勇者サマと対等になった話
充分すぎるほどの枝を拾ってきたオレは野営地に戻ってきた。
勇者はなんでか落ち込んでる様子だが何かあったのか。
取り繕ってるようなので触れられなくないことのようだ。とりあえずそっとしておくか。あまりに長引くようなら話でも聞いてやるか。
今は、そうだな。俺から話させてもらおうか。
「ちょっと、話があんだけど」
勇者の肩がぎくりと揺れた。なんだなんだ。やっぱり様子がおかしくないか。
勇者は訝しんだオレに気づいたようだが、硬い表情で構わず続けてくれと言ってくる。それならと、オレは口火を切った。
「オレとオマエの契約のことだけどよ」
「……うん」
「やっぱり解消しねぇか?」
「…………」
「子供助けに駆けてったとことか入り口で熱弁してたとことか見てよ、もうオマエに護衛は必要ねぇって確信したわけよ」
顔を合わせて話してるからよく分かる。勇者はなんだか怯えてる。目がうっすら揺らいでいるように見えた。
なんでか分からん。護衛する必要がなくなるくらい強くなったって言ってんだけど。喜ぶところじゃないのかよ。
「だから、今日を最後にオマエのお守りは終わりにする」
以前に一度持ちかけた時には、止めないかと提案したにとどまっていた。
今度は言い切る。終わりにすると。
勇者はぐっと口を真横に堅く結び、何か耐えているような表情を見せた。
「……わかった。それがお前の決断なら……」
あたりはすっかり日も暮れて暗い。光源は焚き火の明かりのみ。
それでもオレからはしっかり見えていた。炎の揺らめきではない、確かに揺らいでいた勇者の瞳からは今にも涙がこぼれそうになっていた。
おいおいおい、と何だか分からないなりにオレが泣かしてしまったような状況にオレも少し慌てる。
腰を浮かせて勇者に近づくと、オレから隠すように顔を俯き表情が見えなくなる。勇者の顔をがしっと掴み顔を上げさせた。反動でぽろっと涙が零れてしまった。
何をそんな不安がってんだよ。肝心な話はまだ続くっつーのに。
「だから、これからのオレは、オマエのダチとして旅することにする」
「…………へ?」
「お守りは終わり。オレらは対等だ。カネはいらねぇ。ダチ助けるのにカネなんてとれるかよ」
「えっ、なっ……!?」
オレに顔を掴まれてる間も顔を見られたくないって抗ってた勇者の力が弱まった。
呆然とした様子でオレを見て、ぷるぷる奮えだした。
「もー!!なんだよー!!」
大声上げて勇者は立ち上がった。「わー!」とか「もー!」とか叫び散らしてる。情緒不安定化かよ大丈夫かこいつ。
いくら外とは言ってもここ村のすぐ近くだ、日も暮れてるってのに騒いで門番も何事かって不審がってる。
落ち着けと勇者を宥めて座らせようとするが抵抗された。足をジタジタと地面に踏みつけて気持ちを発散させているようだ。地団駄とか、子供かよ。
「契約は終了だからアバヨってどっか行っちゃうのかと思ってたーー!!捨てられるかと思ったーー!!よかったーーー!!!」
あーあーなるほど。それであの顔ね、と今までを振り返って納得した。
始めに契約解消をふっかけたときも、今さっき口火を切ったときも、泣きそうだったのはそういうことか。
ほんとにもう。しょうがねぇやつ。
「そういうわけだからよ、これからもよろしく」
「よろしくお願いしますーー!!」
「はいはい分かったっつーの。とりあえずうるせぇから静かにしろ」
これ以上騒いで村出禁になったらたまったもんじゃない。まだ入ってもいないっていうのに。
感極まっていつまでもわーわーウルサイ勇者はオレの話も聞かずテンションに任せてオレに抱きついてくる。
あーあオレは知らないからな。これもどうせ後になって恥ずかしくなってくるパターンだろうな。前にも似たようなことがあったし。
興奮が収まらない勇者サマに一発お見舞いして静かにさせる。
いいところに入ってしまったのか、しばらく静かになってしまったので、仕方なしにオレが先に見張り番をすることにした。