魔王会議 第二話
魔王軍と言うのは僕が思っていたよりも規模が小さく、メンバーのほとんどが幹部待遇であった。もともとは人間以上に魔物がいたそうなのだが、ヒーローが魔物を狩り続けてしまったために余剰戦力はほぼ無くなってしまったとのことである。このままでは魔王軍はあっさり壊滅してしまうと思っていたのだけれど、ヒーローサイドにも魔王軍がいなくなっては困るという考えもあったため、いまだに全滅させられることも無くひっそりと暮らしているのだ。
僕はこの状況を改善するのと、魔王軍をゼロから作り直すのではどちらがいいのか考えてみたのだが、僕が全てに手を出すのも良くないと思い、状況を改善する方向で話を進めることにしよう。
とは言え、この事は魔王にも幹部連中にも何も言っていないので拒否される可能性もあるのだが、そんなことになっても気にせずに弱い魔物をたくさん探してくることにしよう。弱い魔物から初めて徐々に強い魔物を用意するのはヒーロー側にとってもメリットはあるのだろうが、こっちサイドとしても時間のかかる強力な魔物よりもコストのほぼ無い弱い魔物を大量に作って基礎を固めておく必要もあるのだ。強い魔物を作るには多くの弱い魔物が必要になるのだが、弱い魔物ですら狩りの対象にされてしまっているのだった。つまり、弱い魔物を大量に作って資源集めをしようにも、集める前の段階で弱い魔物は狩りつくされてしまっているという事なのだ。
「何か考えているようですが、我々に出来ることがあれば何なりとお申し付けいただいて構いませんよ。魔王様も同じ気持ちだと思いますので、些細な事でもお申し付けくださいね」
「いや、相談しようとは思っているんですけど、相談したからと言って解決策が見つかるとも思えないんですよね。どうやって魔物を増やそうかと思っているんですけど、魔物って繁殖して増やすもんなんですか?」
「いやいや、魔物は繁殖では増えませんよ。基本的には分裂か増殖か突然変異になるんです。ですが、私がここに来るずっと前に魔物を分裂させて増力させる装置が止まってしまったんですよ。何か動力源が必要だという事まではわかったのですが、その動力源が一体何なのか見当もつきません」
「それって、見せてもらう事って出来ますか?」
「ええ、魔王様もあなたが望むことは出来るだけ叶えてあげなさい。と言われていますからね。他にも気になる場所があればご案内いたしますよ」
僕は人型の魔物の後について階段を下りて行ったのだが、そこにはどことなく見たことがあるような宝石で出来た柱が立っていた。照明は気を使い過ぎているのではないかと言うくらい明るいのに、肝心の宝石にはその光が届いていないようであった。どの宝石の柱も光を吸収しているようにしか見えなかったのだった。
「私がここに来た四年前にはすでに止まっていたのですが、その昔はこの柱を通して世界各地に魔物を送り込んでいたそうなんですが、今では魔物を増やすことも出来ないようですからな」
「これって、もしかしたら光じゃなくて魔力を装填するんじゃないかな。ちょっと昔に見た似たような物はもう少し宝石らしい色をしていたし、そこに魔力を注入したらより鮮やかな色に変わっていたんだけどね。そんなわけで、この柱に魔力を注いでみてもいいかな?」
「もちろん構いませんよ。我々としても試すことの出来る人がいれば試していただきたいし、これが使えない原因もわかるかもしれませんからね。どうですか、うまく行きそうですか?」
僕は一番近い所にある青色の柱を両手でつかんで一気に魔力を注いでみた。魔物が生まれるという瞬間を見ようと思っていたのだけれど、僕が想像していた宝石から順番に魔物が出てくるのではなく、どこかにいる同じ種族の魔物の近くに生まれているそうだ。
一本だけ光っているのは印象も良くないと思うので残っている柱にもそれぞれ魔力を注いでみることにした。宝石に触れてみて感じた事なのだが、柱の特性によって生まれてくるらしい。僕はこの宝石がどんな魔物を生み出してしまうのかと言った興味はあるのだけれど、それを見る機会は無いんだろうなという事は感じていた。
「あなたがここに来てくれて我々を助けていただけるという事に対して、我々は何をお返しすればいいでしょうか?」
「お返しなんて気にしなくていいと思うよ。少しでもヒーローの戦力を割く必要もありそうだしね。ある程度魔物が増えたらそれを実行してもらう事になるけど、問題はないよね?」
「私達は魔族として生まれ、魔族として死んでいく、それは仕方ない事だと思う。だが、それらはすべて彼女たちの仕業ではないかと言う噂もあったりしますね。ところで、あなたはいったい誰なんですか?」
「私ですか。私は魔王軍の魔王です。その柱を復活させてくれたおかげで自由に旅がしやすくなりましたね。ですが、正樹さんが注いだ魔力を使い切ることも出来ずに増産を繰り返しているのですが、宝石は良い色合いをしていますね」
「僕は宝石とか芸術品に疎いのでちょうど良かったかもしれませんね。魔力を込めて新たな魔物を作ってヒーロー達に一泡吹かせてやりましょうね」
「それが出来れば問題ないのですが、それについても手伝えることがあれば何でもいたしますからね」
その時、息を切らせながらも走ってきた一匹の魔物がいたのだ。僕たちはその魔物が何を伝えに来たのかわからないままなのだが、おそらく魔物関係かヒーローがやってきたとかそんなところだろう。