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オレと勇者サマ、終わりの先へ進む話


オレと勇者との関係を改めて見直してからも、オレたちの旅はまだまだ続いていた。

エルフの長ともなんとか話もつけて、さぁ次の場所行くかってんで村で装備を整えて森を出た。森へ入ったときにはオレと勇者2人だったのに、出るときにはさらに2人増えていた。ここへきていきなりだ。

村を出て少ししてからなんかついてきてんなとは思ってたけど、まさか仲間に入りたかったとは。エルフの双子、弓を使うお嬢ちゃんと魔法が得意なお坊ちゃんが仲間に加わったわけだが、オレら2人だと遠距離攻撃に対応できなかったから正直かなり助かったな。

ちなみに勇者は2人が村を出てからずっとついてきてたのには気づかなかったらしい。今回は仲間になるやつだったからよかったものの、悪意あるやつだったらどうしてたんだ。後ろから狙われ放題じゃねぇかもっと神経尖らせてろって叱っておいた。オレがいるからって油断しすぎ。


それからも、神秘の領域とか呼ばれてる土地へ行ったときに出会った精霊のちびっこが勇者に懐いてついてきたり、魔王戦に向けて限界を超えたいとオレの師匠であるジジイに会いに行ったらワシも助けてやろうなんて強引に仲間になってきた。これまた勇者がキラキラした目でジジイを敬ったりなんかするから調子乗りやがって。オレに向かってドヤってくるの腹立つ。

そんな感じでもちろん山あり谷あり魔境ありで紆余曲折してきたけど最終局面までたどり着けた。



魔王へのトドメの一撃を食らわしたのはオレらが勇者だった。

魔王の放つ邪悪の塊のような一撃に対抗したのは、勇者の大きく振りかぶって放った一撃。

手にしていたのは、それは神秘の泉から湧き出たように現れた邪を払うと言い伝えられていた聖剣だ。

この不思議剣、邪を払うというのは本当のようで、木や草、オレらには影響もなければ傷一つつかない。なんか当たった?みたいな感覚だった。

それが魔獣や盗賊なんかを相手に振るうと、相手の禍々しさが払われ覇気が弱まる。そういう相手に対しては殺傷能力も上がるようで剣としての性能も申し分なかった。さすが伝説の武器ってところか。

その聖剣から繰り出される一撃。まさに対魔王戦には抜群だ。

一撃同士がぶつかり、拮抗し、だが聖剣のもつ邪を払う力が魔王の力を飲み込んでいき、勇者の一撃が魔王へ届いた。


「お、のれぇぇ……!!」


勇者の一撃が魔王に触れた瞬間、光の爆発のような衝撃が走り、一面を覆う眩しさにオレらは目を背けた。

オレらに届くのは魔王の断末魔。オレは結末を確認したく、腕で顔面を覆い光に対抗しつつも目を細めながらも魔王を見た。

微かな視界で確認できたのは暴力的といってもいいほどの強い白い炎に焼かれている魔王の姿。その姿を確認できるのも一瞬でオレは眩しさに耐えられず目をつぶってしまった。

勇者とちびっこだけがまぶしさの影響を受けないのか目の前の事象を黙って見守っているようだった。


「必ず……必ず返り咲いてみせようぞ……今後こそ必ず……」


次第に眩しさも収って、残されたのは心底悔しそうなその声と、白い灰のような砂のようななにか。

もとは魔王だったとは思えない真白なそれ。


「ついに……ついに魔王を倒した……夢、じゃないよな……」

「ああ!夢じゃねぇ!よくやったよオマエ!」


目の前の光景を未だ呆然とした様子でぼそりと呟く勇者に駆け寄って力強く抱きしめた。

呆けてるなんてもったいない、意識を戻せ、お前が成し得たことをしっかり認識しろと。背中をバシバシと強めに叩く。

届いたのか、勇者は2、3度頭を振って、オレを強く抱きしめ返してきた。


「やった、やったよ!!全部お前のおかげだ!!」

「なに言ってんだよ、オマエあっての所業だろ」


こいつにとってはとんでもないスタートで始められた旅だったが、オレをどういう経緯であれ捕まえたのもこいつだし、そのあとの成長だってこいつの努力の賜物だ。

手を貸してやろうとエルフの双子やちびっこ、ジジイが仲間になったのもこいつの成長して前へ進んでいく姿に惹かれての結果だし、トドメを刺したのだってこいつだ。

そりゃまぁオレが助けてやったことも大いにあるが、主体的に動いてたのは勇者だった。


柄にもなく感動なんてしてたのもつかの間、魔王であった灰や砂のような真白な何かが浮いた。もちろんオレたちが何かしているわけもなく、それは宙に浮かんでは姿見を縁取ったような縦に細長い円を描く。縁取られた内側を薄い膜が張られている。表面はわずかに弛んでいるような波打っているように見えた。

オレだけじゃなく、勇者も、ほかの仲間もその不思議に出来上がったものを見つめる。

オレはもしやと思った。それは根拠なんてなにもない直感よりも不確かなカンだったが不思議とそうであると確信できた。

思わず勇者を見ると、示し合わせたかのように勇者もオレを見た。無言で頷き合う。勇者もオレと同じ考えに至ったんだろう。


「俺、あれで帰れると思う」


どこへ、なんて決まっている。

勇者は、こことは違う世界からやってきた異世界人だ。オレとは住む世界が違ったんだ。

魔王を倒すために遣わされたのなら、目的が果たされた今、元へと帰る手段が現れたんだろう。


いつ頃からか、考えないようにしていたことだった。

漠然と願っていたんだ。このままお互いの背中を預けながら、知らなかったものを知り、見たことのないものを見て、旅を続けられたら良いと。


でも、こいつには帰るべき世界があった。

いろいろあったし、成長もしてきたが、もともとこいつは結構な甘ちゃんだ。

ぬくぬくと、良き人々に囲まれて愛されて育ってきたんだろう。それなら、こんな、いつ死ぬともしれない世界に居続ける必要はない。


「……ああ、そうだな。帰れるだろうな」


だから。

あたたかい世界があるなら、帰るべきだ。

オレは止めない。手を離そう。それがオレがこいつにできる最後のことだ。オマエはもう一人でなんだってできる。

もう一回、力強く抱きしめて、勇者から身を離した。


「ここで、お別れだな」

「……でも、やっぱり俺は……」

「もともとオマエは自分の世界に帰るために今まで頑張ってきたんじゃねぇか。今更渋ることなんてねぇよ」


ふわふわと浮かんでいるあれを見ては、オレを見て、またあれを見たかと思えばやっぱりオレを見てくる。

なに迷ってるんだか。もともとこの世界は、オマエにとって何の縁も義理もないんだから。

まぁそれでもな。迷うくらいにはオレのこともオマエの中で大きいものになれたのかと思うと、うん、まぁ、嬉しくないこともないわな。

でもオマエはやっぱり帰らなきゃならねぇよ。しょうがねぇな、と思わず小さく笑ってしまった。


「ほら行けって」


背中押してやるのもこれで終わりだからな。

迷う勇者の背中を、文字通り押して、揺れる表面へ押し出した。

潤んでる瞳なんて、オレは見てない。だからどうか、オレの声が震えてるなんて、気づかないでくれ。


「向こう帰っても元気でやれよ」


あと一歩、踏み出せばというところまで進んだというのに、その一歩を踏み出さない。

早く行ってくれ。オマエももっとオレといたいんじゃないかと、期待したくなるだろう。腕を引きたくなってしまう。


「やっぱりだめだ!!」


最後の一歩のはずだったその足は突然向きを変えられた。前へ前へと向いていた瞳は濡れてはいたが相変わらずの強さを秘めて、こちらをまっすぐ見つめてくる。


「俺は!もっとお前と一緒にいたいんだ!」


がしりと、腕を掴まれた。離すまい、という強い意志が伝わってきた気がする。


「最初はお前についていった旅だった。今度は、お前が俺についてきてくれ!」

「オマエ、それ……」

「俺の世界には剣も魔法も存在しない。こことは全然違う理で成り立つ世界だ。お前にとっては生きにくいかもしれないけど、俺はお前といたい」

「そりゃオレも……!いや、それならオマエがこっち残ったら?このまま旅続けてよ、あちこち回るってのもいいもんだぜ」

「あっちでどれだけ時間たってるか分かんないけど、大事な家族がいてそれも捨てられない」

「だから、オレがオマエとこいってか?」

「そう!」


呆れた。オレといたいし、家族にも会いたい。どっちかを選べないから両方とると、身勝手なことを勇者サマは言うわけだ。

オレにも……まぁ家族はいないけどそれっぽい、ジジイとかいるってのに。そういうオレの都合とかガン無視な意見をぶつけてくる。


ずいっと、右手を差し出してくる。共にいこうと、共にくるならこの手を掴めと。

強引な言葉で意思を伝えてくるくせに、最後の決断はオレに委ねてくる。いっそ強い言葉のまま、オレを掴んで連れ出すことだってできるだろうに。まったく、しょうがねぇやつ。


「あれもそれも捨てられないってオマエどんだけだよ」

「あれもそれも捨てないで拾っていくのが勇者ってやつだろ?」


なんかな。まぁいいかって気にさせるんだよな。

ジジイに助けられたことがあっても、結局はオレはこいつと会うまでは独りで生きてきたんだ。

どこでだって、それなりに生きていけるってのは実地で経験はしてきた。新しいところでだって、どうにかしたって生きていけるだろう。

しかも今度はこいつと始められる。そういうのもいいんじゃないかと思えてくるのは、オレもこいつに絆されて結果なのかもしれない。

ちらりとジジイへ視線を向けると、さっさと行っちまえってジェスチャーを返された。ああそうかよ。口の端をわずかにあげて小さく手を上げて返答しておいた。


「はっ、言うようになったな!勇者サマはよ!」

「おかげさまで」


差し出された右手をぎゅうっと力強く握ってやる。

若干強ばっていた勇者の表情が、ふっと緩み、ぱぁっと明るくなった。


「退屈させてくれるなよ?」

「ああ、もちろん!」


仲間たちの元気な、でもどこか寂しげな、涙声が混じった別れの言葉を背中に受けながら、オレと勇者は揃って、次への一歩を踏み出した。





****END****


なんとか完走できました。読んでいただきありがとうございました。

剣士と勇者以外のメンバーとの合流の話は気が向いたら書きます。


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