5 ビエントの窮愁
ビエントは部屋に戻ると地図を開く。
側近二人を呼び寄せた。
「夜分にすまない。至急、私の宮殿を建てたい。どこの土地がいいか調査を頼みたい」
「この王宮を出ると言うことでしょうか?」
「そうだ。国王と王妃との間に亀裂が入った。私はあの二人の玩具にはなりたくない」
側近のアトムスとモリオンが難しい顔をした。
「原因はなんですか?」
「結婚だ。あの二人は、私に婚約者がいながら、新しい婚約者を勧めてくる。リリーを侮辱し、私を愚弄する」
「親子喧嘩ではないのですね」
「喧嘩ではない。この国の後継者は私だ」
いつも穏やかなビエントが怒り狂っている。
「別邸ではいけませんか?」
「私にリリーを囲えというのか?」
「そうではなくて、殿下が王宮に通うのは如何かと伺ったのです」
「王宮にも寄りつきたくはない。自分の王宮で、急用があれば、父王が来ればいい」
頭に血が上ったビエントは無理難題を言っている。
こんなことは初めてので、アトムスとモリオンは困惑している。
「リリー様はなんとおっしゃっていらっしゃるのですか?」
「リリーは実家に帰ってしまった」
なるほど、それでこれほど怒っているのかと、二人の側近は納得した。
「どなたと婚約を勧められたのですか?」
「リリーの友人のアトミス嬢だ。ついこの間まで、シオンの婚約者だった伯爵令嬢だ」
「それはまた、ひどい」
「仮住まいとして別邸を建てて、王宮を建てては如何ですか?」
「まずはリリー様をお迎えにあがらなければ」
「リリーにこの婚約の話を聞かせたくはない。仲の良い二人の仲を裂くことになる」
ビエントは頭を抱えて、脳内でアアアアアアアと叫んでいる。
「では、先に別邸を建てて、それからお迎えに上がったら如何でしょう?」
「そうですね、別邸なら3ヶ月ほどでできあがるでしょう」
「3ヶ月も会えないのか?」
ビエントは叫んだ。
「だめだ、3ヶ月も放っておいたら、愛情を疑われてしまう」
「笛を吹いたら如何ですか?」
「リリーには笛の音は聞こえないんだ」
叫んでいたビエントは、今度は力なく項垂れた。
「すまない。こんな夜に何もできないな。明日からでいい。まずは別邸の場所を決めて、建築を始めて欲しい」
ビエントは、窓の外を見て、今が夜だと思い出した。
「はい」
「はい。今夜はゆっくりお休みください」
「休めるはずがない。リリーがいないんだ」
ますます項垂れていく、主人を残して、側近は一端部屋から出た。
「リリー様のお宅に連絡した方がいいのではないか?」
「早く帰宅されるようにお願いしよう」
二人は小さな声で囁き合う。




