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妖精と人間 第四話

 妖精王が復活するのを目の当たりにしたドンポ卿はその姿に感涙していた。私にはその感情はわからなかったけれど、人間の王とは明らかに違うその威厳に満ちた姿は何かを思い出させるようなものであった。


「私が再びこの地に降り立つのは遠い未来かと思っていたのだが、私が想定していない事態に巻き込まれてしまっているようだな。だが、私の従者たちが蘇るにはまだ時間も足りなかったと見えるのだが、なぜこの地に人間の大人がおるのだ?」


 妖精王の問い掛けに気持ちの悪い妖精たちが何かを伝えているようなのだけれど、相変わらず私にはその言葉の意味が分からなかった。


「そうか、人間たちが私を再びこの地に呼び戻すきっかけを作ってくれたのだな。それには感謝するとしよう。そうだな、私に新たな力を与えてくれた人間たちよ、何か希望があれば何なりと申してみよ。私に出来ることなら何なりと叶えてみせよう」

「あの、私の孫娘が行方不明になっているのですが、その子を探しては貰えないでしょうか?」

「貴様は妖精王である私に人探しをせよと申すのか。まあ良い、貴様のその願いを聞いてやろう。ただ、それをするにも少し力が足りぬ。私は復活したばかりで思うように力を使うことが出来ないのだ。そうだな、生きの良い魔導士を二三人用意してもらえないだろうか」

「用意、とおっしゃいますと?」

「私の血肉となる者を用意せよと申しているのだ。それなりに力のある魔導士であればどのような者でも構わぬ。私の力を取り戻すきっかけに過ぎないのだからな」

「そうおっしゃられましても、我々は魔導士を連れてきておりませぬので」

「つまり、貴様らは私を蘇らせるだけ蘇らせてその後の責任は持たぬというのか。そうであれば私は少しだけ自分勝手にならねばならぬようだな」

「ですが、ここにおります佐藤みさきと申す女を召し上がってみてはいかがでしょうか。この者は魔力こそありませんが、数々の魔獣をその手で殺してまいりましたので力は誰にも引けを取りません。いかがなさいますか?」

「貴様は私を馬鹿にしているのか。魔力のない人間など私にとっては何の興味もないただの家畜に過ぎないのだ。そうだな、私に意見を述べている貴様はそれなりに使えそうだが、その後ろにおる者達は使い道も無さそうだ。よし、貴様らだけで足りるとは思えぬが、少しは足しになるかもしれぬ。今回は貴様らで我慢してやるが、次回からは魔導士を用意しておくのだぞ」


 ドンポは私を勝手に差し出したのだが、妖精王は私を食べることを断ってきた。差し出されたのはムカついてしまったけれど、それを断られたというのはさらにムカついてしまった。魔力が全く無いからと言う理由があるのは納得出来るけど、断られるのが即答だったのはちょっと我慢するのも難しいくらいムカついてしまった。

 でも、私が食べられなかった代わりにドンポのお付きの人達がみんな妖精王の体に取り込まれていった。宙に浮いたドンポのお付きの人達はそのままゆっくりと妖精王の体に向かって進みだし、気付いた時にはその体に取り込まれていた。宙に浮いていた人達は何かを言うことも抵抗することも無く、ドンポが一人で叫んでいることを覗けばとても静かな時間が流れていた。


「やはり、この程度の力では足りぬな。魔力の強いものか汚れを知らぬ無垢なものはいないのか。貴様の孫のような幼きものであればよいのだが、この世界には幼きものは極端に少ないようだな。もしや、私を復活させるために幼きものを使ったとするのなら、何たる愚かな行いをしたものだ。全く嘆かわしい」

「妖精王様。私の孫娘はどこにいるのでしょうか?」

「貴様は自分の付き人がいなくなったことよりも孫娘一人の心配をするというのか。全く、人間と言うものは繋がりを重視しているのか希薄なのかさっぱりわからぬものだ。貴様の孫娘はもうどこにもおらん」

「そんなはずはないと思うのですが、私の可愛い孫娘はどこにいるのでしょうか。妖精と仲良くなっているのですから、仲の良い妖精がどこかで守っていてくれると思うのですが」

「貴様は私の言っていることがわからないのか。貴様の孫娘はもうどこにもおらん。そう申しているだろうが」

「そんなことは無いはずです。私の孫は妖精と仲良く遊んでいたのです。今もどこかで妖精と遊んでいると思うのですが、どこに行けば会えるのでしょうか?」

「貴様は何か勘違いをしているようだが、我々は人間と慣れ合うことはもうせぬ。一度ならず二度も三度も裏切るようなものとは無理だろう。貴様は自分の孫娘が妖精と仲良くしていたと思っているようだが、妖精は貴様の孫娘と仲良く遊んでいたのではなく、私のために餌として確保していたに過ぎないのだ。そんなに会いたいのであれば私の腹の中で会わせてやっても良いのだが、その際に貴様らの意識が残っているかは保証できぬがな。だが、貴様は人間どもに対して宣戦布告する際に利用できそうであるし、今すぐに殺したりはせぬので安心せよ。そうだな、この世界を支配したあかつきには貴様の事を私の血肉として取り込んでやっても良いぞ」

「そんなはずはない。私の可愛い孫娘のリツは妖精と仲良しだったんだ。たくさん遊んでいたし、姿が見えなくなるまでは楽しそうにしてたじゃないか。きっと今もどこかで楽しそうに遊んでいるに違いない。おじいちゃんが今すぐ迎えに行くから待っていなさい」

「やれやれ、自分の望まぬ真実からは目をそむけたくなる気持ちはわかるが、現実を受け入れてこれからは私のために誠心誠意尽くすと一言申せば悪いようにはせぬのだがな。所詮は人間である以上物事の本質を見抜くことは出来ぬようであるな。自分が望むことだけが真実ではないと知る良い機会になったではないか」

「じゃあ、あなたはどうしてこの世界で蘇ったというのですか。私の可愛いリツを探してくれるためじゃなかったんですか?」

「私が人間を探すためにこの世界に蘇ったと本気で考えているのだったら笑えないのだが、その顔は本気のようだな。私を裏切った人間とは違う意味で救いようのない人間のようだ。貴様はもう少し私のために働けるのかとも思ったが、貴様の代わりを探すことにしよう。貴様程度の人間であればいくらでも代用が効きそうだしな」

「妖精王だか何だか知らないけど、私の可愛いリツを探せないのだったら復活した意味が無いじゃないか。仕方ない、佐藤みさき、この妖精王を倒してしまえ」

「ははは、魔力を持たぬ人間風情が私を倒すなど片腹痛い。そんな戯言を申したことを地獄の底で後悔するがよい」


 いや、私は別にこの妖精王と戦うつもりは無いんだけど。魔力が無いのは事実だからいいとして、どう見たらこの妖精が私に勝つつもりなのか見てみたいもんだ。割と強い悪魔とかは人の強さを測る尺度が魔力量でしかないみたいなんだけど、この妖精王もそれと同じタイプなのだと思う。私に魔力が無いからって魔導士と戦えないわけでもないし、あなたが使う魔法は全部無効化できるんだけどなって言ってみようか悩んでしまう。黙って一気に近付いて反応を楽しむのもいいかもしれないけれど、今まで戦ってみた相手と一緒でそんなに楽しくない戦いになっちゃうんだろうなって気持ちはあるよね。


「どうした。貴様は私と戦うのが恐ろしいのだろう。完全に復活しているわけではないとはいえ、今の時点でも絶望的な力の差を感じているに違いない。貴様に魔力が無いのはなぜなのか気になるが、その答えを聞くまでもなく貴様はそこで息絶えるのだ」

「さあ、今こそその怪力を振るう時が来たのだ。その魔力を無効化するアクセサリーを使えば何ということも無いただの妖精に過ぎないのだ。佐藤みさき、こいつをやってしまえ」

「魔力を無効化するだと。そんなものがあるわけもないのだが、それが現実に存在するとすれば、この娘に魔力が無いのも納得出来るというものだ。だが、それが本当なのか慎重に調べる必要がありそうだな」

「調べたところで現実は変わらん。佐藤みさきよ、この妖精を早く駆除するのだ。こやつを生かしておいてもろくなことにはならないぞ」


 私は戦うつもりも無いんだけど、好きかって言われていると少しは戦おうかなって気持ちになっちゃうのは不思議な感じだった。

 私が強いのか相手が弱いのかって今までも考えてきたけれど、私に魔法が効かないというだけで相当な優位性があると言えるのではないだろうか。向こうは魔法に頼り切った攻撃しかすることが出来ないと思うし、私はそれを完全に無効化することが出来る。あとは近付いて一発殴ってしまえばそれで終わるのだ。魔力で戦闘力を判断するのは間違いではないのだろうが、それを過信し過ぎるというのは良くない結果を生むことになりそうだ。

 でも、私は戦うつもりはさらさらないのだ。弱い者いじめはあまり好きではないし、この妖精王はまー君がわざわざ時間を割いて復活させたのだから、勝手に殺したりしちゃだめだと思うんだよね。


 そう思っていたけれど、妖精王とドンポがうるさいんでどうにかしてやろうかなって気にはなっちゃうかも。実際に手は出さないようにするけど、二人が黙るようなことってないのかな。

 結局、こいつも倒すしかない状況になってきたし、まー君には悪いけれど、復活した妖精王は私が完全に殺してやるよ。


「そいつを殺しちゃだめだよ」


 私が誰よりも聞きなれた、世界で一番聞きたい声が聞こえてきた。

 いつの間にか私と妖精王の間にまー君が立っていたのだ。

 私はまー君に触れたくして仕方なかったのだが、まだこの世界を壊すのは早いと思って踏みとどまった。


 私達がいてもいなくてもこの世界は終わりを迎えると思うんだけれど、まー君がかっこいところを私はこの目に焼き付けておきたいと思ったのだ。

 その分だけこの世界を長生きさせてあげよう。

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