最強になりたい魔導士 第四話
一生懸命走ったおかげか、私はテンスたちに追いつくことが出来た。途中にフェリスさんたちとすれ違ったような気もしていたのだが、一瞬の出来事だったので挨拶をすることも出来なかった。帰りにまだいるようだったらちゃんと挨拶しておかないとね。
テンスたちは私がいることに気が付くと、そそくさと近付いてきて短い枝を折るとそれを私に手渡した。
「この枝はお互いの居場所を確認するものだから無くさないでね。魔法で位置を知らせているわけじゃないからその腕輪でも無効化できないと思うけど、あんまり離れたら教えてくれなくなるからね。また近付いてくれば大丈夫なんだけど、その時はびっくりして壊さないように気を付けてよ。ずっと前だけど、反応に驚いたヒカリが壊したことあったからね。みさきさんは大丈夫だと思うけど、無くしたりしちゃ帰ってこれなくなるかもしれないからね」
「ありがとう。テンスって優しいよね。ヒカリの事についてもだけど、私にも優しいのってテンスは良い人オーラを隠せない天然で良い人なんだね」
「そんな事ないって、早くキノコを探しに行ってきなさいよ」
「探せって言われてもさ、どんなキノコかわからないし魔力を感じる力だって強くないんだよ。なんかヒントとかないのかな?」
「ヒントって、私も見た事ないんだけど、おばあちゃんが言うには男の人のアレに似てるって話だけどさ」
「アレって何?」
「アレはアレだよ。ほら、大きくなったりするやつ」
「ああ、アレか。でも、それって人によって違うっていうし、テンスはどういうのだと思う?」
「はああ!? そんなの知らないよ」
「テンスは見た事ないのかな?」
「小さいときにお父さんのは見たことあるけど、それとは形が違ったりするんだって聞いたけど。ちょっと、何言わせてんのよ。怒るよ」
「そっかそっか、ごめんね」
「てか、みさきさんは見たことあるの?」
「ふふ、内緒だよ」
「何よそれ!!」
そっか、アレに似てるのか。じっくり見たことは無いんだけど、見つけたらじっくり観察してみようかな。もちろん、テンスたちにも見せてあげないとね。
それにしても、なんだか空気もジメジメしてるし木陰になっているせいか薄暗いし、私を襲ってくる魔物も多いし、ここは良いところとは言いにくい環境ね。襲ってくる魔物も前にいたところよりも強そうに見えるんだけど、戦ってみた感じは依然と同じかもしれないわ。あんまり手応えのある相手に出会ったことも無いんだけど、楽に戦えるってのは良い事なんだけど、こうも手応えが無いと単純作業をしているようにしか思えないんだよね。単純作業は嫌いじゃないんだけどさ。
キノコ探しに夢中になっていて気が付かなかったんだけど、いつの間にか顔色の悪い緑色の小人に囲まれていたんだ。私は気にしないでキノコ探しの続きをしていたんだけど、向こうはそうもいかないようで、私に向かって槍を投げてきたり落ちている石を投げつけてきたりしていたよ。当たっても痛くは無いんだけど、その行動に少しイライラしてきたかもしれないな。
あんまりイライラしたくないんだけど、ちょっとしつこいのがうざくなってきたかも。とにかく、こいつらが使っている言葉も何なのかわからないし、私の言っていることも理解していないみたいだから本当にムカついてきたかも。私に物を投げながらニヤニヤしているのも気に入らないな。よし、こいつらは殺しちゃおう。
いったん殺すことに決めてからの私は今までに無い位冷静に事を進めることが出来た。相手が抵抗しようが逃げようが関係なく、私はこいつらの体がバラバラになるように全部引きちぎってやった。一体一体にじっくり時間をかけるわけにもいかないので、最初は足を中心に狙っていたんだけど、逃げる奴らもいなくなったんで今度は腕とか頭とかを思いっ切り引きちぎってあげた。もちろん、抵抗はされてしまったけれど、私にとってそんなものは毛布を掛けられている程度のモノだったので一切気にすることなく目標は達成することが出来た。
これでキノコ探しに精を出せると思っていたのだけれど、私が殺した小人を食べに集まってきた魔物がいたのだが、小人を食べつくすと今度は私を狙おうとしていたのだ。
四十体くらいいる大型の魔物が私を取り囲んでいるのだけれど、その中の一体が私の前に出てきた。他の魔物を威嚇して制止させると、私のすぐ目の前までゆっくりとやってきた。
「あなたの戦いを見ましたが、我々よりも残酷ですね。普通に殺すのではなく、楽しんで殺しているように見えたのですが、あなたの目的は何なんでしょうか?」
「魔法のキノコってのを探しに来たんだけど。人間の言葉を話せる魔物がいるんだってびっくりしているよ」
「普通の魔物は人間の言葉を理解はしていても使うことは出来ないんですよ。でもね、私は普通の魔物ではないんです。もともとはあなたと同じ人間だったんですよ。私は、人間をやめて魔物に進化したんです。それも、飛び切り強くなってしまったんです。私が人間の時に手に入れた知識と、魔物になってから手に入れた力を合わせれば、無敵になるのです。この森は魔法を使えない状態にあるのですが、私はもともと魔法を使えない人間だったので問題はないのですよ。いいですか、人間の頭脳と魔物の力があればどんなやつだって簡単に倒すことが出来るのです。私の唯一の弱点である魔法を使うことのできないこの森は、私にとって最高の環境であり、あなたにとっては最悪の環境だと言えるんですよ。そこで提案なのですが、あなたは人間の雌ですよね。人間でもある私の子供を産んで最強の一族を作り上げましょう。もちろん、外にいるあなたの仲間も誘っていただきますがね。もちろん、私のこの誘いを断るつもりはないですよね?」
「普通に断りますけど。あなたみたいな気持ち悪い人は嫌いですから」
「気持ち悪いだと。お前たち女はいつもいつもいつもいつも人を見た目だけで判断しやがる。俺が下手に出ているのをいいことに、調子に乗って後悔しても知らないからな。俺の強さがわからないみたいだから教えてやるけど、こいつら程度ならまとめてかかってきても俺の相手にならないくらいの力を持っているんだぞ。お前みたいな華奢な女の一人や二人簡単に殺すことが出来るって言ってるんだよ。いいか、俺の言うことを聞いていれば悪いようにはしないから大人しく従えって言ってるんだよ。俺の力を見た後だったらこんなに優しくはしないからな。いいか、見ておくんだぞ」
私を気持ち悪い言葉でナンパしようとしてきた気持ち悪い人は何を思ったのか、近くにいる魔物を襲いだした。もちろん、魔物は抵抗しているのだけれど、割と簡単に抵抗をやめて服従のポーズをとっているように見えた。これはやらせなのか芸を仕込んだだけなのか気になるけど、どっちでもいいやって思ってしまったな。
私はこいつに従わないってことをちゃんとわからせないといけないなと思って、こいつが襲った魔物以外をみんな殺してしまおうかな。抵抗されても無抵抗でも関係ないし、調子に乗っているこいつにわからせてやらないといけないもんね。それに、こいつの連れている魔物もそんなに強そうには見えないし、軽く片付けてしまおうね。
私はナンパしてきた魔物のすぐ隣にいる大きな魔物から時計回りで倒していくことにしたんだけど、こいつは私が四体目を始末するまで何をしているのか気が付いていないみたいだった。五体目に手を出した時に何かを言っていたようにも聞こえたけど、その言葉の意味までは分からなかったので続けることにしちゃった。何を言っているかわかってもやめたりしないんだけどね。
三十体以上を倒すのは時間がかかるのかなと思っていたけれど、途中から魔物が逃げまどったりしなくなったのでそれほど手間はかからなった。でも、素手でやるのは女の子として考えるところはあるよね。もっと可愛らしい方法が無いかなって思ったんで、帰ったらヒカリに相談してみようかな。
「その強さはいったい何なんだよ。こいつらは頭は悪いけど力だけは超一流なんだぞ。力が強いってことは打たれ強さだって凄いはずなのに、なんでそんな華奢な体でこいつらを倒せるんだよ。それも、素手っておかしいだろ。あんたは本当に人間なのか?」
「私は普通の人間だよ。ちょっと人より強くなる才能があるだけで、それ以外はいたって普通の人間です」
「そんなわけないだろ。鉄よりも固い皮膚を素手で貫き、世界でも類を見ないくらいの速さで動ける魔物をあっさりと捕獲し、恐ろしいほどの怪力を持つ魔物の攻撃を簡単に受け止める。そんな人間が普通なわけないだろ。いったい何が目的なんだ。俺を殺すために来たのか?」
「いや、あんたの事なんてここに来るまで知らなかったし、私は魔法のキノコを探しているだけなんだって」
「魔法のキノコか、アレを探している人間は久しぶりに見たのだが、そのキノコをどうするつもりだ?」
「私がお世話になっている人にあげるんだけど」
「自分のためではなく他人のために危険を冒してここまで来たというのか?」
「他人のために来たってのはあるけど、危険だとは思わなかったけどね」
「そうだな。あんたくらい強ければ危険な事なんてほどんどないんだろうな。ちなみになんだが、マグマの上を歩くことは出来るのかな?」
「マグマの上なんて歩いた事ないけど。熱いのは苦手だし」
「そうか、では私があんたの代わりに魔法のキノコを採ってきてあげよう。その代わり、命だけは助けていただけないだろうか」
「キノコが手に入るならあんたの命なんていらないし、採ってきてもらえるならそれでいいよ」
「良かった。あのキノコはマグマだまりの近くに自生しているのだ。あんたが探しているキノコは高温の環境でしか育たない特殊なものだからな。人間のあんたでは近付くことも出来ないだろうよ。でも、私が命を懸けて採ってくると誓おう」
「命を懸けるなら死んでも変わらないじゃない。でも、キノコはお願いね」
私はこの魔物の後をつけて行ったのだけれど、確かにどんどん気温が上がっているように感じていた。もう少し快適な環境がいいなって思ってたんだけど、熱いところじゃないとキノコが育たないってのは面倒だな。魔物もそうだったけど、ここよりも熱くなっていくと普通にたどり着くのも難しいんだなって思うよね。
てか、本当に暑すぎるよ。これ以上進むのは無理かも、キノコだけ採ってきてもらう事にしちゃおうかな。
「ねえ、本当に暑いんだけど。これ以上行くのは無理だよ」
「ここまでついてきたのも凄いですけど、ここからは私が行ってきますよ。すぐに戻ってくると思うんで、途中にあった湖で待っていてくださいね。あの辺ならそこまで熱くないと思いますから」
「そうするよ。出来るだけ早く持ってきてね」
私は自分で思っていたよりも暑さに弱かったのかもしれないな。夏よりも冬の方が好きだし、そう言うところもあったのかもしれないね。
でも、一番好きな季節は春かもしれないな。
まー君と付き合えたのも春だったしね。