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第四話『君の名前は』

 粉ミルクを作っては飲ませ、作っては飲ませ。それが終わったらうつらうつらし始めるドラゴンの傍で少しの睡眠を。そしてまた目が覚めたその子に粉ミルクを飲ませ――ついでにトイレをさせて、そんなことの繰り返しを此処数日ずっと続けていた。続けていたけれど。


「……まさかこんなに大きくなるとは」


 まだ恐らく一週間も経っていない気がするのだけれど。目の前にはもう抱っこは難しくなってしまった大きなドラゴンが粉ミルクをせがんで口を大きく開けている。わぁ、立派な歯がずらりと並んでいるぞ。多分これはワニに近いだろう。この中に腕でも頭でも突っ込んだら間違いなく私は食べられる。そういう恐怖を覚える程度には、大きく育った。


「ぴい! ぴい!」

「はいはい。待ってね、今あげるから」


 それでも相変わらず粉ミルクを強請って、甘えて来るその様子は大きくなっても変わらずただの赤ん坊だ。流石にこうやって世話をしていると愛着も湧いて来るもので、最初は少し怖かったこの子のことが段々愛おしくも感じて来る。表情の変化も、少しは分かるようになってきた。ドラゴンにそういうものがあるかは分からないけれど。


「君は良く食べるねぇ。まぁ身体がこれだけ大きいんだから必要なエネルギーも違うんだろうけど」


 もう抱えきれなくなったその子をベッドに寝かせながら大きな哺乳瓶を抱えて粉ミルクを飲ませる。これも、この子の成長に合わせ用意されたようにいつの間にか食堂に置いあって最初は驚いたけれど、今は有難く使わせて貰っている。恐らくだが、此処ではこの子を育てる為に必要な物は何不自由なく揃うのだろう。あの綺麗な男の人が言っていた通り、私はこの子を育てる為に此処にいて、この場所もその為に用意された場所なのだ。


「そういえば、そろそろ君にも名前をあげないといけないね」

「ぴぃ!」

「え、言ってること分かるのかなぁ。というか勝手につけていいのか分からないけど」


 粉ミルクをたっぷりと飲んでのんびりと横になっているその子の頭を撫でながらふと呟くと、とてもタイミング良くドラゴンが鳴いた。最近ではこうした、本当に簡単なことだけれどある程度の意思疎通が出来て居るように感じる。ペットが返事をした、と感じる飼い主の思考なのかも知れないけれど。

 でも実際名無しのままでは困る。私はこの子の親なのだから、名前を付けることも必要だろう。――もし最初から決まっているのなら、多分あの男の人が教えてくれているようにも思えるし。


「でも何にしようか。……あの人の言う通り、この子が魔王になるなら格好悪い名前じゃあ、困るよね」


 未だに彼の言葉の全てを信じられた訳ではないが、一応その辺りは考えて名づけをしないといけない。魔王なんてゲームとか小説とかでしか知らない存在ではあるけど、だからって変な名前をつけた流石に可哀想だ。

 魔王。どんな存在になるのかは分からないけれど、この子の親は私しかいない訳で。


「……マオ、じゃあ流石に安直だしなぁ。魔王、まお、……ううん。悩むけど、……嗚呼そうだ」


 魔王の名前には相応しくないかも知れないけれど、私は母親としてこの子にこの名前を贈ろう。私がそうして貰ったように。


「私は、お母さんから漢字ひとつ貰って名前をつけてもらったの。だから君にも、私と同じ響きの名前をあげるね」


 頭を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。大きなドラゴンの赤ちゃんはその赤い瞳をじっと私に向けて、一度大きく瞬いた。


「アイリオ。それが今日から君の名前だよ」



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