王子と指環
絵本風の漫画のネームを、ノベライズ。
けっこう加筆しました。
※ あとがきに、みこと。先生からいただいたエンディングが掲載されております。
ぜひ、お楽しみください。
むかし、あるところに。
ほかの3つの国ととなりあう、ある国がありました。
その国には、とてもうつくしいお姫さまがいて。
となりあう3つの国にも、ひとりずつ。
あわせて、3人の王子がいたので。
3人の王子は、われこそはと。
お姫さまに、結婚をもうしこみました。
ところが、お姫さまは。
3人の王子のもうしこみを、ぜんぶことわってしまったのです。
結婚をあきらめきれない、3人の王子のもとに。
どこからかそいつは、あらわれました。
ヒツジのツノに
シカのツノ
コウモリのハネに
カラスのクチをしたあくまです。
あくまは、3人の王子たちに。
いいものをやろう、と言って。
ひとりに、ひとつずつ。
あわせてみっつの、ゆびわをくれました。
このゆびわは、ふしぎな金でできていて。
ゆびわのうらがわに、なまえをほると。
ゆびわから、もちぬしだとみとめてもらえます。
そして。
ゆびわのもちぬしが、じぶんの愛するあいてに。
ゆびわにくちづけ、してもらえば。
くちづけしたあいては、ゆびわの魔力によって。
ゆびわのもちぬしを、好きになってしまう。
ただし。
ゆびわに、くちづけしたひとが。
ゆびわのもちぬしが、愛するあいてでなかったときは。
くちづけしたひとは、ゆびわの魔力で死んでしまうというのです。
それは、くちづけしたひとが、ゆびわのもちぬしでも、例外ではありません。
ひとりめの王子が、お姫さまに言いました。
「このゆびわに、くちづけしてください。
ゆびわの魔力で、永遠のうつくしさがさずかります」
お姫さまは、こたえました。
「ではまず、あなたがくちづけしてみせてください」
ひとりめの王子は、こまりました。
お姫さまいがいのひとが、ゆびわにくちづけすれば。
そのひとは、ゆびわの魔力で、死んでしまうからです。
それは、くちづけしたひとが、ゆびわのもちぬしであるひとりめの王子でも、例外ではありません。
ふたりめの王子が、お姫さまに言いました。
「このゆびわに、くちづけしてください。
ゆびわの魔力で、すばらしい知恵がさずかります」
お姫さまは、こたえました。
「ではまず、あなたがくちづけしてみせてください」
ふたりめの王子は、こまりました。
お姫さまいがいのひとが、ゆびわにくちづけすれば。
そのひとは、ゆびわの魔力で、死んでしまうからです。
それは、くちづけしたひとが、ゆびわのもちぬしであるふたりめの王子でも、例外ではありません。
さんにんめの王子が、お姫さまに言いました。
「おいしいスープがあるので、のんでください」
お姫さまは、こたえました。
「ではまず、あなたがのんでみせてください」
さんにんめの王子は、うつわに口をつけて。
スープをひとくち、のんでみせました。
それを見た、お姫さまが。
じぶんも、スープをのもうとしたとき。
さんにんめの王子が、お姫さまに言いました。
「このスプーンをつかって、のむといいですよ」
お姫さまが、スプーンでスープを、ひとくちのむと。
お姫さまは、さんにんめの王子のことを、好きになってしまいました。
そこにまた。
あくまが、あらわれてこう言いました。
「さんにんめの王子。
おまえは、ほかのふたりの王子よりは、かしこいが。
ほかのふたりの王子よりも、ずるいやつだ」
あくまは、つづけて言います。
「けらいのかじやに、めいれいして。
ゆびわをスプーンに、うちなおしたな」
そのとおりです。
お姫さまが、スープをのむために、くちをつけたスプーンは。
ゆびわが、かたちをかえたものだったのです。
さらに、あくまは、つづけて言います。
「おれは、しってるぞ。
お姫さまが、おまえたち3人の王子うち。
だれとも、結婚しなかったのは。
えらばれた王子と、しあわせにくらすより。
えらばれなかった、ほかのふたりのかなしむかおを、みたくなかったからだ」
それをきいて。
おどろいた、さんにんめの王子に。
あくまは、つづけて言います。
「そんなお姫さまの、やさしさに。
おまえは、気づいてやれなかった。
よかったな。
お姫さまは、おまえのものだ」
それをきいても。
さんにんめの王子は、よろこべませんでした。
あんなに愛していた、お姫さまと結婚できるのに。
さんにんめの王子は、よろこべなかったのです。
そんな、さんにんめの王子に。
あくまは、つづけて言います。
「だが、まてよ。
スプーンへと、かたちをかえても。
ゆびわは、ゆびわ。
その魔力は、かわらないというのだったら。
かたちをかえても。
お姫さまは、お姫さま。
そのやさしさも、かわらないというのだったら。
おまえの愛するお姫さまに、かわりはないはずだ」
あくまは、そう言うと。
お姫さまを、鳥のすがたにかえてしまいました。
お姫さまのうつくしさが、おもかげにのこる、きれいな鳥でした。
お姫さまのやさしさが、おもかげにのこる、かなしそうな鳥でした。
あくまは、さいごにこう言いました。
「じゃあな。
いつまでも、ふたりでしあわせにくらすといい」
とほうにくれた、さんにんめの王子と。
かなしそうにさえずる、きれいな鳥をのこして。
あくまは、どこかへかえっていきました。
さんにんめの王子は、お姫さまがいつか。
もとのすがたを、とりもどすのではないかとねがって。
そのまえにどこかへとんでいって、しまわないように。
鳥を、ちいさなかごにいれて。
たいせつに、飼うことにしました。
さんにんめの王子は、しばらく鳥を飼っていましたが。
やがて。
さんにんめの王子は、ほかの国のお姫さまを好きになりました。
そして、ふたりは結婚しました。
ふたりは、しあわせにくらしました。
でも。
この結婚で、こわれてしまったしあわせもあったのです。
お姫さまが、鳥にすがたをかえても。
さんにんめの王子は、鳥を愛してくれていました。
好きなひとに、たいせつにされて。
鳥も、しあわせでした。
そして。
ほか国のお姫さまと、結婚しても。
さんにんめの王子は、鳥をたいせつにしてくれました。
かたちをかえても。
たいせつは、たいせつ。
それは、かわらないというのに。
いばしょをなくしたと、さとった鳥は。
かごをぬけだして。
かなしそうに、どこかへとんでいきました。
さんにんめの王子と、ほかの国のお姫さまのふたりは。
いつまでも、しあわせにくらしました。
おわり
あくまの名前は、ノゥ。
ちゃんと、絵も描けます(笑)
★みこと。先生が、幸せなエンディングを描いてくださいました
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鳥は高く遠く飛び去りました。
そして森の小枝で羽を休め、哀しい歌を、歌いました。
その声が、森にいたひとりの男性に届きます。
「鳥よ、鳥。
美しい鳥よ。
あなたはどうしてそんなに、悲しそうな声でさえずるんだい?」
悪魔が出て来て言いました。
「その鳥は自分を愛すると言ったはずの男に、
別のいちばんが出来たから、
己の理由がわからず逃げて来た。
捨てられる前に、
相手から逃げた。
いつだって哀しんでいる。
誰かを選べば誰かが傷つく。
選べなかった自分は、
今度は自分が選ばれず、
哀しみ沈んで啼いている」
男は悪魔の言葉にうなずき、鳥に言いました。
「そうか。
無理して向き合うことはない。
そうすることで、
相手があなたをずっと思い続けることになる結果もあるのだから」
鳥が首を傾げます。
「意趣返しというやつさ。
こっちから捨てるのもありだよ」
お姫様の心が、ふわりと軽くなりました。
すると鳥だったはずの羽がはらりと抜け落ち、
人間の姿に戻ったお姫様は、
木の枝から男の腕に、すぽりと落ちました。
「なんて美しい人なんだ」
男はひとめで、お姫様のことが好きになってしまいます。
悪魔は男にこっそりと、三人の王子様に渡したものと同じ指環を、手渡しました。
指環の魔力は、以前と同じ。
男はてのひらの中で光る指環を眺め、そしてお姫様に言いました。
「あなたがこの指環に口づけすれば、
あなたは僕を愛するらしい。
僕はあなたのことが好きだ。
でも、
あなたが僕のことを知り、
"僕を愛しても良い"と思ってくれた時に、
指環に口づけしてくれると嬉しい。
それまでこの指環は箱にしまっておこう」
お姫様の前で、
指環は小箱に仕舞われました。
お姫様はじっと男を見つめ、言いました。
「指環は必要ありません。
だって私も、誠実なあなたのことを、好きになりましたから」
お姫様は指環ではなく、男に口づけしました。
悪魔の指環は、箱の中で砂になって崩れていきました。
ふたりにとって、不要なものとなったからです。
こうしてお姫様と男は互いを思いやり、いつまでも幸せに暮らしたそうです。
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みこと。先生ありがとうございます。