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2.あわただしい旅立ち


餞別とは言っても何にするか。

そうだ、できれば金が欲しい。


そう、オレは金の存在を知っている。

人間の街に行ったことのある大人のマーマンに、昔教えてもらった。

と言うより好奇心のままに質問責めにして聞き出した。


魚人社会で他人の持っている物が欲しい時には、相手の欲しがる物を用意しての物々交換が基本だ。

都合良く物が用意できればいいが、当然上手くいかないことも多々ある。


その点人間は、物を一旦金に替えることでやり取りを簡単にしている。

相手の欲しい物がわからなくて困ったりしないし、物を用意するのに時間がかかり過ぎて腐ったりもしない。


初めて知った時には驚いた。

沈没船内によく落ちている丸い板がそんなに便利なものだったとは思いもせず、友達と積み上げた高さを競って遊んでいた。

人間はなんて面白いことを考えるんだろう。


そしてオレはますます人間に興味を持ち、まあ、その結果人間に捕まるのだが…。


考えがそれた。

とにかく、金は便利だが、人間社会では金が無いと何も出来ないとも聞いた。

金か、金に替えやすい物を探そう。


そういえばさっき、オレの衣装があった所に装飾品もあったはずだ。


再び衣装棚を漁る。


あった。真珠のネックレスと珊瑚の髪飾りだ。

サーカスの人間が、高かったんだから壊すなよと言っていたから金になるだろう。

それに海産物は持っているだけで落ち着く。


しかし、手に持っていくのも邪魔だし、身に付けていくのも目立ちそうだ。

袋とそれを提げる紐もいるな。


近くを探す。

が、見当たらない。

金も置いてない。


人間は金が大事だからおそらく寝床に持って帰っているのだろう。


他にめぼしい所は向かいの壁一面に取り付けられた棚だが、厄介なことに鳥かごもそのすぐ側にあるのだ。


(迷っていても仕方ない。)


履き慣れない靴で、どうにか音を立てないように棚に近寄る。


袋はすぐに見つかった。

穀物が入っていたようで、底に数粒残っている。


(あとは紐だな。)


紐もすぐに見つかりはした。

しかしおおざっぱな奴が片付けたのか、何本かの紐が絡まり合って引っ掛かってしまっていた。


ガタン


そっと力を込めて紐を引き抜くが、少し音が出てしまった。


誰も起きていないか辺りを見回す。


(!?)


鳥と目が合った。


いや、正確にはオレではなく、オレの持っている袋を見ているようだ。


(もしやこれは、あいつのエサ袋だったのか?)


今騒がれるのは良くない。

すごく良くない。

なんとしても黙らせなければ。


袋に残っていた穀物を指先に乗せ、そろそろと鳥に近づける。


所詮(しょせん)は頭の悪い鳥だ、エサをやればおとなしくなるだろう。)


その時、鳥の目がぎらりと光ったような気がした。


「ッ…!!」


このアホ鳥は指の上のエサではなく、オレの指をおもいっきり(ついば)んできた。


思わぬ痛みについ手を振り払ってしまう。


ガシャンと音を立てて鳥かごが揺れた。


「ギャァーー!!タスケテー!タスケテー!」


アホ鳥がけたたましく鳴き喚く。


(しまった!)


周囲で眠る他の動物達もこの騒動で目を覚まし始めている。

もはや少しの猶予も無いだろう。

一刻も早くここから逃げなければならない。


袋に手に持っていた装飾品を突っ込む。

ついでに尾が足に変わった際、大量に抜け落ちて水槽の底にたまっていた鱗も、水を魔法で操って袋へ詰め込む。

魚人は本能として、泳いだり呼吸をするのと同じ様に魔法で水を操る。

これくらいの事ならほとんど時間もかからない。


倉庫の扉は鍵が掛けてあったが、内側からは簡単に開くようになっている。

扉を薄く開き外の様子を(うかが)う。


幸い、人はまだ集まっていないらしい。


ふと後ろを振り返り、倉庫の中を確認する。

あのアホ鳥は騒ぎ続けているし、他の動物達もすっかり起きてしまったようで、さまざまな鳴き声が辺りに響いている。


そして足ひれ形の濡れた足跡が水槽付近にいくつも残っていた。

最後に魔法で足跡を乾かし、倉庫を後にする。


随分とあわただしい出発になってしまったが、これが長い故郷への旅の第一歩には違いない。


10年ほどを過ごしたサーカスの敷地を抜け、人の声が混じり始めた騒ぎを背後に聞きながら、夜の街にそっと紛れ込んだ。

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