コウコの復讐 最終話
僕がコウコと何の条件も無く普通に戦えば負けることは無かっただろう。少しくらいのハンデを与えたとしても負けることは無かったと思う。ただ、今回は僕の魔法がほとんど封じられてしまったのと反撃の隙が無いほど強くなっていたコウコの戦闘能力の高さが要因で、僕は一方的に殴られ続けてしまったのだと思う。だが、それはいい。僕は勝っても負けてもどっちでもいいと思っていた。最終的には負けないと思っていたからだ。
「一対一の戦いに水を差しちゃってごめんなさい。でも、正樹君が殴られている姿を見ていることに耐えられなくなっちゃったんです。私だけじゃなくて、他のお姉様たちもそう言ってたし、正樹君を殴り続けてた蛆虫のお母さんも私の毒を使っていいよって言ってくれたんです。だって、だって、だって、正樹君がやられている姿なんて、誰も見たくなかったんですもの」
「そうね、コウコは大事な息子だけど、それでも正樹さんを殴るのは良くないと思うわ。少しくらいだったらお父さんの復讐って思えたかもしれないけど、ちょっとやり過ぎたわよね。それに、お父さんを殺したのって正樹さんじゃないのよ」
「そうだよ。コウコは自分が振られたことを逆恨みしているだけじゃない。正樹さんより魅力が無いだけなのに、それを逆恨みするなんて男として情けなさ過ぎるんじゃないかな。そんなんじゃ死んだパパも浮かばれないと思うよ」
コウコの攻撃がやんでしまえば僕は体力を完全に回復することが出来ていた。相手の攻撃量と回復量がちょうど同じくらいだったのだから、攻撃さえされていなければいつでも回復出来たのだからそういうものでしょう。
みんなから心配されているけれど、僕よりもコウコの事を心配した方がいいのではないかと感じていたのだが、誰もコウコの事を心配する様子が無かった。コウコの母親であるセレさんも実の姉弟であるシギもコウコを心配していなかったのだ。
ちょっと気の毒だったけど、僕を一方的に殴り続けたんだから少しくらいは罰があってもいいのかもしれないね。
これで僕とコウコの間の勝負はついたと思うんだけど、僕たちの周りでは新しい争いがおきようとしていた。文字通りこの国を二分する戦いだ。
僕を殺そうとした国王に対して女王を中心とした女性達が宣戦布告をしたのだ。その事実を国王は受け入れることが出来なかったようで、人前であるという事を忘れて女王の脚に泣いて縋り付いたのだが、女王の意志は固く国王の懇願を一蹴していた。
女王には国王の娘である王女もついていたのだが、それ以上に国中の魔導士とみさきの支配下にある獣人も女王側についたのは戦力的にも大きな意味をもたらしていた。
一方の国王側の戦力と言えば、聖騎士団の名前があげられるのだがその聖騎士団も相手の戦力を思うと戦意は高いとは言えない状況にあった。元々、聖騎士団単体で魔導士に勝てる力は無いのだが、人数的にも圧倒されている状況にある中ではそれも仕方ない話なのかもしれない。
僕はもう完全に回復しているし、コウコに攻撃されていたことや国王にはめられたことだって気にしてはいないのだ。自分より力の劣るものが抵抗してきたことに対して腹を立てたところで、自分は器の小さい人間ですと宣伝しているだけにしか思えなかったからだ。
女王の国王に対する宣戦布告の知らせはその日のうちに国中を駆け巡っていたのだが、状況を正しく理解していなかった近隣諸国が好機と見るや攻め込んできたようなのだが、それらは全てみさきとその配下にある獣人の手によって粛清されていた。その中には歴代の国王同士から固い絆で結ばれている友好国もあったのだが、何の慈悲も与えられることなく滅んでいってしまったのだった。
その知らせも遅れて国中に轟いていたのだが、僕はただ事の成り行きを見守ることしか出来なかった。女王を止めようと思えばたった一言で済んでしまったとは思うのだけれど、どうせなくなる世界なら自らの手で壊れていく様を見守っておきたいと思っていたからだ。
いまだに、僕とみさきがどれくらい近付いてどれくらい一緒にいれば世界が崩壊するのか理解していなかったけれど、今の状況を鑑みると、この世界はもう崩壊してしまっていると言ってもいいのではないかと思えていた。
僕と戦ってこの事態を引き起こしたコウコは深く反省しているようだったのだが、彼がいくら反省したところで事態は収束することも無いし、世界の崩壊も決まっている事なのだ。
だって、僕たちがこの世界にやってきたという時点で、この世界が崩壊することは決まっていたのだからね。
「僕はもう少しこの世界を見ていたかった気もするけれど、みさきはどう思う?」
「私はまー君と一緒にいられればそれでいいんだよ。この世界に何の思い入れもないし、獣人の人達は良くしてくれたけど、そんなのはまー君に会えばもう関係ない事だもんね」
「僕もいろんな人に言い寄られたけど、ずっとみさきの事を考えていたよ。ノエラの家じゃなくてみさきと一緒に暮らしている家だったらいいなって思ってたからね」
「それじゃあさ、元の世界に戻れたら一緒に暮らそうよ」
「そうだな。二人だけで過ごしていこうか」
「妹の唯ちゃんはどうするの?」
「唯とは少し話したんだけど、きっとどこでも一人でやっていけるくらいには強くなってると思うし、そのまま放っておいてもいいんじゃないかな」
「唯ちゃんは体も成長していたし、どうにでもなりそうだよね。でも、私もちゃんと大人になれるのかな?」
「大丈夫。みさきはいつも可愛いからね。そのままでも大人になっても魅力は変わらないよ」
この世界がいつ崩壊するのかはわからないけれど、僕たちが見る戦いはいつも一方的で圧倒的なものだった。それは、自分たちが関わっていても関わっていなくても変わらないものなのだなと思いながらも、みさきと二人きりでゆっくりとした幸せな時間を噛みしめながら感じていた。