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告白

作者: 奥野鷹弘

 俺は先輩のことが大好きだ。


 ただ、先輩の好きといっても、論理的思考とか化学的なことは興味はない。あくまでも、その先輩における熱量だとか俺に話してくれる一生懸命さが大好きだ。


 ここ最近、先輩は俺にこう話す。

「目の前に、○○さんがいるから話すんですけどね。」

 ……いや、目の前にたくさん人が居ましたが?!と俺はなる。

 しかし、ここはその言葉に身を委ねよう。

 先輩がたとえその前置きを俺にしか使っていないことを知らなかったとしても、『ええ是非とも。』と口角を上げて聞き入ってみましょう。なんならマスク越しだけど、ここは恥を棄ててニヤけてしまおう。



 先輩は俺が喜んでいることを知らずに淡々と話を続ける。

 なんなら話すのに力を入れすぎて、着ていたコートを俺に手渡して、その場にあった机に座り込む。

 遠くからみれば社会性のない先輩だが、俺にとっては憧れで目指したい人物だ。

「(これは何かのご褒美ですか。)」

 ラブコメディのような笑顔がここぞとばかりに作られてしまう。そして、いつしかコートを腕に掛けて、片方の手でネクタイを緩めては、舐め廻すように先輩を見納める。いつにも増して魅力溢れる先輩だ。



 俺は自分のことがキライだった。

 何をするのにも自分が優先的で、思えば自分が真っ先に思いがついて周囲に提議をしてきた。その度にまわりはから息をついては俺に発言を許した。そんな姿を感じている俺は喋るべきではない、俺は空気を読む必要がある、俺は自己優先過ぎる。そう俺が話して良いのは、俺の話を聴きたいと思って訊ねられたとき。それ以外の時時は、人に耳を傾けて、頷いてあげること。少し前に習った指摘も忘れてもならない。いくらそれが本心であっても暴力的な発言、否定的な言葉は使わないこと。そう、一昨日の俺みたいにならないように。



 先輩は俺に訊ねることはしない。

 一昨日先輩に向けた暴力的な発言を気にせずに、会話を繰り出していく。ならいっそ、会社に出勤する前に聴いた洋楽が今流れたらいいとも思う。俺のこの幸せが映画となって、人生に華を咲かせてくれたらどんなに幸せだろうか……。




 今日もまた陽が沈んでいく。

 昼頃に飛び出して見つめていた太陽が、ビルの山に紛れる。

 人知れずに足早に帰り、バスのなかで見送っていた太陽が、先輩と俺のふたりにしてビルの山に沈んでいく。

 山に帰るのが自然だと思っていた俺が、海辺で明日を待とうと諦めていた俺が、ビルの山で見送るなんて、なんて落ち着きがない出来事なんだろうか。



 そんな気持ちをよそに先輩はジャケットに忍ばせていたペンを取り出し、チラチラと光を操り、手を泳がしていく。あぁ、先輩は気付いているのだろうか。ある時に話してくれた香水の話がここで生きてくる。先輩の手の動きは俺の心を引っ張り動かしていく、香りかする方に自然と顔が動いていく。



 俺は先輩に出逢わなければ、きっと人生を辞めていた。


 俺は先輩に出逢わなければ、取引先に頭を下げることもなく、そのまま大失態を大失態として身を床に叩き付けていた。先輩がよく口にする「頭で空瓶を割った」ことが話よりも、酷いことをしようをしていた。そんなことを知ってか知らないでか判らないが、先輩は菓子折りを持ちより、俺の頭を鷲掴みをし、取引先に頭を下げさせた。自分に足りなかった勇気を先輩という権力が力となって、謝罪をすることが出来た。まだ独りで謝罪するには精神力が必要だが、先輩の力は偉大だ。俺は先輩が……好きだ。



 先輩は俺のことを知らない。

 先輩は俺のことを知る前に、先輩についてのノウハウを凡て話をして、「また余計な時間を……」と云って独りで立ち去っていく。きっとまた自分のなかで整理されれば、俺から先輩は離れていく。たとえ、頷きのひとつとして「好きだよ」と言葉を発信していても…………。



 腕に抱かれたコートは、誰かの視線を遮ってあたたかい。それこそ太陽を抱いているようなオレンジ色のトレンチコートは、先輩のイメージと合っていて頬が紅くなる。街で一度見掛けたことがあるのだが、風を武器にするのように裾をヒラヒラと舞って歩く姿は生唾を飲む勢いだった。同じ心意気で横を歩けたのなら、その履いてきてると言われる革靴の音で胸を踊らせたい。





  と、妄想にふけっていたら…。


  「…………と、いう感じでハンバーグを作ってみたいと思うんだけど、一緒に作れそう?」




 と、遠くから先輩の声がした。

 俺は思わず何が起きているのか解らず、見渡してしまった。ハンバーグ?作ってみたい?一緒に?何を言っているのだろうか?辺りを見渡せどそんな単語はどこにも落ちていない。なんなら五分先に交番はあるが、きっと訪ねてたところで首を傾けられて、なだめられて帰されるだろう。

 いやしかし、なぜ、ハンバーグなのだろうか?

 記憶にあるのは、一週間前に食したおふくろ味ハンバーグの小話ぐらいだ。


 疑心暗鬼だが改めて先輩を見つめ直すと、何故だか魅力的な姿のまわりに、論理的思考と化学で出来たハンバーグが湯気をたてて浮かんでいる。もしかして、それって…

 俺はこの後の予定とか考えずに先輩の肩を鷲掴みした。


「先輩っ、そのハンバーグを作って貰えるんですかっ!」



 俺はハンバーグに一世一代のヨダレを生成した。


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