表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/78

魔王会議 第四話

 愛ちゃん先輩はいつの間にかこの世界でスーパーヒーローになっていたそうなのだが、僕が想像していたヒーロー像とはかけ離れたヴィラン要素の強そうなヒーローだった。ダークヒーローでもない自分の欲望にだけ素直なヒーローのようにしか見えなかったのだが、実際にヒーローと戦っている姿は完全にヴィランそのものだった。


「もう、そんなのじゃこの世界を救うことなんて出来ないのよ。あなた達みたいに運だけでここまでやってきたような坊やたちは実力のある私みたいなお姉さんには勝てないのよね。でもね、もう一度鍛えてやり直したいって言うなら見逃してあげてもいいわよ」

「誰が敵に背中を見せて逃げるものか。そんな屈辱を味わうくらいならここで死んだ方がましだ」

「そうよ、あんたみたいな女に俺たちが負けたとあっちゃヒーローの看板に傷が付く。せめてお前の弱点でもわかれば俺達に勝ち目もあるというのに、観察する目を持つドウスンが能力を封じられているなんてついてないぜ」

「僕が早まったばかりにごめんなさい。でも、能力があったところで僕たちに勝ち目がないってことくらいはわかるよ。観察する目を使わなくたって絶望的な戦力差があることくらいわかるからね」

「だがな、ヒーローは決して戦いから逃げちゃいけないんだ。俺達はこれ以上惨めな姿をさらすわけにはいかないんだよ」


 なんだか熱い展開になってきているのだけれど、彼らはここに実力でたどり着いたわけではなく、魔王とスーパーヒーローの協定によって選ばれて導かれただけなのだ。魔王軍の幹部と戦ったことが彼らの自信になればいいのだろうが、彼ら四人と愛ちゃん先輩一人では愛ちゃん先輩の方が圧倒的に強いという事実は彼らの自信を奪ってしまうかもしれない。いや、彼らはこれ以降に戦闘に赴こうという気持ちになれなくなってしまうのではないだろうか。それくらいには絶望的な差が両者の間にはあったのだ。

 愛ちゃん先輩はなるべく彼らを殺さないようにしているのだけれど、どれくらい力を抜けばいいのかわからない序盤に回復役を瀕死の状態にしてしまったのはお互いに誤算だったのではないだろうか。と言うよりも、回復役の彼女は愛ちゃん先輩の攻撃に耐えることが出来ずに死んでしまったのだが、僕が間一髪で蘇生させることに成功したのである。ただ、僕と彼女の魔力の系統が違うためなのか復活しても意識を取り戻す段階までは回復しておらず、完全に復活するためには彼女の意志の強さが必要になってしまうのだった。


「クソ、こんな事ならもっと人数を集めておけばよかった」

「ちょっと待てよ。俺らは最初から八人で行こうって言ってたんだぜ。それを、お前は分け前が減るからとか言って強引に打ち切ったんじゃないか」

「それが何だってんだよ。お前らだって分け前が減るくらいなら四人で良いやって言ってたじゃないか。それによ、壁役なら壁役らしくヒーラーを守れよな。今の状況を作り出したのはお前だって気付けよ」

「それなら言わせてもらうけどよ。状況判断を見誤って撤退のタイミングを失ったのは誰のせいだって言うんだろうね。俺らはどうせここで死ぬんだろうし、思ってることを言わせてもらうけどよ、お前って全然リーダーの器じゃないな。誰に憧れてるかは知らないけど、全然その域まで達してないって気付けよ。ランクが俺らより高いのだって誰かに寄生して上げただけなんだろうな。今までの戦い方を見ているとそう思うよ。なあ、ドウスンもそう思うよな?」

「いや、僕に聞かれても困るよ。それに、今はメカルガが意識を取り戻す方法を見付ける方が大事だと思うんだけど」

「僕に聞かれても困るって事は、ドウスンもホナオと同じ考えってことで良いんだよな。わかったよ、俺はもうお前らとは組まないしリーダーもやらねえ。良いか、この場をうまく切り抜けることが出来たとしても、お前らはもう俺とは他人だからな。酒場で見かけても慣れ合ってくるなよ」

「ああいいぜ、その方が気が楽ってもんだ。俺もエンレイにはついていけないと思ってたしな。だが、今はこの場を乗り切ることの方が大事だって忘れるなよ。俺はお前の事が大嫌いだが、最後くらいはちゃんと守ってやるよ。壁役の俺が盾になるからお前はメルカガを抱えて逃げろ。ドウスンもヒーローなら泣き言言ってないでメルカガを守ってくれよ」

「お前はバカか。今までのあいつの動きを見てなかったのか。お前みたいな突っ立っていることしか出来ない壁があの女の攻撃を見切って受けきることなんて出来ねえだろ。ドウスンは今すぐにメルカガを抱えて逃げろ。この部屋から出た先にある吹き抜けの広間まで行けば逃げられるはずだ。空が見えたら俺が渡した腕輪を地面に思いっきり叩きつけろよ」

「ちょっと待ってよ、エンレイもホナオも何を言っているんだよ。二人が逃げないのなら僕も戦うよ。三人で力を合わせればきっと何とかなるって。今までも力を合わせて何とかしてきたじゃないか」

「いいか、今までの相手はハッキリ言って苦戦するようなレベルの相手ではなかったんだ。でもな、俺は正直に言うとお前らを認めてなかったんだ。たまたま仲間がいない同士で集まった烏合の衆だとさえ思っていた。それは今でも変わらないかもしれないけどな。俺はお前たちの強さを信頼していなかったし、そんな奴らに命を預けるなんて出来なかった。俺の役目はホナオを信じて最大火力を叩き込むことだったんだが、それが出来なかったんだ。でもな、今は信頼とか言ってる場合じゃないんだ。俺らは間違いなくあの女に勝つことは出来ない。いや、全員無事に逃げ切ることだってできないんだ。誰かが犠牲にならなきゃみんな死んじまうんだよ。運よく生き残ったとしてもお前らとはもう一緒にいることは無いんだし、俺の最後の指示を聞いてくれ。ドウスンはメルカガと一緒に生き延びろ。ホナオは俺と一緒にドウスンとメルカガが逃げ延びる時間を稼いでくれ」

「ふん、お前の言う事は癪に障るが、間違いではないな。俺は逃げ延びる二人を守ることが出来ないかもしれない。でも、エンレイが少しでもあの女の気を引いてくれたらどうにかなるかもしれないな。俺たちの命を無駄にしないでちゃんと逃げ延びろよ。お前ら二人は俺と違ってまだまだ成長してスーパーヒーローになれる可能性が残されているんだからな」

「いやだよ。僕も二人と一緒に戦うよ。二人を犠牲にして生き延びたってさ、そんな命に価値なんて無いよ」

「馬鹿野郎。お前は俺ら二人がなれなかったスーパーヒーローになってくれればそれでいいんだよ。いいか、お前ら二人が逃げる時間くらいは稼いでやるから安心しろ……よ」


 三人のやり取りにしびれを切らせたのか、愛ちゃん先輩は攻撃をしてはいけないタイミングで攻撃をしてしまった。

 リーダーの男は気を失った程度で済んでいたのだが、残された二人はその場に座り込んでしまった。女が気絶しているし、今のタイミングで僕が出ていけば四人を上手い事逃がすことが出来るかもしれない。

 愛ちゃん先輩を見てみると左手が少し落ち着きのない感じに動いているので焦っているのが見てわかる。四人だけじゃなくて愛ちゃん先輩の事も助けてあげることにしようかな。


 でもな、あのヒーローたちの前で愛ちゃん先輩って呼ぶのはマズいよな。後輩が出てきて逃げろって言っても説得力が無いだろうし、仕方ないのでここは名前で呼ぶことにしようかな。名前で呼んでも大人しくしていてくれよ。って思ったけど、愛ちゃん先輩の動きを封じてしまえばいいんだ。よし、そうしよう。


 僕は意識のある二人にもわかるように愛ちゃん先輩の動きを封じたのだ。見た目にもわかりやすいように拘束具を具現化させてみよう。二人の反応を見る限りでは何が起こったかわかっていないようだな。それも当然と言えば当然か。とりあえず、あの二人が愛ちゃん先輩を襲ったりしないように間に線でもひいておこうかな。


「ここが魔王城だと知って乗り込んできたその勇気を称えよう。だが、勇気だけでは乗り越えられない壁もあると知るがいい。君達の前にあるその線を一歩でも超えない限りは私も攻撃をすることは無いが、線を越えた瞬間に君達は私の魔法によってこの世から永遠に葬り去られることになるだろう。言っておくが、私は君達が相手をしていたこの愛華よりもずっと強いという事を知っておいて欲しい。出来ることならば、君達には無事に帰ってもらって私の事を宣伝してもらえると助かるのだが、その願いを聞いてくれるかな?」


 二人は先ほどまでの勢いは完全に失っていたのだが、それは気絶から覚めたあの男も同じだったようだ。三人は何も言わずに回復役の女を抱えて逃げていったのだが、部屋を出てそのまま空を飛んでいったところまで見ることが出来た。


 魔法で具現化した拘束具を愛ちゃん先輩から取り除くと、愛ちゃん先輩は少しだけ顔を赤らめていた。恥ずかしいとかそう言う感情ではなく、僕が名前を呼び捨てで呼んだことが原因だったという事は後で知らされることになるのだが、もう一度名前で呼んで欲しい愛ちゃん先輩はその日から僕と目が合うたびにその話をしてきていたので、僕的には逆効果なんじゃないかなと思っていたのだ。


 四人を逃がしてから二週間が過ぎたころ、スーパーヒーローの会合に出かけていた愛ちゃん先輩が魔王城をスーパーヒーロー総出で襲う作戦があるという事を打ち明けてくれた。

僕は特に気にしていなかったのだけれど、それを聞いた魔王はただでさえ悪い顔色がさらに蒼くなっていて、完全に顔から血の気が引いていたのだった。

 スーパーヒーローがどれくらい強いのかはわからないけれど、魔王軍の緊急幹部会議が開かれることになったのだが、僕はそれに参加せずに知性を持った魔物を生み出す方法を考えることにしたのだ。

 どうせ、対策を立てても立てなくても変わらないんだし、適当に遊んでやればいいんじゃないかなって思っただけなんだけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ