3 ビエントの苦悩
しばらく実家に帰ります リリー
たった1行の手紙を見て、ビエントは呆然とした。
部屋にはリリーの侍女の姿もない。
「家出か?」
心当たりは、たくさんある。
冬の洋服も買ってやれなかったし、誕生日祝いもしてやれていない。
何よりダンジョンの攻略を終えたリリーに、両親はその功績を褒めることもなく、たった一言で済ませてしまった。
あの時のリリーの落胆した顔を思い出す。
アトミス嬢には功績を称えた言葉を伝えたのに、リリーにはその言葉はなかった。アトミス嬢の婚約破棄の役目を終えて、リリーにはやること終えたとばかりに実家に帰ってしまった。
ビエントも気にはなっていたが、急に入った公務が立て込んでいて、リリーを構う余裕はなかった。
過ぎてしまったことは、もう取り戻すことはできない。
リリーは愛されていないと孤独を抱えてしまったかもしれない。
侍女を連れて出て行ったのなら、すぐには戻るつもりはないのだろう。
ビエントは婚約の笛を吹くが、リリーにその音は聞こえない。
リリーの部屋は震えるほど冷え切っている。開けられた窓から冬の冷気が入ってくる。それでも、その窓を閉めることはできない。戻ってきて欲しい。
ビエントが窓枠に足をかけたとき、ビエントの側近が声をかけてきた。
「殿下、国王陛下がお呼びです」
「わかった」
窓枠にかけた足を下ろして、ビエントは明るい廊下に足を向ける。
振り向いて、マントと王冠に飾られたトルソーを見る。美しい杖を背中に背負った姿は凜々しい。
戦場でのリリーはビエントが見たこともないほど凜々しい姿をしていたのだろう。
時間を戻すことができるのなら、リリーが戦場から戻って来た日からやり直したい。
明るい廊下に出て、リリーの部屋の扉を閉める。




