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気を取り直していざ出発!とはいかなかった話


手付金をいくらかもらい、ひとまず村まで戻ることにした。

道中、この世界のイロイロを聞かれた。オレにとっては当たり前のこととかも聞かれる。

そもそも魔族ってなんだとか。金のこととか。召喚した王国のこととか。オレにとっては当たり前のこと。

そんなことも知らねぇのって言いそうになるが、なんにも知らないもんな、しょうがないか。


今ここにいる世界とは違う世界から来たってのに文字とか読めんの?って聞いたらそれはなんか読めるんだと。なんでかは知らん。

そんな基本をレクチャーついでに、かしこまった話し方も性に合わねぇから気楽に話せってことも付け加えておいた。これからどれだけ一緒に旅するか分からんが、お互い気安いほうが楽だしな。


村に戻って事の顛末を説明した。めちゃくちゃ驚かれたし、勇者も頭下げて謝ってた。

でも約束は約束だから宿泊とメシはしっかりいただく。一人が二人になったけど、まぁ気にすんなよ!こちとら伝説の勇者サマだ。


二人部屋に通されて荷物を置く。もともとそんなに量はない。

勇者は荷物を置いたと同時に身をベッドへ投げ出していた。投げ出したと思ったらピクリとも動かない。え、死んだか?

近づいてみるとかすかに息はしていた。あーびっくりした。慣れないことずくめでよっぽど疲れてたんだな。

この調子なら多少の物音でも起きはしないだろうが、一応同室者への気遣いってんで、そーっと扉を開けて部屋をあとにした。


向かうは道具屋主人の家。実は酒に誘われてんだよな、顔見知りだからな。

え、顔見知り多いって?この村小さいしな、よく考えれば顔見知りだらけだった。

この道具屋の主人、仕入れやらなにやらで他国も回ってるし、ばったり出くわしたり、護衛してやったり何かと付き合いがある。

そんでこの村はこの主人の故郷で家もあるから、村に寄って店にいるようなら夜に一杯やってるってわけ。もちろんタダ酒。タダ酒はうまい。


話すのはホットな話題。勇者サマの話ってわけだ。

道具屋もあちこち行ってるしツテも多い。その上この村は王国から一番近いからな、噂もすぐ回ってくる。

勇者として招いたのにこんな体たらくで大丈夫なのかとかグダグダ言ってる。普段思っても口に出さないくせに、酔うと口が軽くなるんだよなこいつ。


それにしたってまったくの赤の他人頼ってて、好き勝手言うよな~外野ってのはよ。

思っててもオレは口にはしない。言ったって何の得にもならんしな。


「それにしてもなんでお前護衛受けたんだ?まさか使命感?」

「そーそーオレも世を憂いてたし役に立たねぇとってね」

「バーカ、お前がそんな殊勝なこと言うか」

「えーひどくねぇ?」


思わないでもないとも。10%くらい。

まぁそんなにオイシイ仕事じゃなさそうだけど、勇者のお守りしたって言ったらハクつきそうだろ。

今後の仕事で報酬あげるネタになりそうだからよ。先行投資ってやつ?


「ま、そういうわけでしばらくは勇者サマについていくことにするわ。もしどっかであいつが何か困ってんの見かけたら助けてやってよ。かわいそうなやつだからさ」

「伝説の勇者様だし無碍にするつもりもないけどよ。お前の頼みなら気にかけててやるよ。俺もあっちこっち飛んでるから確約はできんが」

「それでいいよ。頼むな」


オレもあちこち回ってるからそれなりにカオが広い。何かの役に立つだろ。

これでいつ契約終了で別れても、あいつに少しでも見知った顔が増えるなら、いざというときなんとかなるかもしれんし。ならんかもだが。そんな先のことは分からない。

オレと別れて、知らん間にいつの間にか死んでたとか殺されたとかになってら寝覚めも悪いしよ。

旅支度で道具屋には寄るつもりだし、そん時にでも面通すか。主人、もうしばらくはここの村に滞在するって言ってたし明日もいるだろ。

明日の行程をなんとなく頭で組み立て、思う存分タダ酒をくらった。主人からは飲み過ぎだって怒られたがうまい酒出すのが悪い。


酒盛りもそこそこに部屋に戻ると、勇者はオレが部屋を出ていったときのまま寝返りも打ってない様子で寝ていた。

寝冷えするかもしれんなとは少し思ったけど、勇者は毛布も下敷きにしてるしどうしようもないからそのままにしてオレは自分の寝床に入った。


オレは翌日、これを若干後悔することとなる。



***************



翌朝。爽やかに鳴く鳥の声に目が覚めた。ベッドの上でぐっと体を伸ばして勢いよく起きあがる。

出発しようじゃないかと隣に声をかけると返事がない。

おいおい寝坊かよって隣のベッドをのぞき込むと、真っ赤な顔で息を荒くする勇者。額に手を当てると熱い。こいつ、明らかに体調崩してる。

この村唯一の医者のじじ先生を呼んできて診てもらったら案の定だった。疲労と寝冷え。よく食ってよく寝ろって言われた。


「嘘だろオイ……」

「すみません……」


あの時、下敷きにしてる毛布を引っ張り出してかけてやれば良かったなと今になって思う。

しょうがねぇじゃねぇか、オレは人の世話なんてしたことない。これくらい大丈夫だろって思ったんだって。

まぁ、こうなったからには仕方ない。出発は明日以降だな。


「ま、ゆっくり休めよ、勇者サマ」


出発が1日延びたってことはそれだけしっかり準備できるってことだ。悪く考えたって何もなりはしないからな。

どうせなら王国まで戻って、ここで手に入らない道具類の調達でもしてくるか。往復してもそんなに時間かからないだろうし。

もちろん村長のとこにでもよって王国への用事がないかも確認して。小遣い稼ぎくらいにでもなれば儲けもんだ。


オレは足早に部屋を出て、宿屋の女将にもう一泊する旨を伝えて準備に取りかかることにした。



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