4 リリーとアトミス(2)
王宮の階段を二人で歩いて行く。ビエントが「ようこそ」とアトミスを招いてくれた。
「お邪魔します」
「アトミス嬢、あのことですが、本気ですね」
「はい。すぐにでも自由な身になりたいのです」
「わかりました。ではこちらへ」
ビエントはリリーとアトミスを連れて、応接室の一つに招いてくれた。
綺麗な器に入った紅茶が出され、茶菓子にチョコレートが一つお皿に載っていた。
二人がチョコレートを口に入れたとき、突然扉が開いた。
「誰だよ。客なんて呼んでないぞ」
シオンが部屋に入ってきた。
「何だよ、チビと奴隷か。なんか俺に用でもあったのか?急に呼び出すな、俺はおまえ達に用はない」
一気に捲し立てたとき、背後にビエントと国王様が立った。
「シオン、兄の婚約者に対してチビと呼ぶとは、礼儀作法から学ばなければならないな。学ぶのが嫌なら、不敬罪で首でも落とすか?」
「父上」
「婚約者に対して奴隷とは、なんという無礼だろう。王家として恥ずかしい」
アトミスは国王様の前に跪いた。
「国王陛下、この通り、シオン様は最初から私のことは奴隷と申しています。愛情はないとはっきり言っております。私が光の魔術師だから危険な時に助けてもらうために、側に置くと申しておりました。この間のダンジョンでの戦いの時でも、自分に麻痺が起きたときだけ私を呼び、麻痺の治療をしてもお礼の一つもしませんでした。この先、伴侶となる者としては、とても尊敬できません。どうか婚約破棄していただきたいと思います」
アトミスは一気に話して、まだ頭を下げたままじっとしている。
「アトミス嬢。バカな息子で申し訳ない。婚約破棄は応じよう。私欲のあった婚約だったことは、認めよう。いい縁談があるように、力になることを約束しよう」
「ありがとうございます」
アトミスは晴れて、婚約破棄できた。
「この愚息は、家庭教師をつけて、躾からし直すつもりだ。心根が腐っておる。情けない」
国王はアトミスの肩に触れて、頭を上げるように、声をかけた。
「伯爵令嬢でありながら、騎士団に入り、何年も力を注いでくれてありがとう。今回のダンジョンの攻略も危険な任務と知りながら、よく耐えて戦ってくれた。ありがとう、アトミス嬢」
「お礼をいただけて、嬉しく思います。仲間がいたからこそ、頑張れた任務です」
アトミスがリリーを振り返る。
リリーは微笑んで、頷いた。
「父を通して、正式な婚約破棄の使いを出そう」
「ありがとうございます」
ビエント様がアトミスの腕を引き、立たせてくれた。
「ゆっくりリリー嬢と楽しんでくれ。ここにも遊びに来るといい」
「はい」
アトミスは、今度は立ったままお辞儀をした。
国王陛下は、シオンの耳を引っ張りながら、部屋から出て行った。
「やったわ」
「おめでとう。アトミス」
「リリーのお陰よ。いつも励ましてくれありがとう」
アトミスはリリーを抱きしめる。
「アトミス嬢、弟が苦しめて、本当に申し訳なかった」
「いいえ、もう過去の事です」
「良かったわ、本当に」
アトミスは涙を流しながら、喜んでいる。
好きでもない相手と結婚なんて誰もしたくない。
リリーは過去の自分を思い出しながら、アトミスの婚約破棄を喜んだ。
読んでくださりありがとうございます。
次回10章に入ります♪




