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第三話『寝る子はきっと育つから』

「くぅ……くぅ……」


 どれぐらいの量のミルクを作ったのか。取り敢えず置かれていた粉ミルクは全てこの小さな、いや。トカゲサイズとしては大きな体躯の赤ん坊のお腹へと消えてしまい、それでやっと満足行くまでミルクを飲めたらしいトカゲは何とも可愛らしい寝息を立てて私の腕の中で寝始めている。正直かなり、腕が重い。元々それなりの重さがあったので、そこにミルクの重みが加わって、腕が痺れそうだ。何処かに寝かせられれば良いのだけれど。


「でも良かった……取り敢えず食事は何とかなりそうだね」


 鳴き止んでくれたのは本当に良かった。赤ん坊に泣かれるというのは例えこんな人間離れした見た目の生物でも心に痛いものだ。猫の世話の時にも必死になったけど、まさか死んでからこんな空想上の生き物のミルクのお世話まですることになるなんて夢にも思わなかったよ、私。

 厨房から出て、何処か赤ちゃんを寝かせられそうな場所を探し始める。腕の中の赤ちゃんを起こさないように、適度に揺らしながら、静かに城の中らしい場所を見て回ると、最初に居た玉座があった場所の奥に階段があった。

 それを静かに上っていくと、左右に分かれた廊下に出る。少し悩んで右側から確認すると、左右には大小の部屋が用意されていて、その広さに見合ったベッドがあった。


「……人間用と、この子用の部屋かな」


 単純な発想だったが、大きな部屋はこのトカゲ、いやもうきちんとドラゴンと呼ぶが、この子が大きくなっても使えそうな程の広さがあった。そして小さな部屋は、一人で生活するには程よい狭さの部屋と、私が寝て丁度良さそうなサイズのベッドが用意されていた。

 取り敢えず自分の部屋の事は後回しにして、大きな部屋に入る。部屋の中央に用意された大きな、キングサイズ以上のサイズのベッドの布団と枕を少し整えて、そこにドラゴンをそっと下ろしてみた。


「ぴぃ……!」


 途端に小さく鳴き、ドラゴンが目を覚ましてしまう。ああこれが噂の、抱っこしてないと起きちゃう赤ん坊では?


「あー……ごめんね。よしよし、良い子だから泣かないで」


 改めて抱き上げ、背中を撫でてあやしてやる。それから少し悩んでから自分もベッドに入って、ドラゴンを腕に抱えるようにして寝てみる。

 すると少しだけぐずったものの、私の胸にぎゅっと張り付く形でドラゴンはまた落ち着くと、すやすやと穏やかな寝息を立て始めた。

 どうやらこれなら納得してくれるらしい。これでは寝返りは一切打てないが、それでもずっと抱き上げ続ける重さからは解放された。


「……これで少し休める……」


 流石にちょっと疲れた。何せ此処まで一切休まず、ずっとこの子の世話をしていたのだ。何より、あまりにも色々といきなりな事が多すぎてどっと疲れた感じが襲って来る。自分が死んだ事とか、此処が異世界だとか、この子が魔王だとか。色々と考えるべきことは山積みにされていると分かって居るのだが、疲れ切った頭が思考を完全に放棄していた。

 ぼんやりと、母親って凄いんだなぁとか、ちょっと場違いな事を思いながら、私も面倒なことは全て後回しにして今は休憩する事にした。せめて、この子が起きるまでは。


 ドラゴンの体温は、人のそれと比べるとちょっとひんやりしていたが、耳に届く寝息と心音が心地よく、私は疲れていたこともあってすんなりと眠りへと落ちてしまったのだ。


***


「ぴぃ!」


 それから。何時間寝れたかは分からないが、それから直ぐにあっと言う間に苦労して飲ませたミルクを全て栄養として吸収してしまった食欲旺盛なドラゴンに揺り起こされてしまうのだけれど。


「……寝る子も育つ、って言うんだけどなぁ」


 これは、育児ノイローゼにもなるな。と、改めて母親の偉大さを知るのだった。いや多分これまだ序の口なんだろうけど!

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