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悪役令嬢になるのも面倒なので冒険に出かけます(仮)  作者: 綾月百花
10   結婚について
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7   ビエント


 ビエントはリリーの持ち物がなくなった部屋で膝をついた。


 リリーの魔力を初めて目にした。最初に教えたのは風魔法だった。今では魔力を自在に操れるほどの魔力を手に入れていた。この国でも、リリーほどの魔力を持った者はいないだろう。


「ビエント、リリー嬢を止められなくてすまない。あれほどの魔力を初めて目にした」


 父王がビエントの横に膝をついた。


「アリアが、どうしても幼いリリーでは物足りないと言って聞かなかったのだ。嫁と姑の問題は我々、男には分からぬ。リリー嬢が戻ってから、アリアがリリーを避けて虐めているのに気付いていた。シオンの事もあり、シオンが危険な事をしたのを、年下のリリーが告げ口したことも気に入らなかったようだ」

「そんな些細なことで、私は婚約者をなくしたのですか?2年間以上、二人で愛を育んできた。初めは幼いと思ったが、リリーは賢かった。覚えも良く、よく懐いでくれた。連れて帰りたくなって笛を渡した。リリーはいつも笛を付けていてくれた。愛されていると思えた。私を追ってアストラべー王国にやって来たのだ。魔物の森で魔物に襲われ落下したと聞いた。それから自分の力を磨いていったのだ。ただ私に会うために。そんなに想われて私は幸せだった。やっと戻って来たと思ったらシオンの事で、もっと危険な北の魔物の森へ旅立たせてしまった。北の魔物に森には人食いコウモリがいて、羽音がアストラべー王国の国民には拷問のような音になり殉死者も多く出た。リリーが耳栓を思いついたのだ。ダンジョンの視察にも怯まず出向いた。作戦を立てたのはリリーだ。耳栓に毒マスクを用意して、毎日の狩りで慣れていった。運搬はリリーしかできなかったそうだ。シオンが無理させた時は、4往復、180人以上を運んだそうだ。私は騎士団長と連絡を取っていたから、リリーの様子をいつも聞いていた。リリーは会う度に新しい魔術を使えるようになっていた。倒れる寸前まで練習をするほど努力家で、誇りに思っていた。帰って来たら、いっぱい褒めて、いっぱい甘やかしてやろうと思っていたのに。仕事を入れたのは母上ですね?」

「自分の子が可愛いのは、どこの家庭でも同じです」

「その可愛い娘を、母上にリリーの母上は預けたのですよ。きっと自宅では寂しくて泣かれたでしょう」


 母は黙った。


「リリーは13歳で家を出て、苦労をしながら旅に出たのです。シオンがもし13歳で家を出たら、どんなに心配になったか想像できますか?リリーはしかも女の子です」

「私が全部、悪かったのね」


 母がヒステリーな声を上げた。


「その通りです。もう議会にも出ている息子の婚約者への嫌がらせは、私に対しての嫌がらせと同じです。おわかりですか?」

「わかったわ。ビエントの好きにすればいいわ」

「その言葉を、もっと早く聞きたかった」


 ビエントは雑然と散らかった部屋の中で立ち上がると、開きっぱなしの宝石箱の蓋を閉めた。


「私は連れ戻しにいきますけど、リリーが嫌がったら、フラーグルム王国で過ごすかもしれません。アストラべー王国の王族は酷い仕打ちをすると、家にも入れてもらえないかもしれません。リリーの父親は厳格な方だ。王室とも近い存在ですので、恥をかくかもしれませんね」


 ビエントはリリーの部屋から出て行った。

 自分の部屋に戻り、荷造りをする。


「ビエント」


 父が声をかけてきた。


「すまなかった」

「もう遅いです。私はこの国を捨てるつもりで出て行きます」

「必ず、戻って来い」

「約束はできません」


 父はいつまでもビエントの背中を見ていた。


読んでくださりありがとうございます。

誤字指摘ありがとうございます。

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