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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒異世界最強カップル  作者: 釧路太郎
コウコの復讐編
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コウコの復讐 第二話

「僕と正樹さんが普通に戦ったとして、僕が正樹さんに勝てる可能性なんて無いじゃないですか。そんな事はここにいる誰だってわかっていることだと思うんです。それに、僕は本音を言えば正樹さんと戦いたいとは思っていないんです。でも、正樹さんと戦わずに逃げてしまったら、亡くなった父さんは無駄死にだったんじゃないかって思えてしまうんです。父さんを殺したのは正樹さんじゃないってのはわかっているし、正樹さんの隣にいる魔女が殺したのだって言ってみれば不可抗力だったってわかってはいるんです。だけど、そのまま何もせずにいたら、僕の中でずっとずっとそれが後悔することになってしまうと思うんです。だから、僕は正樹さんと戦うって決めたんです。父さんのためってのもありますけど、何よりも僕自身が納得する戦いをしたいんです。例え、勝てないとわかっていても僕はそれをやらないといけないんです」

「そうか、コウコの気持ちは分かった。だが、お主一人で戦うわけでもあるまい。正樹殿はコウコと戦うことに異論はないかな?」

「僕はコウコと戦う理由は無いんですけど、コウコがどうしてもと言うなら戦うことに異論はないです。ただ、普通に戦っても何も得るものは無いと思いますが」

「そうだな。余はお主たちの実力のほどを見極めているわけではないので何とも言えないのだが、団長補佐の諸君の意見を聞いている限り、二人の間には天と地ほどの実力差があると聞いておる。正樹殿の魔力はこの国全ての魔導士が力を合わせても太刀打ちできないものであるな。コウコも聖騎士団団長であった父君と偉大なる魔導士である母君の血を継いでいるとはいえ、まだまだその力は未熟と聞き及んでいる。そんな二人が普通に戦ってしまえば、結果は火を見るよりも明らかである。その戦力差ゆえにまともに戦うにはどうしたらよいものだろうか。何か良い案は無いのか?」


 確かに、僕とコウコが普通に戦ってしまえば開戦の合図と同時に決着がついてしまうだろう。かと言って、僕がコウコの出方を待っていても決着がつくのが遅くなるだけなのだ。僕の魔法を封じてしまえばかなりの確率でコウコに負けてしまうと思うのだが、それはそれでいいのではないかとも思えた。

 以前、この国の魔導士と戦った時の結界を改造して外に魔力がもれなくするのではなく、結界内で魔法を一切使えないようにするというのはどうだろうか。僕にとってはメリットは何一つないのだけれど、ここはあえてコウコに花を持たせるのもいいのではないだろうか。


「あ、僕から提案なんですけど。前に魔導士と戦った結界があったと思うんですよ。で、その結界をちょっと改良して、結界内で魔法を一切使えないようにするって言うのはどうでしょう?」

「なんと、魔導士であるそなたが魔法を一切使えない状況を提案してくるとは、余はそなたに驚嘆したぞ。コウコはその提案に異議はないか?」

「はい、私は正樹さんがそのような提案をしてくるとは思っていませんでしたので驚いておりますが、せっかくの提案ですので謹んでお受けいたします。そこで、こちらも一つ提案があるのでしょうがよろしいでしょうか?」

「何だ、申してみよ」

「この度の戦いは父のための弔いの意味も御座いますので、父が大切にしていた剣の持ち込みをお許しいただきたいのですが」

「そなたは魔法を使わないと申された正樹殿に対して真剣を持ち出すと申すのか?」

「はい、私の近くに父を感じておきたいので。もちろん、その剣を使用することはございません。正直に申し上げますと、私と正樹さんが魔法を使えないという条件で戦ったとして、私には体術で正樹さんに負ける姿が想像出来ないのです。ですが、腰に重い剣を装備しておりましたら多少は動きに制限も出ますので、少しは良い戦いになるのではないかと思うのです。いかがでしょうか?」

「確かに、正樹殿が体術でコウコに勝てるかどうかはわからんが、お互いにハンデを付けて戦うのもよいだろう。正樹殿はコウコの提案を受けるのかね?」

「僕は何でもいいですよ。何だったら、一切抵抗せずに殴られるって形でもいいんですけどね。でも、それじゃあコウコの気は収まらないでしょうね。ですので、その提案を受け入れますよ」

「では、二人の決闘は四日後の正午に開始することにしよう。何かその日で不都合なことは無いかな?」

「私はいつでも平気です」

「僕も大丈夫ですよ」


 こうして、僕とコウコが戦うことになったのだけれど、ちょっとハンデを与えすぎてしまったかもしれない。そう思っていたのだけれど、結界を作るのは僕以外にいないんだし、好きなように結界を改造してみようかな。例えば、僕以外の誰も魔法を使えないようにしてしまうとか。どうせ誰も確かめられないんだし、一応保険はかけておいてもいいだろう。

 それにしても、手を伸ばせば触れそうな位置にみさきがいるのに話すことも出来ないなんてもどかしいな。こんな戦いなんてどうでもいいから、みさきに触れて話をしたいよ。


 そして、何事もなく日にちは過ぎて、僕とコウコの戦いの日がやってきた。

 この四日間、僕は一度もコウコと顔を合わすことは無かった。彼は家に帰らずに聖騎士団の宿舎で寝泊まりしていたらしく、起きている間はずっと肉弾戦の特訓を行っていたようだ。自分で言うのもなんだけど、僕と戦うのにそこまで気合を入れる必要は無いんじゃないかな。恐いから少しだけ肉体の耐久値をあげておくことにしようか。


 セレさんたちと戦った時とは違い、今回は魔法を使わないので僕たちが戦う会場のぎりぎりまで観客席が設置されていた。一応リングらしきものは設置されているのだけれど、場外負けとか細かいルールは決めていなかったので、どうすれば決着がつくのだろうと思っていると、今回の戦いを取り仕切っている国王から発表があった。


「本日の正午から正樹殿とコウコの決闘を開始する。決着は両方が攻撃する意思を失った時につくものとする」

「例えばなんですけど、僕が気を失ってもコウコが攻撃を止めなかったら決着がつかないってことですか?」

「そう言うことだ」

「それって、ちょっとやりすぎのような気もするんですけど」

「そんなことは無いぞ。正樹殿が今までこの国の婦女子達の心を弄んだ代償と思えば軽いものではないか。我が妻や娘の心を奪った罪は決して軽くは無いのだ」


 うーん、僕が王妃や王女の心を奪っていたのは知っていたけど、二人に対して何かしたわけでもないし、そんな事でこんな決着方法を選ぶなんて国王と言えども器が小さいな。それに、コウコも訓練の時とは違って殺気が凄いような気がするな。普通に戦ったら間違いなく殺されてしまうんじゃないだろうか。今だけみさきに代わってもらった方がいいような気もするけど、今更そんな提案は受け入れてもらえないんだろうな。でもさ、ノエラが死んだ現場にいたのは僕じゃなくてみさきだって言うのをみんな忘れちゃってない?


「正樹さん。僕は初めて会った時も母さんと戦った時もその後もずっとずっと尊敬していました。でも、正樹さんの仲間が父さんを殺したのは事実なんです。ですが、それは僕の中では完全にどうでもいい事なんです。父さんだって聖騎士団団長の職責を全うしたんだから悔いなんてないでしょう。正樹さんの事も父さんを殺した愛華さんの事も僕は憎んでいません。だけどね、正樹さんは僕が小さい時からずっと片思いをしていたバレちゃんの心も奪ったんですよ。それだけはどうしても許せません。正樹さんが異性にもててしまうのはそう言った能力を与えられたからだって知ってはいます。でも、でも、でも、バレちゃんは僕に初めてできた彼女なんです。それが、付き合ったその日の夕方に振られたんですよ。その理由が、正樹さんに一目惚れしたからって言うんです。一目惚れは仕方ないにしても、正樹さんはバレちゃんの顔を知っていますか?」

「え、そんな事を言われても、バレちゃんって誰?」

「そうですよね。正樹さんは知らないですよね。バレちゃんって誰って思いますよね。でもね、僕がずっとずっと好きで好きで振り向いてもらえなくて、やっと振り向いてもらえたと思ったその日の夕方に心を奪われてみなさいよ。正樹さんが何かしたわけじゃないってのは知っていますし、その能力も自ら望んで手に入れたモノじゃないってのは知っています。でもね、そんな事で振られた側の立場になってみてくださいよ。恨むなって言う方が無理な話でしょ。それにね、こんな気持ちになっているのは僕だけじゃないんですよ。国王陛下だってそうだし、リングサイドにいる男どもだってみんなあんたに大切な人を取られた人達なんだよ。それを自覚してもらうためにこの場を設けさせてもらったんだよ」

「いや、そんな事を言われてもね。僕だって好きでやってることじゃないんだよ。人に好かれるのは嬉しいけど、そこまで実感は無いんだよね。それにさ、そんな理由で僕をボコボコにして聖騎士団の名が廃るんじゃない?」

「確かに、弱気を助け強きを挫く。それこそが聖騎士団と言えるのでしょうが、僕はまだ正式に団員になっていないんです。この戦いが終わってから正式に聖騎士団に入団することになっているんですよ。僕の新たな門出のためにも、せいぜい楽しませてくださいね」


 リングサイドにはやたらと男が多いなと思っていたのだけれど、みんなコウコみたいに逆恨みをしている連中だったのか。心なしか殺気を感じているとは思っていたのだが、それは気のせいではなかったみたいだね。でも、その原因を作ったのは僕だけど僕じゃないんだよな。

 とりあえず、彼らが満足するまでは我慢してみようかな。コウコの攻撃がどれくらい強いのかわからないし、僕の耐久値を限界まで引き上げて向こうが疲れるのを待つことにしようかな。どうせ、向こうがつかれるまでは僕の攻撃も当たらないだろうしね。


 自慢ではないが、僕はプロの格闘家や喧嘩自慢の人と戦ったことは無い。素人でしかない僕が戦った相手と言えば、魔法で動けなくなっている相手や抵抗しない相手だけだ。つまり、僕は動く人間と魔法を使わずに対峙したことが無いのだ。もちろん、体を鍛えまくっているコウコのような人間と戦う機会なんて一度も無かったのだ。

 コウコの攻撃は僕が想像していたよりも何倍も早く、何倍も痛みが襲ってきた。殴られた感覚はあるのだけれど、あまりにも殴られ過ぎていてどこを殴られているのかハッキリと理解出来ないでいた。どんなに魔法で耐久値をあげていたとしても、これだけ殴られていれば無意味なものになってしまっているのかもしれない。ただ、耐久値をあげていなければ今頃本当に死んでいたのかもしれないなと思えていた。

 それにしても、回復用の魔法を使っているのに体の感覚が一切戻ってこなかった。それどころか、痛みの方が強くなっているようにも思えていた。回復魔法でも追いつけないくら攻撃されているとしても、ただの人間であるコウコがここまで強いわけが無いのだ。


「どうしました。もう降参ですか。でも、僕はまだまだ攻撃を止めませんよ。攻撃を止めてしまったらこの復讐も終わってしまいますからね。どうですか、こんなに殴られることなんてないでしょうから楽しめてますか?」


 僕はコウコの言葉を聞くのが精一杯で、返事を返すことが出来なかった。返事を返そうとしても、何かを言う前に殴られているので言葉が出るはずもないのだが。一向にコウコの攻撃が収まることは無かった。


「僕はね、正樹さんが魔法を使わないなんて思ってないんですよ。今だって、体を強くする魔法とか回復する魔法を使っているんじゃないですかね。当りですよね。だって、こんなに殴られているのに正樹さんが生きているのって普通じゃないですからね。これを見ているみんなは正樹さんが魔法を使うことは知ってますよ。結界の中であんた以外の魔法が使えないようになってるのだってみんな知ってるんですよ。でもね、あんたは自分で作った結界の中で好きなだけ魔法を使うでしょう。そんな事はお見通しなんだよ。この腰につけている宝刀なんですがね、これは父さんが持ってたものではないんです。この国の国宝なんですよ。どうしてそんなものを持っているんだって思っているんでしょうけど、黙って殴られながら聞いていてくださいね。この宝刀は、近くで発動している魔法を無効化する力があるんですよ。と言っても、魔力を持たない僕が装備してもその力を完全に使いこなすことは出来ないんですが、それでも母さんの血のお陰で七割くらいの性能を引き出すことが出来ているんですよ。でも、凄いですよね。普通の人ならこの宝刀の近くでそんなに魔法を使うことなんて出来ないんですよ。母さんでもこの宝刀の前で魔法を使うことは出来なかったんですからね。そう考えると、正樹さんって男なのにそんなに魔法が使えて異常ですよ。もしかして、女性を誘惑する悪魔なんじゃないですか?」


 僕は段々と意識が薄れているようにも思えていたのだけれど、そのたびに少しだけ体力が回復して気を失うことも出来ずにいた。コウコの話も何となくではあるが理解はしていたし、話すのか殴るのかどっちかにして欲しいなと思っているのだけれど、コウコの攻撃はやむことは無かった。


「それにしても、思ったよりもしぶといですね。これだけの時間誰かを殴ったことが無いので少し疲れてきましたけど、正樹さんの意識がはっきりしている間は止めないですからね。もういい加減諦めて眠ってくれていいんですよ。じゃないと、このナイフを突き刺してしまいそうですから」


 そう言いながらも、コウコは相変わらず僕を殴り続けていた。もう何も言えないくら殴られていたのだけれど、僕の体が勝手に魔法を使っているせいで意識を失うことが出来ないでいた。きっと、このまま何年も殴り続けられたとしても、僕の魔力は枯渇することは無いだろう。つまり、コウコが攻撃を止めない限り僕は殴られ続けるという事だ。

 とんでもない話だ。


 自分の魔力をこれほど恨んだことが今まであっただろうか?

 これからもきっとこのような状況は無いだろう。


 結界の中で自分の魔法が使えるようにしたのは何故だろうか?

 負けたくないという思いからだったのだろう。


 なぜ、コウコの攻撃は終わりを迎えたのだろうか?


 その理由はわからない。


 コウコの攻撃が止まったことによって、僕の回復魔法が徐々に効果を表してきたのだが、目を開けてみた世界には、目の前で倒れているコウコの姿が映し出されていた。

 どうしてこんな結末になってしまったのだろうか?

 その答えは意外なものだった。

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