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妖精と人間 最終話

 私の前に立っているまー君は相変わらずカッコイイ。私は完全に語彙力を失っているのだけれど、そんな事はどうでもいいくらいまー君はカッコイイ。汚いおじさんばかり見ていたからそう思えるのかもしれないけど、それを差し引いてもまー君はカッコイイのだ。


「なぜ、貴様のような。いや、あなたのような力を持った人間がいるのですか。私よりも圧倒的なその魔力。もしかしたら、私が過去に見てきたどの悪魔よりも底知れぬ強さを感じるのですが、あなたはいったい何者なのですか?」

「君と話をするつもりはなかったのだけど、せっかくだから少しだけお話してあげようかな。僕は君が思っているような感じではなく、普通の人間だよ。人間だって強くなることはあるからね。理解出来たかな?」

「あなたみたいな魔力を秘めた人間がいるわけないでしょう。もしかして、神か悪魔があ人の姿を借りてこの世界に降り立ったのではないでしょうか。そうとしか考えられないのですが、一体その目的は何なんでしょうか?」

「だから、僕は普通の人間ですって。それもわからないんじゃ、人間に簡単に殺されてしまうのも無理ないですね。あなたがどうやって殺されたのかは知らないけど、簡単に殺せるんじゃないかなってのは感じているよ。僕が魔法を使えない普通の人間だったとしてもそれは変わらないと思うよ。君って、妖精王ってわりには簡単に騙せそうな感じだもんね」

「そんなことは無いと思うのですが、人間の卑怯な手に嵌らなければ我々はあのような屈辱的な目に遭うことも無かったと思います。妖精王としてこの地に再び降り立つことが出来るとは思いもしませんでした。千年と言う月日は長いようであっという間でしたが、私を殺した英雄王をこの手で討てないというのは無念の一言に尽きますが、それとは関係なしにあなたとは良い関係を築きたいです」

「ちょっと待ってください。千年前とはいったい何を言っているんですか?」

「人間はそれほど長命ではないので覚えてないとは思うが、千年前の戦いの事も知らぬとは私の命も軽んじられたものだ」

「いえ、そうではなく、千年前にあなたが倒されたというのでしたら、先代の国王の時代まで協力し合っていた妖精はいったい何者だったというんですか」

「私も詳しくは知らぬが、私が討たれた後にこの地に棲みついた悪魔と契約でも結んだのであろう。我々妖精は大人に興味は無いのだからな。何も知らぬ無垢な子供を殺してその力を手に入れることにのみ喜びを見出していると言っても過言ではないのだ」

「そんな。それじゃあ、我々は妖精と信じていたのに悪魔と長い間契約を交わしていたというのですか。先代の王は妖精を裏切ったのではなく、悪魔を裏切ったというのですか」

「そんな事は知らぬ。それは私の問題ではなく貴様らの問題であろう。これ以上貴様と話すことなど何もない。そのまま口をつぐんでおれ」


 ドンポはその場で腰から崩れ落ちた。リツがもうこの世にはいないと知った時以上に悲しそうに見えたのだけれど、どうせそんな事を思ってももうすぐこの世界は終わってしまうんだから気にしなくてもいいのにね。

 まー君は面倒くさそうな顔でドンポを見ていたのだけれど、まー君がドンポの肩を軽く叩くとドンポは安らかな顔でそのまま寝てしまった。アレは魔法を使ったのかな?


「君たち妖精の目的はこの世界を支配する事みたいだけど、そんな事をしても他の勢力から狙われるだけだと思うんだよね。それに、この世界だってもうすぐ終わらせることになっちゃうからさ」

「私達妖精の目的は住みよい環境を手に入れることなのです。あなたが味方になってくれればそれだけで目的は達成されることになると思うのですが、いかがでしょうか?」

「そう言うのは興味無いんだけど、少しだけ君に協力してもらっていいかな?」


 まー君が手招きで妖精王を呼ぶと、妖精王は中腰に屈んでまー君の口元に耳を近付けた。まー君が耳元で何かを囁くと、妖精王もその場に崩れ落ちた。急にバランスを崩した妖精王は打ちどころが悪かったのか、そのまま絶命しているようだった。

 一体何が起こったのだろうと思ってみていると、まー君の周りを一人の妖怪が嬉しそうに駆け回っていた。よくよく見てみると、妖怪に見えた人間は死人の森で見かけたエドラだった。


「妖精王を復活させるだけじゃなく、こうして綺麗な姿で死体を残してもらえるなんてありがたいですね。では、さっそくこの死体を使って僕が妖精王になることにしましょうね。今までの体は人間に近いものでしたので僕の力を発揮することが出来なかったんですよ。でも、妖精王は人間よりも神や悪魔に近い存在ですし、今までの不遇の時代を過ごしてきた分を上乗せしてこの世界を満喫してやりましょうかね。それにしても、体に入り込んだだけでこれほどの力を手に入れることになるとは思いもよりませんでした」

「僕も妖精王の力を手に入れたからお互いに好きな道に進んでいくことにしようか」

「そうですね。でも、私は一つやり残したことがあるので、それをやらせてもらいますね。正樹さん、あなたには本当に感謝していますよ。俺の力を全盛期に近いものにしてくれるなんて、全く思っても見なかったぜ。ただの妖精だって俺は贅沢を言わなかったと思う。でもな、妖精王を復活させるなんて思っても見なかったぜ。なあ、悪い子とは言わねえからあんたの体を俺にくれよ。そうすればもっともっと俺は強くなれると思うんだよ」

「強くなるのは自由だけど、僕の体を使おうとするのは止めてもらってもいいかな。それに、君程度じゃ僕の力を使いこなすことは出来ないと思うよ」

「そんなのはどうでもいいんだよ。要は、俺が強くなれるかどうかって事が重要だからな。だからよ、お前も大人しく綺麗な状態で死んでくれや。って、お前は佐藤みさきだったか。俺とこいつの間に入り込んで邪魔するなよな。魔力のないお前には関係ない話なんだから、女は黙って結論を見守っていろよ。そうだな、正樹の体を俺が手に入れたらお前を使って子づくりしてみようか。お前以外にもたくさん試すから安心していいぞ」


 はあ、この人に協力しようとした私って本当に人を見る目が無いんだな。でも、まー君もこの人に協力していたみたいだしそう言う意味では問題ないのかもね。

 だからと言って、私が何か我慢する必要なんてあるのかな。何もないと思うし、さっきからストレス溜まってるんで、少しくら発散しても問題無いはずだよね。問題があったとしても知らないけどさ。


 私は妖精王の体を使って好き勝手な事を言っているエドラが気に入らない。どれくらい気に入らないかと言えば、おなかに大きな穴をあけてあげたくらい気に入らなかった。

 魔力を持たないものだからって油断し過ぎなんだよな。今時魔力の総量だけで強さを判断するのは危険だよって教えてあげたかっただけなんだけど、ほとんどの内臓が破裂しているんだから生きていないんだろうな。


「ごめんなさい。エドラなのか妖精王なのかわからないけど、殺しちゃった。これから何かするつもりだった?」

「大丈夫だよ。僕は妖精王の力が欲しかっただけだからね。さっき殺した時にそれは頂いたから問題ないけど、みさきもこいつを殺して強くなれたんじゃないかな?」

「どうだろう。あんまり強くなった実感はないけど、それなりに強くなったかもしれないね」

「妖精王の力って思っていたほど強くは無いんだけど、なんか使えそうな魔法があるかもしれないから確認して見なくちゃね」

「ねえ、ハグしてもいいかな?」

「もちろん。僕がみさきを拒む理由なんて何もないからね」


 私はまー君に思いっきり抱き着いた。もちろん、力を入れると壊しちゃいそうなんで細心の注意を払ったうえでの思いっ切りである。


「まー君は妖精王を蘇らせるために子供を集めてたの?」

「そうだよ。幻滅したかな?」

「そんな事ないよ。まー君が強くなるためだったら多少の犠牲は仕方ないよね」

「そうだよね。どうせこの世界はこのまま崩壊していくんだし、未来のない世界にある未来の希望を奪ったって気にすることなんて何もないよね」


 私はまー君に抱き着きながら世界が崩壊していく様を見届けていた。

 まー君も一緒に無言で眺めていた。


 私達の目の前には妖精王の死体を見て慌てているドンポの姿もあったけれど、世界が崩壊していくのだからそれくらい騒がしくてもいいのではないだろうかと思ってみたりもした。


 私達は世界が崩壊するまで一言も言葉を交わすことは無かった。


 二人の唇が重なっていたのだから、言葉など何も必要無かったのだ。

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