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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒異世界最強カップル  作者: 釧路太郎
聖騎士の息子編
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聖騎士の息子 第四話

 以前訪れた修練場は壁に沿って魔法が外に漏れないような結界が張られていたのだけれど、今では結界はそのままで周囲に観客席が設置されていたのだった。かつて教科書で見たコロッセオや野球のドーム球場の席のようなものが設置されていたのだが、短期間でこれほどのモノを作れる技術力にはただただ脱帽するだけだった。

 だが、この観客席に座っている人達が僕にかかっている呪いを見るために集まっているというのは信じられなかった。それについてはノエラも同様に驚いていたようで、観客席の中に王族の方々がいらっしゃう事にも驚いていたようだった。


「正樹殿にかけられている呪いを解くという事にこれほど多くの者が関心を寄せるというのは不思議な話だが、この三日間で正樹殿が始末した魔獣の数を考えると腑に落ちるというか、不思議なものだ。それにしても、いつの間にこの修練場はこのような形になったのだろうか?」

「それについては私が説明するわ」

「おお、しばらく姿を見なかったから心配していたが、元気そうだな」

「ええ、あなたにも黙っていて申し訳ないのだけれど、私達は正樹様にかけられている呪いを解いてその心を自由にしてみせますわ」

「そうか。正樹殿に呪いがかけられていることは最初から分かっていたのだな。それがわかっていたから正樹殿に挨拶もせずに調べものに没頭していたのか?」

「いいえ、それは違うのよ。私はあなたの事を愛しているわ。それは嘘偽りのない真実なのよ。でもね、私は何故か正樹様を窓越しに見ただけで恋に落ちてしまったの。こんな気持ちになったのは、あなたに初めて会った時以来かもしれないわ。それでね、実際に会って会話でもしてみたら大変なことになるんじゃないかって思って、ずっと隠れていたのよ。シギだって顔には出していないけど、私に正樹様の事をずっと説明してくるのよ。私は理性で一生懸命に抑えているっていうのに、シギは正樹様にべったりくっついておかしいじゃない。それを止めないあなたもコウコもおかしいわよ」

「そうだったのか。だがな、それは正樹殿に与えられた神の力の影響なのだ。なんでも、正樹殿にはどんな種族でも異性だと惚れてしまうという能力を与えられたそうなのだ。初めは正樹殿が強いからモテるのかと思っていたのだが、魔獣のメスも正樹殿には攻撃を一切行わないのを目の当たりにした時に、その能力の恐ろしさを感じたのだ。まさか、お前たちはその能力を解こうというのか?」

「そんなわけないじゃない。その能力が無くなったって私達に何のメリットも無いのよ。それに、反抗期で何に対しても文句しか言わなくなっていたシギが正樹様が家に来てからは、昔のいい子だったシギに戻ったのよ。あなただって嬉しそうにしてたじゃないのよ」

「それはそうなのだが、それとこれとは話が別であろう」

「そうなのよ。だから、私達は己が持っている全ての魔力を使ってでも正樹様にかけれれている呪いを解くのよ。明日から一生魔法が使えなくなってもいいとさえ思っているわ。だからね、これからこの国を守るのは魔導士ではなく聖騎士の役目になるのよ。今までだって十分にその力を発揮していてくれたとは思うのだけれど、今まで以上に過酷な戦いになると思うの。その点は先に謝っておくわね。でもね、私達は魔導旅団の垣根を越えて力を合わせ、いがみ合っていた過去を捨ててこの日この時をもって力を合わせることを誓うわ。三日かけて私がみんなから集めた魔力を使って、正樹様にかけられている呪いを今解いて見せるわ」


 僕はそんな二人のやり取りをただただ眺めているだけなのだったが、この人がノエラの奥さんなのかと思っていた。とても双子を生んでいるようには見えないのだが、それは魔法の力なのか本人の努力の成果なのかはわからない。

 家にいる間に姿を見せなかったのは僕の能力に気付いていたからみたいなのだけれど、シギがあの感じで僕に惚れていたというのは意外だった。みさきみたいに積極的な人が多かったので、シギは僕に何かを言ってくるのでもなく見つめてきたり、手を握ってきたりと言った無言のアピールをしていたのだ。もしかしたら、シギは内向的な性格で彼女なりの精一杯のアピールがあれだったのかもしれない。僕は妹に対する感情と同じようにシギに接していたのだけれど、そう思っていたことは教えない方がいいのかもしれないな。


 二人は僕に聞こえないような小声で言い争っているようなのだけれど、ノエラが僕の方を無言で叩いて修練場から出ていってしまった。

 横顔と肩を叩いた感触では怒っているようには思えなかったのだけれど、観客席に向かって歩いている姿は若干怒っているようにも見えていた。聖騎士団団長ともなると色々と抑えないといけない面もあるのだとつくづく感じさせる出来事だった。


「主人には悪いと思っているけれど、私は正樹様に一目惚れしてしまいました。いいえ、私達と言った方が正確でしょうか。その私達とは、我々魔導大連隊のモノだけではなく、この国に生きる女性全てなのです。さあ、今から正樹様にかけれれている忌まわしき呪いを解いて、その心を一人の女性にではなく全ての女性に平等に分け与えてもらえるようにいたしますよ。正樹様の心を支配している女の影響を全て取り除いて、我々を幸福の世界へと導いてくださいませ」


 僕の呪いとは僕がみさきを思っている気持ちそのものの事だったらしい。これは呪いではなく僕の本心なのだが、そんな簡単に消してしまえるほど僕の中のみさきは軽い存在ではないのだ。彼女たちがいくら魔力と集めたとしても、僕の心に何ら影響は与えられることも無いだろう。そう思って楽観視していたのだけれど、結界の中に入ってくる魔導士たちの姿を見ていると、ひょっとしたら凄いことになるのではないかと思わせる何かはあったのだ。

 ただ、その魔導士たちが一斉に僕に対する思いを言葉で伝えてきて、その言葉の圧力に心が潰されそうになったのは自分でも驚いた。文字通り、音の圧力によって体が潰されそうになるというのは魔獣を相手にしていた時でも出来ない体験だった。


「私達に思いが届いているかはわかりませんが、私達の魔法が正樹様の心に届くことをきたしております。思いが届くのはその後でもいいんですからね。今は少しでも私達を見てくれればそれでいいのです。では、始めさせていただきます」


 僕が言葉を発する前に魔導士たちは謎の間隔を開けて立ち位置を変えていた。僕を中心に立っているのだけれど、それぞれの立ち位置がバラバラなのが少しだけ気になってしまった。人と人がわずかに重なって見えるのだけれど、それぞれの表情は見えるので、それなりに計算された立ち位置なのかもしれない。

 立っている魔導士たちはみんな目を閉じて一心不乱に呪文を唱えているのだけれど、僕は魔法を使うのに呪文の詠唱を行っていないので何の魔法を使おうとしているのかさっぱりわからなかった。


 魔導士が一人倒れ二人倒れ三人倒れていっていた。徐々に立っている人が少なくなっていっているのだけれど、魔導士が倒れるのと同時にノエラの奥さんの魔力が高まっているのがはっきりと見えていた。

 どんなに強い魔獣や魔物でさえも、その魔力を目で直接確認することは出来なかったし、悪魔や神でもそんなことは無かったと思う。もしかしたら、溢れている魔力は体内から出ている無駄なモノなのかもしれないのだが。


「わかりますよ。そうですよね。こんなにたくさんの魔力を一人の体に留めておくことなんて出来ないって思いますよね。そうなんです、実際にはこんなにたくさんの魔力を私の中に留めるなんて無理なんです。それでもこうして集めているのはなぜだと思いますか?」

「僕って思っていることを口に出したりしないと思うんだけど、今日は言葉が漏れていたのかな?」

「ああ、違いますよ。私はこれから正樹様の心の奥にある呪いを解こうとしているんです。それに比べたら、今の状態で思考を読み取ることなんて簡単な事ですよ。さあ、私達を怖がらずに受け入れてくださいね」

「そんなことが出来るって、本当の僕の中からみさきへの想いを消そうって言うの?」

「そうですよ。でも、正樹様がみさきさんと付き合っていたっていいんです。私達は何番目でもいいんです。好きな順位が一番最後でもいいんです。そのランキングに入ってさえいればそれでいいんです。だから、全部を消すことが出来なくても私達が正樹様の心の隙間にでも入ることが出来ればそれで満足なんです」

「そんなこと言われてもさ、僕が好きなのはみさきだけだからさ。それは譲れないよ」


 どういうわけなのか、その場に倒れて動かなくなっていた人達も僕の言葉を聞いた途端に起き上がって再び呪文を唱え始めた。

 とてつもない量の魔力が集まっているのだが、一人の人間の体ではそれを受け入れるだけの器が足りていないようだった。


「あふれ出ている魔力を心配なさっているようですが、動画ご心配なさらないでくださいね。一度私の中に入った魔力は溢れてもすぐに取り込めますからね。この結界の中から外に出ない限りは大丈夫なんです。だから、心配しないで私達を見てください。いや、私をちゃんと見てください。それと、私の事は奥さんではなくセレと呼んでくださいね」


 セレさんのもとに集まっている魔力は今まで見た中でもダントツに凄まじいものだった。これが殺意に満ちているものだったら僕も恐れてしまったかもしれないが、その根底には優しさのようなものを感じてしまっていた。

 これが魔導士の優しい魔法なのかと疑問に思ってしまった。


「あら、私の事を名前で呼んでくださって嬉しいですわ。でもね、主人のように呼び捨てで呼んでくださっても構いませんよ」

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