つまんなそうだな」


そんなときに私に話しかけてくれたのがジェームス様だった。

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