1 忘れられた誕生日
ビエントが忙しくて、洋服を買いにつれて行ってもらえない。リリーの洋服はずっと春物で寒い。リリーはアトミスにお店に連れて行ってと頼んだ。
リリーはまだこの街に慣れていない。どこにどんなお店があるのか知らない。
「普段着よね?」
「そう。今着る物が欲しいの」
「リリー、身長が伸びて、もう私と変わらないから、私のお古は着られないわよね」
リリーとアトミスは年齢が違っても、背丈は同じくらいになった。
「靴も窮屈になったの」
アトミスに連れて行かれたお店も専門店のようでオーダーメイドも扱っているらしい。
「私は、この店が好きで、ここでよく買うわ」
お店を見て回ると、確かにアトミスの好きそうな服が並んでいる。
清楚で品がいい。
体のサイズを測ってもらって、リリーのサイズを出してもらう。
「できたらワンサイズ上げてもらいますか?成長期なので」
店員が微笑んだ。
サイズの物を並べてもらい、そこから選ぶことにした。
色はアトミスの好きな空色が多い。今日のアトミスは、このお店の空色のワンピースにカーディガンを着ている。リリーはもう少し深い青にした。ミッドナイトブルーだ。汚れが目立たず、空を飛んでも気にならない。
「リリー地味よ」
「空用かしら、飛ぶと汚れてしまうの」
「そうなのね」
次はピンクと白を選んだ。レースの飾りがどちらも美しい。
「靴はありますか?」
「こちらです」
靴はシンプルだ。白い靴を一足選んだ。
アトミスのようなカーディガンが欲しい。
「カーディガンあるかしら?」
「こちらよ」
「白い物が欲しいわ」
店員が色々出してきて、選んだワンピースに着せていく。暖かそうなボレロとアトミスとお揃いのカーディガンを選んだ。
「これ、軽くて暖かいのよ」
「とても可愛いもの。私はどこかにブローチを付けるわ。そうしたら間違わないわよね」
包んでもらって、リリーは最初に換金したお金で買い物をする。
「殿下が買ってくれるんじゃないの?」
「なかなか時間が合わないの。私の両親は異国にいるし。自分の事は自分でしなくては」
「リリー、偉いわね」
「家出した自分の行いが招いた結果よ」
リリーは小さくため息をつく。
「アトミスのことも解決したし、一度実家に帰ろうと思うの」
リリーはふらりと目眩をおこし、指先で額に触れる。
「王宮には私を想ってくれる人が少なくて、寂しくなるの。洋服も買えたから、しばらく実家に戻るわね。この国に戻ったら、顔を出すわ」
「ねえ、リリー、お誕生日祝いしてもらってないんじゃなくって?」
「そうよ。寄宿舎でケーキを食べさせてもらえてよかったわ」
アトミスは「少し待ってくださる?」と言って、お店をくるりと回って、薄い黄色いワンピースを持ってきた。
リリーにあてがい、お店の奥へと入っていった。
綺麗に包まれた物を袋に入れてもらっている。
「リリーお待たせ。行きましょうか」
「あとチョコレートを買っていくわ」
「いいわよ」
チョコレートを3箱購入して、アトミスの家に送って行くと、アトミスは洋服店で買った袋をくれた。
「お誕生日祝いよ」
「アトミスいいのに」
「リリーにはお世話になりっぱなしだもの」
「ありがとう」
「気をつけて実家に戻ってね。なんだか顔色があまり良くないわ。さっきも目眩を起こしていたし、暖かくしてゆっくり休んで」
「ええ、ゆっくり休みます」
アトミスがリリーを抱きしめて、そっと離される。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
リリーは浮かぶと、そのまま王宮へと飛んだ。




