2 実家に帰ります
いったん王宮に戻ると、北の寄宿舎に置きっぱなしになっている乗り物を一台持ってきて、宮殿の端に置いた。
玄関から入って、走って自分の部屋に戻る。
「モリーとメリー、今から実家に帰ります。準備をして。えっと準備はモリーとメリーの準備よ」
「お嬢様、また急に。ビエント様が心配なされますよ」
「お手紙を書いていくわ」
リリーは、今、買ってきたばかりの洋服を出して、それを畳んでいく。下着と靴下を入れて、洋服も入れる。お土産のチョコレートを入れて、蓋をしっかり閉める。アトミスがくれたワンピースを着てみた。明るくてとっても似合う。アクセサリー入れから、赤いイヤリングを出して、赤の指輪をする。髪に赤いカチューシャをして、白いカーディガンを羽織った。準備は完了だ。赤いバックを斜めかけにすると、お財布に金貨を数枚入れて、クローゼットの奥にあるマットレスを担いで、ブランケットを一枚持ち出した。それを乗り物まで運ぶ。
ビエント様には置き手紙を一枚書いた。
実家にしばらく帰ります リリー
「リリーお嬢様、準備いたしました」
リリーは侍女の二人の荷物を持つと、窓から出て行く。順番に二人の手を持ち、持ち上げて、三人で乗り物まで飛んでいく。
モリーとメリーはどこか楽しそうだ。
「お嬢様、これはベッドの替えでございますよ」
「ブランケットまで、これは新品でございますよ」
「いいのよ。今、私は実家に帰りたいのよ」
「そうでございますか」
「落ちないように掴まっていてね。横になっていてもよくってよ」
二人はマットレスに横になりブランケットを被った。
上空は冷える。リリーもコートを買えば良かったと後悔している。それでも両親に会いたい。ストームをかけて、30分後には実家に戻っていた。乗り物を邪魔にならない場所に置き、モリーとメリーの手を取り、乗り物から降ろす。リリーは自分の荷物とモリーとメリーの荷物も持った。
「お嬢様、自分の荷物くらい持てます」
「我が儘言っているのは私だから、これくらいさせてくださいな」
チャイムを鳴らすと執事が出て、「お嬢様がお帰りだ」と声を上げた。
両親と兄が慌てて出てくる。
「ただいま」
「おかえり」
「今回はどれくらいいられるんだ?」父が訊いてきた。
「騎士団が解散したから、いつまででもいられるわ」
「お嬢様、ビエント様が心配なさいます」
「手紙を書いてきたからいいのよ」
「また家出してきたのか?」
「違うわ、家に帰りたくなったの」
リリーは両親に抱きついた。
「リリー、15歳になったわね」
「はい、お母様」
「大きくなったわ、よく顔を見せて」
母は嬉しそうに、リリーを抱きしめたまま見つめる。
「今日はパーティーにしましょう」
「ありがとう。とても嬉しい」
「あちらでは、パーティーはなかったのか?」
「はい、お父様。ビエント様がおめでとうとおっしゃってくれただけです」
「なんと冷たい」
「騎士団から戻ったときも、たった一言です。あまり歓迎されていないみたいなの。私の味方はビエント様しかいません。でもビエント様は多忙で、ビエントがお休みになるまで待っていたんですけど、とてもお部屋が寒くて、洋服も今日、お友達にお店に連れていってもらいやっと買えたのです」
リリーは不満をぶちまける。
国王様と王妃様はリリーの事を好きではないと分かる。
アトミスには、騎士団での任務のお礼をきちんと言っていた国王様が、リリーには「お疲れだったね」の一言。いくら相手が子供だからと、あまりにも酷い。リリーは子供として雇われていたわけではない。正規の騎士として雇われてきた。ラストアタックで王冠まで手に入れたのに。心がモヤモヤして、ビエント様と一緒にいると当たり散らしてしまいそうで帰って来た。
お誕生日祝いは、リリーの好物が並べられた。リリーの我が儘で連れて行ったモリーとメリーも食卓に招いて、豪華な食事を食べさせてもらった。
「お誕生日祝いは何が欲しい?」
「コートが欲しいです。手袋と」
「アストラべー王国は、そんなに冷えるのか?」
「空の上が冷えるのです。とても寒かったです」
両親と兄が頷く。
「それは寒かろう」
リリーはアクセサリーを外すと、魔物の落とした物だと、珍しいアクセサリーを両親に見せた。




