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番外編:恋は盲目と言いますが②



 恋をすると、人は変わる。その言葉を痛感しながら、ヴィオラはシャノワールと対峙をしていた。


「あんなに可愛くて、今まで婚約者がいないなんて奇跡だと思わないか。絶対に結婚する」


「……シャノワール様、本当に変わりましたわね」


 今日も今日とて、ヴィオラはシャノワールの元へとやって来た。いつもならヴィオラの恋愛相談――という名の世間話――の時間だが、最近ではシャノワールの惚気話で時間が過ぎている。

 彼はラモンターニュ辺境伯の娘である、マートル・ラモンターニュに惚れ込んでいた。曰く、初めて目が合った瞬間に脳天に雷が落ちたらしい。


「シャノワール様も、人の子だったようで安心しました。ですが、あまりにも押し過ぎでは?」


 ヴィオラは、呆れながらも自分なりの見解を述べる。城で出会ってからマートルと友人になったヴィオラは、手紙のやり取りから彼女の人柄を少しは理解をしているつもりだ。

 ヴィオラは、思う。よく知らない、ましてや恋をしていない相手からぐいぐい押されても、マートルは困惑するだけだと。


「無理強いは、していない。ただ、本気で嫌がられていないなら、好意は隠さない方が良いとフェルマが言っていた」


「そうですね、そのままやり切りましょう」


 フェルマの名前が出た途端、ヴィオラは手のひらを返した。フェルマの前では天の邪鬼を発揮するが、基本的に彼の全てを肯定するのがヴィオラ・ヴィアラクテアという少女である。

 

「……それより、フェルマ様と恋愛話をなさるのですね」


「前まではフェルマの話を一方的に聞いていたが、最近は私も話すようになった」


「フェルマ様には、想い人がいらっしゃるのですか?」


 シャノワールの言葉に、ヴィオラは反応する。


「……さぁ、知らないな」


 シャノワールは、一瞬だけ左の眉を動かした。普通の人間は気にも止めないが、ヴィオラには分かる。これは図星を突かれた時の、シャノワールの癖だ。


「……いらっしゃるのですね。誰かしら、何人かは思い当たる方はいるけれど」


 フェルマは、令嬢たちに人気がある。おまけにシャノワールより気さくなので、近寄りやすかった。何人かフェルマと楽しげに話をしていた令嬢の顔が、浮かんでは消える。

 一気に気落ちするヴィオラに、シャノワールは「本人に聞けば良い」と言い出した。


「あいつはずっと、『特別』がいる。それが知りたいなら、本人に聞けば良いだろ」


「それができたら、こんな所でシャノワール様に相談なんかしておりません」


「失礼な奴だな。……とにかく、早くしないと他に嫁ぐ羽目になるぞ」


 現在、シャノワールには婚約者がいない。その為、候補になっている有力な令嬢の何人かは保留のままだ。その中には、公爵家の娘であるヴィオラもいる。

 もしシャノワールがマートルを選ばなかったら、年頃の娘で一番家格の高いヴィオラが婚約者になる可能性が高かった。とは言え、ヴィオラの気持ちを知っているシャノワールは別の令嬢を選んだだろうが。


「今までは私の婚約者候補だから、縁談を免れていたんだ。私が婚約したら、わんさか来るぞ」


「まぁ、シャノワール様ったら。まるで、マートルと婚約できるみたいな言い方だわ」


「そのつもりだが、問題があるのか?」


「開き直ってる」


「まったくもって、諦める要素がないからな」


「初恋を拗らせた男って、怖すぎますね」


 ヴィオラは苦笑いを浮かべつつも、シャノワールの変化に少しだけ嬉しくもあった。何だかんだ、幼馴染みとしては、幸せになってほしいのだ。


「シャノワール様を隠れ蓑にするのは、そろそろ潮時ですね」


 シャノワールとマートルが結ばれるのも、時間の問題だろう。何故だが、ヴィオラにはそう確信めいた気持ちが芽生えた。

 彼らが婚約をすれば、ヴィオラの元には他の縁談が来るはずだ。もしかしたら、他国の王族に嫁がなければいけない可能性だってある。


「まるで、フェルマ以外に嫁ぐ口ぶりだな」


「貴族ですもの、好きでもない相手に嫁ぐ事は覚悟しております」


「覚悟はできても、気持ちは割りきれないだろうに」


「ふふっ、そうですね。……今日は、帰ります。気持ちの整理をしたいので」


「整理がついたら、告げてみたらどうだ? 案外、上手くいくと思うが」


「そうですね。まぁ……他の縁談を持ちかけられる前に、せめて最後くらいは素直に伝えようと思います」


 ヴィオラがそう言うと、シャノワールは表情を柔らかくした。「そうか、頑張れ」と短い言葉ではあったが、彼なりの労りにヴィオラはそっと微笑み返した。


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