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魔王会議 第一話

 魔法と言うものがどういうものなのかわかってきたのだけれど、それを上手く使う方法がまだわかっていないので、僕は魔法を使うことに慣れていそうな人を探してみることにした。


 新しくやってきた世界は普通の人間はあまりいないみたいで、超人と呼ばれる者達が世界の平和を守っているようだ。

 今まで見てきた世界の中で一番平和と言っても過言ではないと思うのだが、そんな世界でも平和を脅かす魔王の存在は大きいらしく、世界中の超人たちの中でもより強い者達が集まってスーパーヒーローとして活動しているそうだ。僕は昔から正義の味方とか選ばれし勇者とかには興味が無かったのでそれほど関心を持てなかったが、みさきは映画とかでもヒーローものが好きだったのでその中に入るのを喜びそうだなとは思った。他の世界でのことを思うと、ここで僕がヒーロー側についてしまうとみさきは魔王側になるかもしれないのだが、そうなってしまうとヒーロー好きのミサキがヒーローと戦わなくてはならなくなるかもしれないので、それは可愛そうだと思って僕は魔王側につくことにした。

 と言っても、どこに魔王がいるのかもわからないし、それはヒーローにもわからない事なのだそうだ。まずは魔王を探すところから始めないといけないのだが、この世界ではヒーローが幅を利かせすぎていて魔物もほとんど見ることが出来なくなっている。どんなに弱い魔物だとしても、それは駆除対象であるのでどのヒーローも全力で殺しに来るのだ。

 それは何故かというと、この世界には並の魔物よりも強い人間が多く、その中でもより強い者がヒーローの中のヒーローであるスーパーヒーローとして認められることになるのだ。そのためには普段の訓練のほかに、魔物を数多く殺した経験が必要になる。結構物騒な話ではあるが、超人が多いこの世界ではそのくらいでしか他との差別化が図れないとのことである。

 超人ではない普通の人間がどうしているかと言うと、魔物と戦うことはそれなりに出来るのだが、あくまでそれなりでしかないので被害も受けてしまう。それならば、魔物と対等異常に戦える超人に頼った方がいいのだ。だが、普通の人間も超人に守られているだけでは無く、超人の普段の生活を支えているのだ。超人は戦うことは出来るのだが、戦うこと以外はほとんど何も出来ないのだ。力を抑えることが出来ないので普通に生きていくことも難しく、少しでも繊細な作業は一切できないのだった。農作業をしようにも、畑を耕すことは出来ても種を蒔くことも稲を植えることも出来ないのだ。畜産業にいたっては動物を殺すことしか出来ないので全く仕事にならない。製造業も物を運ぶことは出来ても設計はおろか組み立てることすらできないのだ。日常生活においても料理は全く出来ないし、家事においても出来ることはほとんどないのだ。日常生活で出来ることは物を運ぶくらいで、それ以外には何の役にも立てないので、戦うことが出来ない普通の人間が必要になってくるのである。

 これは僕が見て感じた事なのだが、この世界のヒーローはその気になれば簡単に魔王を討つことが出来るのではないか。なぜそれをしないのだろうと思っていたけれど、その答えは簡単に見つかった。魔王を倒してしまうと戦う理由が無くなってしまうのだ。ヒーロー同士で戦うイベントもあるにはあるらしいのだが、実力も拮抗していて他のヒーローとの違いも分かりにくい者同士の戦いは泥仕合になることが多いらしく、見ていても楽しくないし戦っていてもつまらないとの理由で人気は全くないらしい。


 魔王よりも強いヒーローしかいないこの世界で僕がやるべきことは何だろうか。みさきと一緒に暮らす方法があるのかもしれないけれど、そのためにしなければいけないことはあるのだろうか。この世界で僕が得るものは何なのだろうか。今はまだそれが見つけられないけれど、みさきが楽しめるような強い魔王を探すなり作るなりしてみようかとは思っている。みさきよりも強いヒーローがいるかもしれないけれど、そんな奴がいたら僕が弱らせてみさきにとどめを刺させるだけだしね。


 僕は魔王の居場所を知るために色々と手を尽くしてみようかと思っていたのだけれど、それを知っていそうな人たちに聞いてみることから始めてみた。魔王がどこにいるか一番知ってそうな人とは、スーパーヒーローと呼ばれる人達だと僕は思った。

 スーパーヒーローはこの町にも数名はいるらしく、いるだけで魔王軍避けになるそうだ。逆に言えば、スーパーヒーローがいる町には魔王軍がやってくることは無いので平和そのものであるのだが、ヒーローにとっては戦う相手のいないいても意味のない町となってしまうらしい。スーパーヒーローになりたいヒーローはスーパーヒーローのいない町に行くことになるのだが、今ではそんな町もほとんどないので新たに町を作るヒーローもいたりするそうだ。

 僕があったスーパーヒーロー達はそれなりに人当たりは良かったのだけれど、何か言動が鼻につく感じでいけ好かない野郎が多かった。どうしてそんな風に感じてしまったのだろうと思っていたのだが、その原因は僕が話しかけた受付の女性が僕に惚れてしまったからだと思う。スーパーヒーロー達も戦う力を除いてしまえば普通の男子だと思うし、受付の女性はそれなりに美人だったのでスーパーヒーロー達は行為を抱いていたのかもしれない。そんな女性が普段は誰も通すことが無いはずなのに、スーパーヒーロー達の前に僕をあっさりと通した上に腕に抱き着いているのだ。そんな事が目の前で起こったら腹を立てても仕方ないのかもしれない。

 だが、スーパーヒーロー達は僕に意地悪をしているのではなく、単純に魔王軍がどこにいるのかを見付けていないだけのようだった。


「あの、魔王軍について知りたいんですけど。魔王はどこにいるんですか?」

「魔王軍の居場所なんて知るわけないだろ。知っていたら俺達が今頃魔王を倒していると思うだけど、お前が知ってどうするんだよ」

「どうするって言われても、僕はみさきのためにも魔王がどこにいるか知りたいだけなんだけど」

「ミサキって誰だよ。お前の女か?」

「はい、僕の彼女ですけど、それが何か?」

「女がいるのに佳乃ちゃんを口説いてんじゃねえよ。今すぐ佳乃ちゃんから離れろよ」

「これは僕がくっついてるんじゃなくてこの人がくっついてきているんですよ。これは僕の意思じゃなくて彼女の意思なんで、彼女に離れるように言ってもらえますかね」

「何言ってんだお前は。なあ、そんな男から離れて俺たちの方に来なよ。佳乃ちゃんは俺たちのために色々してくれてたんだし、そんな男から離れてこっちに来なよ」

「ごめんなさい。あなた達は凄いヒーローだって知ってるんです。選ばれたスーパーヒーローだって事も知っているんです。でも、私はこの人に惚れてしまったので、この時間を大切にさせてください」

「惚れたって、前からそいつの事を知っていたの?」

「いいえ、さっき初めて会ったんですけど、これは運命だと思っています。私の一生は彼に捧げるためだったんだって思いましたもん」

「おかしいぞ、こんなことがあるはずがない。俺らの佳乃ちゃんがお前みたいな得体のしれないやつに惚れるなんてありえない。さては、貴様は魔王の手先だな。最近暇だったから相手をしてやるよ。かかってきな」

「ちょっと待ってもらってもいいかな。僕は魔王の手先じゃないし、魔王の手先だったら魔王がどこにいるかなんて探したりしないでしょ」

「それはそうかもしれないが、佳乃ちゃんをそんな風にしちゃうなんて、お前は悪い魔導士だな。許さんぞ」

「魔導士ってのは正解だけど、悪い魔導士ではないね。それに、僕はこの女性に魔法は使ってないんだけどね」

「何を言っているんだ。魔法を使わないで佳乃ちゃんの心を弄ぶなんて不埒な奴め。ここへやってきた事を後悔させてやる」


 何だろう。この言い方はスーパーヒーローっぽくないな。この女性の事で嫉妬してるだけにしか見えないし、僕に喧嘩を売ってきてるこの人以外の三人もやけに殺気立っているな。

 僕はこの世界のスーパーヒーローがどれくらい強いのかを体験しておくのも悪くないと思い、彼らと戦うことにした。万が一僕が負けてしまったとしても命までは取られないだろうと思っていたのだが、彼らが僕と戦うために持ってきた道具はどう見ても命を奪いそうな物ばかりだった。殺傷能力の高そうな鋭い爪であったり、やたらと大きな鉄の玉のついた杖であったり、腕よりも長い刃のついた槍であったり、いくらでも矢を装填できそうなクロスボウだったりしたのだ。本気で僕を殺すつもりなのかもしれない。

 しかし、僕はそんなものに屈したりはしない。勝てる戦いを放棄するほど馬鹿ではないのだ。


「四人だけでいいのですか?」

「何言っているんだお前は、四人じゃなくて一人ずつ戦ってやるよ。もっとも、一人目で殺しちゃうとは思うけどな。さあ、誰からが良いか決めろよ。自分の命を奪う相手位は決めさせてやるからよ」

「じゃあ、全員纏めてどうぞ。僕はそれでも構いませんし、僕は一歩もここから動かないつもりですからね」

「俺達は普通の人間が好きだ。俺達に出来ない繊細な事が出来るってのもあるが、お互いに身の程をわきまえているからこそ出来ない事は出来ないと言い合えるから好きなんだ。でもな、お前は自分の身の程をわきまえていないうえに佳乃ちゃんの心を弄びやがった。そんな奴は誰も許すことは出来ねえ。名前も知らない初めて会ったお前を殺すことになるのは忍びないが、これも運命だと思ってあきらめてくれ。そして、佳乃ちゃんは俺たちが必ず幸せにするから安心してくれよ」

「いつでもどうぞ」


 僕の言葉を合図にしたのか、槍を持っている彼の言葉を合図にしたのかはわからなかったが、四人のスーパーヒーローが僕に向かって一斉に攻撃を繰り出してきた。

 だが、クロスボウの矢は僕の目の前で全て止まり、鉄の玉のついた杖は僕にあたることも無く砕け散った。長い刃の槍は止まっている矢を越えた辺りで溶けだしてしまい、鋭い爪は全て違う方向へと曲がってしまった。

 もちろん、これは奇跡でも偶然でもなく僕が魔法を使って行った事なのだ。四人の攻撃が僕に届かないように色々と魔法を使ってみたのだけれど、その効果は僕が想定したよりもあったようだ。

 四人は自分たちの武器が役に立たないと知ると、直接素手で攻撃してきたのだが、もちろんそれも僕に届くことは無かった。なるべく怪我はさせたくなかったのだけれど、彼らは自分の力に自分の体が耐えられることも無く、その身に大きなダメージを負ってしまうことになったのだった。


「ねえ、少しは相手の出方を窺うとかした方がいいんじゃないかな。僕がその気だったら君達は死んでると思うんだけど、それについては何も思ったりしないのかな?」

「ただの人間かと思ったらただの人間じゃないのかよ。かと言ってヒーローでもないし、魔族でもない。お前はいったい何者なんだよ」

「僕はただの魔導士さ。でも、訪れた世界を全て壊してしまっているんだけどね。世界を壊さない方法を探しているんだけど、何か知っていることは無いかな?」

「そんなのは知らないよ。この世界を壊そうとするなんて、あんたは破壊神なのか。それなら魔王を探しているっていうのも納得だ。でもよ、俺たちは本当に魔王の居場所は知らないんだ。申し訳ないが、力になることは出来そうもない。この命を奪ったってかまわないが、本当に居場所は知らないんだ」

「あ、それなら大丈夫かも。さっき使った魔法に反応した人がいる場所に行ってみるよ。そこが魔王の居場所か、この世界にいる魔導士の居場所だと思うんだよね。どっちにしろ、そこに行けば魔王に会えるような気がするからさ」

「それってどのあたりなんだ?」

「そんなの教えるわけないじゃない」


 僕は五人に別れを告げると、さっそく僕の魔力に反応があった場所に向かうことにした。距離的には遠そうだったのだけれど、僕にはそれを短縮する魔法があるのであっという間にたどり着くことが出来た。

 その場所は一見すると何もない荒野でしかないのだけれど、魔法による目隠しがされているのは一目瞭然だった。

 僕は入口を探していたのだけれど、どれだけ探しても見つからないのであった。見つからないのなら入口を勝手に作ってしまえばいいかと思って魔法を使う準備をしていると、目の前の空間が開いてそこから人型の魔物が出てきた。


「申し訳ないですが、この結界を壊そうとするのはおやめください。それに、その力を使われてしまうと我々は結界だけでなく多くの者の命も失うことになりそうですので。こちらへいらした目的は何でしょうか?」

「魔王に会いたいんですけど、ここにいますか?」

「魔王様ですとこちらにいらっしゃいますが、その命を奪いに来たのですか?」

「いやいや、そうじゃなくて。僕はある目的のために魔王軍の戦力を高めたいと思いまして、そのために魔王に会いたいなと思っているだけなんですが」

「私には嘘を見抜く力があるのですが、あなた様は嘘をおっしゃっていないようですね。それと、私にはある程度の力を見抜く能力もあるのですが、我々魔王軍の総力をもってしてもあなた様に傷を負わせられるかも判断しかねます。そんなあなた様がおっしゃることならそれは本当なのでしょうね。我々はあなた様に全面的に降伏いたしますので、どうか命だけはお救いくださいませ」

「だから、命なんていらないって。君たちの力をもっと強くしてあげたいだけなんだよ。それ以上でもそれ以下でもないさ」

「わかりました。この場で言い争っても仕方のない事ですし、あなた様が本気を出せばこの城も一瞬で墜ちることでしょうね。では、魔王様の御前へご案内いたしますね」


 この世界のスーパーヒーローも魔王軍もそれほど強力と言うわけではないのかもしれない。僕が使っている気付いていない相手の命をいつでも奪うことが出来る魔法に対して何もリアクションを返してくることが無かったのだ。それだけでも、この世界の人達は魔法に対する危機感を持っていないのだろうな。

 それだけ、魔法と言うものが身近に存在していなかったのだ。僕が生まれ育った地球も魔法なんて信じている人はほんの数人しかいなかったと思うし、実際に使える人なんていなかったと思う。そこまではいかないかもしれないけれど、今までの世界と違って魔法が身近ではないというのは新しい発見がありそうな予感がしていたのだった。

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