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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒異世界最強カップル  作者: 釧路太郎
コウコの復讐編
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コウコの復讐 第一話

 聖騎士団団長であるノエラの死は多くの国民に深い悲しみと怒りを与えることになったのだが、聖騎士団団長を殺した張本人の手によって人類と獣人の共通の敵である魔獣を殲滅することが出来たので、多くの団員たちは喜んでいいのか戸惑いを隠せないでいた。

 その中でも聖騎士団団長であるノエラの長男であるコウコは怒りを隠しきれずにいた。聖騎士団団長の夫人であるセレさんも娘であるシギも悲しんではいるのだけれど、その二人には怒りという感情がわいていないのだ。愛華先輩を憎んでいるのはコウコ一人だけなのだ。なぜなら、二人の前に僕が出ていったこともあってか、団長を殺した怒りよりも僕を独り占めしようとしている愛華先輩に対しての怒りしかない状態なのだ。これは僕もおかしいと思うのだけれど、僕自身に与えられた能力のせいなので仕方ないのである。


 僕とみさきは誰もが認める恋人同士なのだが、二人の距離は誰よりも遠く、直接会話を交わす機会さえなかったのだ。気にしないで話していたこともあったのだけれど、この世界が壊れてまた別の世界に転生したとして、再び会えるのかどうかという疑問があったので、気楽に世界を壊してしまうことは出来ないのである。世界が崩壊したとしても僕たちはきっと死なないだろうし、何だったら唯と愛華先輩もしれっとついてくるのではないかと思っている。

 結果的に僕たちはこの世界の人間と獣人の間を取り持って世界を平和に導いたのだ。他の国もこの国を見習って敵と味方を見分けているようなのだが、その見極めが中途半端だった国も多くあったようで、内部から簡単に崩壊してあっさりとその歴史に幕を下ろした国も多数あったようだ。


 世界を救うことが僕たちの目的ではないし、何だったら世界を壊す破壊神と受け取られても仕方が無いのだけれど、今回は世界を人間の手で納めるとが出来るようにすることが出来たのだ。そんな事をしても僕にメリットなんて何もないのだけれど、良い事をしている気になっているのは気分がいい。

 聖騎士団団長であるノエラは僕に言われてもらえると、全くの無駄死にだったと思うのだけれど、その死を尊いものと崇めてこの国の人の心が一つになったのは無駄ではなかったのかもしれない。心が一つになろうがなるまいが、愛華先輩の毒である程度の魔獣を倒しておき、生き残った魔獣をみさきと唯が殲滅すれば話は簡単に終わるのだけれど、弔い合戦をどうしてもしたい聖騎士団団員のために弱そうな魔獣を少しだけ残しておいてあげたのだ。

 その事でみんなは満足したようだったのだが、団長の息子であるコウコだけはいつまでも不満を隠しきれてはいなかった。団長の仇である愛華先輩が何も悪びれることなく僕のすぐ隣で盛っている様子を見るたびに怒りに満ちた視線を送ってきているのだけれど、それを僕に向けられたところでどうしようもないのだ。

 愛華先輩を殺したところでノエラが生き返るわけでもないし、今のコウコ程度の力と技術では愛華先輩には敵うはずもないのだ。そんな事も理解出来ずにいつまでも恨みを抱えて生きているのは凄いと思う反面、何とも哀れで心が締め付けられるように痛くなってしまう。本当はそんな事を思ていないけれど、人に聞かれた時にはそう答えるようにしている。その方が印象も良さそうなので。


 季節がいくつ過ぎたのかわからないくらいの時が経ち、コウコもすっかり立派な大人になっていた。僕たちは何年経とうが見た目は変わらず、最近は戦う相手もいなかったのですっかり戦闘からは遠ざかっていたのだ。時々僕たちの国に進行してくる勢力があったりするのだけれど、そう言った敵たちはみさきが発見するたびに始末してくれていた。もちろん、僕たちや聖騎士団も見回りはしているのだけれど、他の国の人間や獣人が襲ってくることはまずなく、時々沸いて出てくる魔界の住人が攻めてくるのだ。そんな奴らの攻撃はみさきにだって効果はないし、聖騎士団でも十分に対処できる程度のモノしかいないのだ。

 誰もが真面目にトレーニングをしなくなったこの国で、コウコは一人黙々と誰よりも体を鍛えその技の精度をひたすらに高めていた。聖騎士団団長とこの国最高の魔女の血を引いているだけあって成長力は申し分なく、お世辞抜きでこの世界の住人の中でもトップクラスの実力を身に着けていると思えた。それでも、その鍛えた体と技を発揮できる機会がもうないのだと思うと可愛そうにも思えて仕方が無かった。


「正樹さん。僕はどうしても父の死を受け入れることが出来ませんでした。母もシギも多くの国民たちも父の死を簡単に受け入れてしまっているのが理解出来ませんでした。でも、僕がいくらそれを言ったって母もシギも理解してくれません。僕の気持ちが伝わることなんて一生無いんじゃないかって思ってます。父が死んだのは父の不注意が原因だって知ってます。でも、それだからって愛華さんが普通に暮らしていて、それを当たり前のように受け止めている母やシギの考えが納得できないんです。これは僕の勝手な思いで身勝手なお願いになるのですが、正樹さんが僕と戦ってくれませんか?」

「コウコの気持ちはよくわかるよ。でもさ、なんで僕と戦わないといけないのかな?」

「正樹さんに対しては感謝の気持ちはあっても恨みなんて一切ないです。父を殺した愛華さんに対しても恨むって気持ちよりも、仕方のない事故だったんだろうって思いの方が強かったりします。でも、僕一人のわがままですが、父の死をちゃんと受け止められていないんです。僕が一人で鍛えているのも父の死を受け入れるためだったのかもしれません。でも、いくら鍛えたって僕の心の奥にある闇が晴れることはありませんでした。むしろ、その闇はどんどんと濃くなっているようにさえ思えたのです。これ以上闇が濃くなってしまうと、僕はきっと愛華さんと正樹さんを殺してしまうと思うんです。もちろん、そんな事は出来ないと知ってはいるのですが、日に日にその思いが強くなっていってしまっているのです。お願いです、その思いを打ち消すためにも、僕と一度戦ってください。時間と場所はお任せいたしますので、よろしくお願いします」

「君の思いはよくわかったし僕はそれを受け止めたいと思う。今の君は誰もが認めるくらい強くなっているし、その優しさだって本物だって知っているよ。そこでなんだけど、国王から頼まれていることがあるんで聞いてもらってもいいかな?」

「は、はい。国王陛下からですか?」

「そうなんだよ。最近の君を見ていると誰よりも努力を惜しまず、困っている人を見過ごせないそんな様子が多く見受けられます。今の聖騎士団は団長が不在で補佐のモノが代行しているのだが、今以上の成長を期待して聖騎士団団長に任命する。ただし、しばらくの間は副団長となる現団長補佐のもとで多くを学ぶものとする。そして、正樹殿と戦い自らに足りない部分を見つめ直すように。だそうだ」

「僕が団長なんて無理だと思うんですけど」

「確かに、今の君では強さと優しさはあったとしても経験と決断力は無いだろう。でもね、そんな君を支えてくれる仲間はいっぱいいると思うんだよね。だから、そんな事は気にせずに団長として成長すればいいんじゃないかな?」


 こうして、僕とコウコが一戦交えることになったのだ。もちろん、僕は魔法を使う予定もないし、コウコだって真剣を使うことは無いだろう。僕との戦いを通して何か見つけて成長してくれたらいいなと思った。

 聖騎士団団長であるノエラにせめてもの餞として、成長したコウコの姿を見せてあげられるといいな。

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