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落ち込む勇者が剣士の優しさに触れた話

勇者視点。どうせだったら追加であれこれ準備しようと、剣士が体調不良の勇者を置いて部屋を出たあとの話です。


「ま、ゆっくり休めよ、勇者サマ」

「あっ……」


俺の言葉が届かなかったのか、護衛をしてくれると約束してくれた彼はこちらを見ることもなく部屋から出て行った。

閉じられた扉の音はことのほか大きく響いたように感じる。

無意識に伸ばしていた手は誰にも届かなかったので仕方なく毛布の中に戻した。


情けないって思われただろうか。

呆れられただろうか。


この村で唯一の医者というおじいさんが俺を診てくれた。疲労って言われた。

心当たりはある。彼が言ったように慣れない身で野宿をしたツケが回ってきたんだろう。召喚された国を出てからろくに寝れていなかったと思う。

それが彼という護衛についてもらって、気が抜けて安心してしまったんだと思う。宿について部屋に通されてからの記憶がなかった。


彼は出ていってしまったけど、このまま戻ってこなかったらどうしよう。

せっかく仕切り直して再出発できると思った矢先にこんな失態を犯してしまった。体調不良なんて。自分が情けない。


ぼーっとした頭で、現状のどうもしようもないあれやこれやがグルグル巡る。

理不尽にこの知らない世界に召喚されたこととか、勇者だと持ち上げられ気をよくして意気揚々と王国を出たこととか、魔物に襲われたあの時の恐怖。

魔王を倒さねば帰る手立てもない、なんて王様から言われた絶望感。

訳が分からないまま旅に出されて、でも怖くて、そんな時に差し込んだ光をどうして掴まずにいられるだろうか。


それなのに。また俺は失ってしまうんだろうか。


「勇者様、入るよ」


こんこんと扉をノックする音が聞こえた。女性の声だ。

小さい声で返事をする。涙声だった自分に驚いて、慌てて鼻をすすり目をこする。手が少し濡れてしまった。


「ご飯持ってきたよ。しっかり食べて元気だしな」


入ってきたのはここの女将で、木製のトレイに温かいスープとリンゴかな?赤い果物を運んできてくれてサイドテーブルにトレイごと置いてくれた。


「ありがとうございます」

「勇者様も大変だったんだろ、あいつから聞いたよ」

「……そうですか。あの、彼は?」


水差しを新しいものに代えて、出て行こうとする女将を呼び止めて尋ねた。


「ああ、あいつかい?朝食もほどほどにさっさと出て行っちまったね」

「……!!」


やっぱり、俺は愛想尽かされたんだ。

しょうがないよな……魔王を倒す旅に出るって矢先に倒れてりゃ世話ないよな……


「旅支度をするのに王国へ行って帰ってくるみたいだから、帰ってくるのは夕方くらいかねぇ」

「……へ?」

「ああそうそう。しっかり食って寝てさっさと治せよ、って言づてを頼まれてたよ」


忘れてて悪かったね、なんて豪快に笑って女将は部屋を出て行った。

なんだ、そうか……置いてかれたんじゃないんだな……よかった。


安心したらなんだかお腹がすいてきた。そういえば昨夜も食べてなかった。体って正直なんだな。

サイドテーブルに置かれたトレイはベッドから手を伸ばせば届く。

ベッドから改めて身を起こして、食事のトレイからスープを手にとってスプーンですくった。

温かいトマトスープを一口。喉を通り食道を通り胃にたまる。じんわりとした温かさにまた涙が出そうになる。


嫌だな、俺ってこんなに涙もろかったっけ。


誰もいない部屋で誰に見られるでもないのに、俺はなんだか恥ずかしくなってごまかすようにスープを胃に流し込むように食らった。

食べ終わった皿をトレイに戻し、水差しからコップに水を入れようとコップに手をかけたらうっかり床に落としてしまった。

思ったより元気に転がってしまったコップを拾いにベッドから立ち上がるとくらりと身がゆれた。危ない危ない。転がったコップを拾い、立ちあがると彼が使っていたベッドの向こう側が見えた。

彼は確か自分の道具袋しか持っていなかっただろうに、そこには彼のとは別の道具袋が並んでいた。俺のやつは確か、昨夜のおぼろげな記憶をたどると身につけたままベッドにダイブしてしまっただろうから彼が外してくれたんだろうか。

中身なんてほぼ空だったそれにはいくらか物が入っているかのようにふっくらとした形状をしている。


もしかして、俺が死んだように寝てた間に、彼が準備してくれてたのかな。


そう思うと、彼の優しさが見えた気がしてきた。比較的ぞんざいな態度を見せてくる彼なので(話もへー、とか、ふーん、とか聞いてくれてるのかどうか分かんない感じだし)、一応気にしてもらえてるのかなって少し嬉しくなってくる。

帰ってきたら改めて謝罪と、お礼を伝えようと決めて俺はベッドに潜り込んだ。


しっかり食べて、寝て、明日こそは出発するんだ!彼と一緒に!



ちょっと剣士ぃ~勇者くんが泣いちゃったじゃーん、みたいな。

結局剣士さんが一言足りなかったせいってのもあるので、優しいというか…?ってところはありますね。


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