最強になりたい魔導士 第三話
魔法が使えないものと魔法が得意ではないものの修行なんて適当なもので、お互いに良さそうな事をそれっぽく行っているだけの単純なものだった。
私には魔法を使うという感覚がさっぱりわからなかったし、ある程度強い魔法を使うためには新しい精霊なり悪魔なり天使と契約を結ばないといけないらしいんだよね。じゃあ、それに会いに行って契約しちゃえばいいじゃないと思ったんだけど、その辺で気軽に会えるわけでもなくほとんどが辺鄙な場所か人間のたどり着けない場所にいるらしいんだ。私一人だったら何とかなるかもしれないけど、ヒカリを連れてそう言った道のりを乗り越えるのは無理そうなんだよね。きっとこの子は体力がそんなにないと思うし、たどり着くまでにお腹が空いて倒れちゃうと思うからね。
今日も修行を早々に切り上げてお菓子作りを始めちゃったんだけど、こんなに食べてばかりだったら太ってしまうんじゃないかなって考えるよね。でも、ヒカリの作るお菓子って甘いのは甘いんだけど妙にさっぱりしてて、口当たりが軽いというか、いくら食べても太らなそうな感じはするんだよ。体重計が無いから実際の体重がどう変化しているのか知らないんだけど、スタイルは崩れてないから大丈夫なんじゃないかな。きっとね。
「みさきちゃんって、恋人がいるって言ってたけど、今は会えなくて寂しくないの?」
「会えないのは寂しいけど、今は会えたとしてもその時間が限られているから、その限られた時間を伸ばす方法を探しているんだよね」
「あんまり時間が無いのか。それなら、会った時のためにも自分をたくさん磨いておかなくちゃね。お菓子作りもその一環としていいんじゃないかな?」
「まー君はあんまりお菓子を食べてた印象無いんだけど、ヒカリの作るお菓子はいくらでも食べちゃうくらい美味しいからいいかもね。なんでこんなに食べやすくておいしんだろう」
「そう言ってくれると嬉しいな。私も自分で作ってたくさん食べちゃうのは良くないなって思ってたんだけど、みさきちゃんも食べてくれるから気にしなくていいもんね」
「ほかの人にはあげたりしてないの?」
「お母さんもおばあちゃんも私の作るお菓子を食べてはくれるんだけど、一つか二つくらしか食べてくれないんだよね。テンスたちにあげることもあるんだけど、あの子たちって魔力を高める食材しか食べてくれないんだよね。だから、お菓子もそんなに食べてくれないんだ」
「魔力を高める食材なんてあるの?」
「この世界にはいくつかあるんだけど、その中でもこの国に自生している魔法のキノコってのが凄いらしいよ。食べたことは無いんだけど、それを食べると潜在的な魔力量が高くなるって話なんだよね。ただ、食べ過ぎると体にかかる負担が大きくなるって言うし、中毒性も高いみたいで過剰摂取は危険だってお母さんが言ってたよ。昔はいくらでも食べることが出来たみたいなんだけど、今はほとんど市場にも出回らないんだって」
「そんなに貴重なら探してみる価値はあるかもね。私達って魔法の修行よりもそれを探す方が向いているかもしれないしさ」
「うーん、それもいいかもしれないけど、危険な場所にしか育たないって言ってたよ。その魔法のキノコが生えているエリアは魔法が使えなくなってしまうみたいで、そんな中を探さないといけないみたいなんだよ。そのキノコがどんな形でどんな色なのかはお母さんに聞いてみないとわからないんだけど、教えてくれないと思うんだよね。私も何度も聞いてみたんだけど、ちゃんと教えてくれたことなかったからさ」
「魔法が使えないエリアって言ってたけど、私はもともと魔法が使えないから関係ないんじゃないかな。その場所がわかれば私一人で行ってくるけど、それでもフェリスさんは教えてくれないと思う?」
「どうだろうね、晩御飯の時に聞いてみようか」
その日の夜もフェリスさんは返ってこなかったのだが、代わりにおばあちゃんがキノコについて教えてくれた。
自生している場所にはキノコの魔力を求めて多くの魔物が集まっているらしいこと。
それらの魔物も魔法を使えなくなっているのだけれど、それはキノコが周りの魔力を根こそぎ吸収してしまっているからだそうだ。
キノコの生えているエリアは立ち入り禁止にはなっていないのだけれど、そのエリアの特性もあり、何かあっても助けに行くことは難しいとのことだ。この国の戦力はほぼ魔導士だけなのだが、魔法が効かない相手や魔法を使うことのできない状況になると途端に無力になってしまう。私は魔法が使えないのでそう言った時でも役に立てると思うのだが、正直に言ってこの世界でも私の力が通用するのか確認しておけばよかったと思っている。でも、魔物が相手なら何とかなるだろうね。
今日もヒカリと一緒にお風呂に入って一緒に寝たのだけれど、明日からは少し別々に過ごすことになりそうだ。私はキノコを探しに行ってくるのだけれど、ヒカリはそれについてくることはないのだ。
キノコの生えているエリアはそれなりに遠いし、万が一の事態になってもヒカリを助けに来る人がいないのだ。私が一人で完璧に守ることが出来ればいいのだけれど、乱戦になったらそう言うわけにもいかないだろう。
そこで、おばあちゃんが話を付けてくれてテンスたちが私に同行してくれることになった。彼女たちはそれなりに戦えるらしいし、身の危険を感じたら躊躇なく安全な場所に逃げることが出来るような魔法も取得しているそうだ。もっとも、逃げる魔法を取得することは戦場に出るための最低条件の一つとして制定されているそうなのだが、ヒカリはその魔法も使うことは出来ないらしい。正確に言うと、使うことは出来るには出来るのだが、その移動距離が極端に短く使い物にならないそうだ。
相手を倒すことよりも自分の身を守ることが大事だと、この国ではそう言われている。そのためかはわからないが、この国では魔法を使うことのできない男性は戦闘に参加することは基本的に無いのだ。それゆえに、騎士団なども無いのだが、町を守る自警団はいたるところにあるらしい。自警団の主な仕事は軽犯罪の取り締まりだろうだが、その程度の力しか持たない方が治安的にもいいのかもしれないね。力と権力を持ったものが取り締まると良くないことがありそうな予感もしているからさ。
「じゃあ、私達はみさきさんと一緒に行ってきます。でも、エリアの近くまでしか本当に行きませんからね。私達も自分の身をわざわざ危険にさらす気はないですし。それに、魔法を使えないエリアだからみさきさんを助けることだってできませんよ。何かあったらすぐに戻ってきますからね。本当に見捨ててもいいんですよね?」
「大丈夫だよ。私はこう見えて強いからね。魔物くらいだったら何とでもなると思うよ」
「自信たっぷりなのは良いんですけど、あんまり油断して死んだりしないでくださいね。じゃあ、行きますよ」
「ちょっと待って。良かったらこれなんだけど、持って行ってくれないかな?」
今から出発しようというところでヒカリに呼び止められたのだが、そのヒカリが私たち全員に手作りのお菓子を手渡してくれた。いつもの美味しいお菓子だとは思うのだけれど、いつもよりも甘くていい匂いが袋越しに伝わってきた。
「ありがとうね。でもさ、こんなに甘い匂いを漂わせてたら魔物に襲われちゃうかもしれないよ。ヒカリは私達を魔物に襲わせたいの?」
「え、そんな事はないけど。ごめんなさい」
「冗談だって、でも、ありがとうね」
テンスはそう言いながらも嬉しそうにはにかんでいた。よく見ると、テンスの仲間たちもみんな嬉しそうにしていた。
私もそれを見て少しだけ嬉しい気持ちになった。
「さあ、今度こそ出発だよ」
そう言って飛び立ったテンスたちを私達は見守っていた。
あれ?
私も一緒に連れて行ってくれるんじゃなかったっけ?
「もしかして、その腕輪の効果で飛翔魔法が無効化されちまったんじゃないかね。これはどうしたもんかね」
「そんな事ってあるの?」
「その腕輪は魔法を何でもかんでも無効化してしまうみたいだからね。仕方ないから馬車を手配しようかね。あの子たちには悪いけど、こればっかりは仕方ない事だよ」
「ああ、どうしよう。でも、私は走って追いかけます。きっと追いつくと思うんで。地図の場所だけ確認していいですか?」
私は目印になりそうなものと目標地点を一生懸命に覚えた。どうせ地図を見ても覚えられないし、一生懸命に走っていればテンスにも追いつけそうな気がしていたからね。
魔法が効かないにしても、私に都合のいい魔法は効果があるようにしてくれたらよかったのに。そう思いながら真っすぐに走っていると、上空を飛行するテンスたちの姿を見付けることが出来た。なるべく他人に迷惑が掛からない道を進むようにしていたけれど、多少は迷惑かけちゃったかもしれないな。
「ねえ、みさきちゃんって思いっきり走って行っちゃったけど大丈夫かな?」
「あんなに速く走れる人は見たことが無いけど、他の世界から来ているみたいだし大丈夫なんじゃないかね?」
「そうじゃなくて、みさきちゃんの走っていった方向にはお母さんたちが戦っている魔族の城があるんじゃなかったっけ?」
「そう言えばそうだったね。でも、わざわざその城に行くことも無いだろう。あの近くはフェリス達が張っている結界によって外部とは遮断されているからね」
「それなら安心だね」