死刑囚前田正樹 最終話
僕は死刑を宣告されたわけなのだが、今となっては僕の死刑を執行してくれる人が誰もいなくなってしまったのだ。みさきとその仲間の人たちがこの町の住人をみんな殺してしまったのだ。全員殺す必要があったのかはわからないけれど、みさきはこの町の住人は誰一人として生かしてはおかなかったのだった。
この町の住人がいなくなってしまったという事は、僕の拘束具をどうやって外せばいいのかという問題が出てきてしまったのだが、優秀な魔導士がたくさんいるので安心して任せていたのだけれど、どの魔導士も拘束具に触れた段階で魔力の大半を吸収されてしまい何も出来なくなってしまっていた。どんなに優秀だとしても、触れることが出来ないうえに、どんな魔法を使っても全て吸収されてしまうのでは手の出しようもないというものだ。
「ねえ、私のブレスレットはどんな魔法も吸収しちゃうんだけど、その拘束具が魔法で出来ているのだとしたらどっちが強いんだろうね?」
「みさきのブレスレットが対魔法と言う点で見るとこの拘束具並みに強力だとは思うけど、拘束具にかかっている魔法を無効化できたとしてもその後がどうなるのかって問題もあるんだよね」
「そっか、色々持ってきた拘束具も直接触れてしまったらどうすることも出来なくなってしまうもんね。私みたいに魔力が全く無い人って触れても平気なんだけど、ちょっとでも魔力がある人が触れるとまー君並みにとはいかないまでも、割と面倒な感じに拘束されてるもんね。それにしても、まー君って顔しか見えなくてもいい男だよね」
「ありがと。でも、みさきも変わらずに可愛いよ。それにさ、この拘束具に触れても平気なのってみさきだけじゃない?」
「そうかもしれないね。唯ちゃんも私と同じで魔法が使えないんだけど、この拘束具を当ててみたら思いっきり反応しちゃったからね。私だけ何の反応も無かったから、少しだけ仲間外れにされている気分になっちゃったよ」
「仲間外れではないんだけどさ、この場合は特別って事じゃないかな。みさきは僕にとって特別な存在であることは間違いないんだけど、それとは違う意味で特別ってことだよね。そうそう、唯は今どこにいるのかな?」
「唯ちゃんなら医療施設で安静にしているけど、警備の人とかもいるから安心していいよ。まー君がどんな人かこっちの人たちは知らないんだけど、凄い魔法を使う男の子だよって事は説明してあるんだよね。その拘束具が無ければまー君はこの町の人が束になってかかっても平気だと思うんだけど、そんな感じの説明で間違ってないよね?」
「うん、大体そんな感じで良いと思うよ。僕も魔法の仕組みとかはよくわかってないんだけど、僕もみさきと一緒で殺した相手の力を僕の中にいる奴が吸収しているみたいなんだよね。力と魔力で別かもしれないけど、敵を殺せば殺すほど強くなっていくってのは同じだと思うんだ。みさきって、あの町で少しは強くなれたかな?」
「それはどうだろうね。正直に言うと、人間程度を殺したところで手に入る力はほとんどないようなもんなんだよね。やっぱり、どっか魔物がいっぱいいる世界に行ってたくさん殺した方が強くなれるのかな?」
「それはそうかもしれないけど、そこまでしてみさきは強くならなくてもいいと思うんだよね。みさきは強くならなくったっていいし、何かあったら僕が守ってあげるからね。でも、こんな拘束された状態で言っても説得力はないけれどね」
「ううん、そんな事はないよ。そう思ってくれるだけでも私は嬉しいよ。唯ちゃんがいつ元気になるかはわからないけど、唯ちゃんが元気になったら三人で仲良く暮らそうね。それにしても、こんなに長くいるのにこの世界が崩壊する兆しも見えないんだけど、それってなんでだろう?」
「もしかしてだけど、世界の崩壊には僕の魔力が必要になるのかもしれないね。あの神にそんな力があるように思えないし、僕の魔力とみさきの力が触れることによって物凄い反応が起こって世界が崩壊してしまっていたのかもね」
「その可能性って高いかもね。じゃあさ、その拘束具を付けていたらまー君とずっと一緒にいられるってことなのかな?」
「今のは仮説にしかすぎないけど、今の状況を考えるとその可能性は高いと思うんだよね。今までも一緒にいてしばらくは平気だったりしたけど、今はその時と違って何か起こりそうな感じがしないんだよね。むしろ、みさきと一緒にいることで落ち着いた時間を過ごせているように思えるんだ」
「私もだよ。でも、今の状態のままだと一緒にいるだけで何も出来ないよね。今のまー君は一人で起き上がることも出来ないんだから、私が傍で支えてあげないといけないもんね。でもさ、私は今の状況でも一緒に居られて嬉しいんだよ。それだけは忘れないでね」
「僕もみさきが傍にいるだけで嬉しいよ。そう言えば、何か困っていることがあるって言ってたと思うけど、それって僕がどうにか出来ることだったりするかな?」
「どうでもいい事だったんですっかり忘れていたけど、私がお世話になっているおうちのヒカリちゃんって子がいるんだけど、その子のお母さんもおばあちゃんも凄い魔導士なんだよね。でも、ヒカリちゃんはそんな二人の血を継いでいるのに魔法が笑っちゃうくらい苦手なんだよね。そんなヒカリちゃんでも二人みたいに強い魔導士になれたりするかな?」
「どうだろうね。僕はそのヒカリちゃんに会ったことが無いんでその質問には答えられないんだけど、どんな子なのかな?」
「人としては凄くいい子だよ。自分がダメな魔導士だって自覚している分だけ他の人にも優しかったりするからね。私が一切魔法を使えないのを知ってもバカにしてきたりとかは無かったし、一緒にいて楽しかったりするよ。でも、まー君を見たら惚れちゃうから会わせるのはちょっと嫌かもね」
「それは無理やりつけられた能力だから仕方ないじゃないか。でも、みさきは他の人たちと違ってずっと冷静だよね」
「え、だって、その能力が無くたって私はずっとまー君の事が好きだからね」
「そう言ってくれるのは嬉しいよ。でも、僕だってずっとみさきの事が好きだよ」
「もしかしたら、ヒカリのおばあちゃんとお母さんもまー君に惚れちゃうかもしれないってことだよね。それはますます会わせられないかも。魔法を使う人って私とは根本的な考え方が違うような気がしているんだよね。ん、それってもしかして、私が変だってことなのかな?」
「そんなことは無いと思うけど、みんなと一緒じゃなくてもみさきはみさきで良いと思うよ。僕も人とは違うところがたくさんあるしね。それって個性だと思うよ」
「そっか、個性は伸ばしていった方がいいかもしれないもんね。私ももっと個性を伸ばしていこうかな。って、ヒカリはどうしたらいいと思うかな?」
「そうだね。どんな手を使ってもいいって言うなら簡単な方法があるんだけど、それはみさきの協力が必要になるんだよね」
「どんなことをすればいいの?」
「この世界で一番になりたいんだったら、他の魔導士をみんな消しちゃえばいいんだよ。最後の一人になっちゃえば、必然的に世界最強になれるってわけだからね」
「そっか、そんな方法もあるんだね。私はヒカリを強くする方法ばっかり考えていたよ。でも、魔法が使えないからアイデアなんて一つも出なかったんだけどさ。さすが、まー君だよね」
「ま、消すと言っても本当に殺すんじゃなくて、この拘束具を付けてしまえばそれで魔導士は何も出来なくなっちゃうんだけどさ。みさきで例えると、思いっきり戦おうとしているのに壁に挟まれて全く身動きが取れないみたいな感じかな」
「壁に挟まれたことは無いけど、なんとなくまー君が伝えたいことは伝わったよ。私もヒカリのために何か頑張らないとね」
「魔法を使える僕から言わせると、魔法が全く効かないのに力が凄い人が頑張ってたら何もしないで降伏しちゃうかも。ほとんどの人がそうだとは思うんだけどね。そんな中でもみさきは純粋に戦いを楽しんでいるようにも思えるんだよね。と言いつつも、僕も魔法を使えることに喜びを見出していたりするんだけどさ」
僕は拘束されたままではあるのだけれど、みさきがお世話になっている家族のヒカリと言う子供の願いを聞いてあげることにしたようだ。ヒカリがどの程度の魔導士なのか見てから出ないといけないのだが、僕は直接女の子に会ってしまうと相手はみんな僕に惚れてしまうから難しい話になってしまう。
それでも良いと。それでも頑張れるというのならば僕が止める権利と言うものは無いだろう。みさきがお世話になっている分も含めて、僕はヒカリが強くなる方法を考えることにしたのだった。