最強になりたい魔導士 最終話
シャワー室もお風呂も見つからなかったんだけど、今できることを先にやっておこうと思ってフェリスさんたちのいる正面に向かっていった。途中に生き残った魔物もいたんだけど、みんな私と目が合う前に逃げ出してしまっていたのでそのままにしておいた。追いかけてとどめを刺すことは簡単なのだが、今はそんな事に時間を使っている余裕もないのだ。早くフェリスさんと合流してシャワーを借りることの方が重要だと思うのでね。
血だらけの私を見てフェリスさんは驚いていたし、フェリスさんの仲間の人は悲鳴をあげてそのまま気絶してしまった。随分と気の弱い人がいるもんだなと思っていたのだけれど、私の後ろにさっきの鎧の魔物がついて来ていたのだった。私はずっとその事に気が付いていなかったんだけど、気付いてしまったら相手をしない訳にもいかないので、一思いに殺してあげようと考えたので、そのまま頭を叩き割って心臓をえぐり取ってあげた。きっと、私に殺されたことでスッキリした気持ちであの世に旅立つことが出来るだろう。
「あれ、血まみれなんで気付かなかったけど、みさきちゃんなのかな?」
「はい。みさきです。今の人があの城の城主だったらしいんですけど、鎧が武器になってうざかったんで全て剥いでみたんです。そうしたら、その鎧が皮膚と同化していて、酷いところは骨も鎧と同化していたんですよ。全部剥がすの大変だったんですよ」
「全部剥がしたって、あの魔物の鎧を全部はぎ取ったってことなの?」
「そうなんですよ。体にくっついちゃってたんで大変だったんですよ。簡単に脱げればいいのに、あんなので防御力をあげるのってずるいと思いません?」
「私達も装飾品で魔力を強化しているから一概には言えないけど、そこまでして強化していたんなら凄いなって思うよ。みさきちゃんは何か特別な装飾品で能力あげたりしてないの?」
「私は魔法を吸収するブレスレットを付けているだけで充分だと思うんですよね。でも、まー君がアクセサリーをくれたらそれは大事にすると思いますよ。早くまー君に会いたいんですけど、まー君に会ったらこの世界も終わっちゃうと思うんですよね」
「前も食事の時に言ってたけど、世界が終わるって本当なの?」
「本当ですよ。前にいたところもなくなったみたいですし、私達が元々いた世界も悪魔とか天使とかそんな奴らのせいで人が住めない世界になっちゃったみたいですからね。私はまー君と一緒にずっと暮らせる世界にしたいんですけど、そのためには私達にこんな呪いをかけた神を自称する奴をどうにかしないといけないと思っているんですよね。まー君もそう思ってると思うんですけど、そういうことを聞く前に世界が終わって違う世界に飛ばされちゃうんですよね。どうしたらいいんでしょうね」
「もしかして、みさきちゃんが直接聞いたらダメなのかもだけど、私がみさきちゃんの代わりに聞くのってどうなんだろう?」
「どうなんでしょうね。まー君に聞くのをお願いしてもいいですか?」
「聞くだけなら大丈夫だよ。でも、私に本音で答えてくれるかな?」
「まー君は優しいから大丈夫だと思いますよ。あ、ここのバリアの発生装置を壊してくるので、お風呂の用意をしてもらってもいいですか?」
「わかったよ。バリアさえなければ私達で城の残党を狩りつくすことが出来るからね。その間にみさきちゃんは浴びた返り血を綺麗に落としておいてね」
「ありがとうございます。ヒカリのために取ってきたキノコも誰かに渡しといていいですか?」
「魔法のキノコかな?」
「そうです。このキノコを食べたら魔力が高まるって聞いたんで、ヒカリのために取ってきたんですよ。忘れてたけど、森の入口でテンスたちが私の帰りを待ってるんだった。でも、どこで待っているかがわからなくなっちゃったんですよね」
「それなら大丈夫よ。私達は同じ町の魔導士の居場所を察知することが出来るんで、そっちも誰かを迎えにやってここに来てもらう事にするわ。それなら安心でしょ」
「ありがとうございます。私って方向音痴ではないと思ってたんですけど、初めて来たところだから普通に戻ることも出来なかったんですよね。じゃあ、心配もなくなったし、バリアの発生装置を壊してきますね」
さて、早いところバリアの発生源を全部壊してお風呂に入らないとね。血まみれの女の子ってちょっと猟奇的過ぎるけどまー君に見られてなくて良かったな。でも、この返り血を浴びたのだって私が悪いわけじゃないし鎧の魔物が悪いんだもんね。
それにしても、バリアの発生装置ってどれなんだろう?
誰か連れてくれば良かったかなって思っていたところ、私を見て逃げ出した魔物がいたの。深い意味は無かったんだけど、そいつを捕まえてバリアの発生装置を聞いてみたんだ。言葉が通じなかったみたいなんで顔を握りつぶしちゃった。また返り血を浴びてしまったな。
その後も隠れている魔物を見付けては質問をしてみたんだけど、誰も言葉が通じなかったので、私は手当たり次第に魔物を破壊して回っちゃった。
その後もバリアの発生装置を探して回ったのに、それっぽいのは見つけられなかったんだよね。でも、そんな私のところにフェリスさんがやってきたの。バリアがあるのにどうやって入ってきたんだろうって思ってたら、この城を覆っていたバリアが無くなってたんだって。
私は勘違いしていたみたいなんだけど、バリアの発生装置は機械じゃなくて魔物の能力だったんだって。
たまたま生き残っていた魔物を破壊したらバリアも解けたみたいなんだけど、他の魔物と違ってバリアを形成する役割があったから城から出られなかったのかもね。
そう考えるとちょっとそんな役割を引き受けちゃったのかな。
私はフェリスさんたちが用意してくれたお風呂に入りながらも人の役割について考えてみたんだけど、この世界では強いだけじゃなくて弱くても役割が与えられていて大切にされているのかなって思っちゃった。異世界ってもっと弱肉強食がハッキリしているのかと思っていたけど、弱くてもバリアを張ってみんなを守る役割とかもあるんだなって思っちゃった。
強いだけが全てじゃないんだなって思っていたら、少しのぼせちゃったみたい。お風呂から出て少しだけ休憩しておこうかな。
私はいつの間にか眠っていたようで、目が覚めると馬車に揺られていた。記憶はないのだけれど、服も着ていたし人前に出ても問題ない姿ではあった。
私がきょろきょろと辺りを見回していると、隣に座っていたテンスが優しくほほ笑んでくれた。私の持ってきたキノコを見ていたのをごまかすために微笑んだかもしれないのだが、それには何も言わないでおこう。
「それにしても、この魔法のキノコって変わった形をしているよな。普通のキノコってもっと先っぽが広がっているのに、これって茎が膨らんでいるだけに見えるんだよな。先っぽもなんか割れているし、変わった形だよな」
テンスがそう言って仲間に質問をしていたのだけれど、一緒に来ている仲間は顔を赤らめてうつ向いていた。もしかしたら、この中で男性のモノを見たことが無いのはテンスだけなのかもしれないと思っていたけれど、それについても何も言わないでおくことにしよう。
その後もテンスはしつこいくらいキノコの話を他の仲間にしていたのだけれど、みんな何も言わずに目を逸らしたら軽くほほ笑んだりして誤魔化しているようだった。
家に帰るとフェリスさんはヒカリに会う前にキッチンにこもって料理を始めていた。ヒカリがキノコを見る前に調理を開始していたのは親としての愛情なのだろうか。私にはそこまでの意図をくみ取ることは出来なかった。
出てきた料理はどれも美味しそうだったのだけれど、私もフェリスさんもその料理は食べなかった。ただ、ヒカリはとても美味しそうに食べていた。なるべく形がわからないように調理をしていたみたいだったけれど、クリーム煮はダメなんじゃないかなって個人的には思ってみたりもした。
「ねえ、魔法のキノコを食べた私は前よりも魔力が増えたかな?」
「私はわからないんですけど、フェリスさんはどうだと思いますか?」
「そうね、元が少なかったからわからいにくいんだけど、今までのトレーニングの効果がより出やすくなっているようには見えるかもね。でも、もっともっとトレーニングを積まないとダメよ」
「そっか、食べるだけじゃなくてトレーニングもしないといけないんだね。それにしても、あのキノコってどんな形だったんだろう?」
「普通のキノコとそんなに変わらないと思うわよ」
「そうなのかな。テンスは変わった形だったって言ってたけど、次は料理する前にどんな形なのか見せてね」
「お母さんはキノコを採りに行くことは無いし、みさきちゃんだってもう採りにいかないと思うわよ」
「そっか、それなら私が強くなって採りに行くしかないんだね。どんな形なのか気になるな」
私はキノコを採りに行くのは構わないのだけれど、もう一度あそこに行ってもキノコを採ってきてくれる魔物に出会えるかはわからなかったので明確な答えを提示することは出来なかった。
それにしても、本当にアレはキノコだったのかな?