2 リリーとシオン(2)
リリーの部屋には白いワンピースに杖を装着して、マントと王冠を纏ったトルソーが置かれた。
凜々しい姿は、リリーの宝物になった。
荷物はモリーとメリーが手伝ってくれて、金貨も金庫に入れられた。モリーとメリーは旅立つ前に預けた金貨5枚を返そうとしたけれど、それは二人に差し上げた。異国まで連れてきてしまった恩もある。モリーとメリーがいてくれるだけで、王宮での寂しさは少なくなる。
「魔法学校の事を調べてくる」と言って、いったんビエントはリリーの部屋を出て行った。その間に、リリーは片付けを進めた。
ビエントが帰って来て、国王様と王妃様にご挨拶に向かったが、「お疲れだったね」と労われたのかよく分からない言葉が返ってきた。それ以上、何も言われなかったので、すぐに部屋から退出した。ビエントが「申し訳ない」と謝ったが、リリーはその程度にしか思われていないのかと思っただけだった。
「ビエント様、私、王宮にいてもいいのでしょうか?婚約は継続されているのでしょうか?」
疑問ばかりが浮かぶ。
「私は本気でリリーと結婚を考えている」
「信じていいのでしょうか?なんなら私が年頃になるまで実家に戻っていましょうか?国王様も王妃様も私の存在を大切に思っていないように感じます」
「私がリリーを想うだけでは駄目なのか?」
「信じていいのでしょうか?」
話しながら、部屋に戻っていくと、シオンが制服姿で戻ってきた。
「シオン、話がある」
ビエントはシオンの顔を見て、シオンを足止めした。
「父上と母上に挨拶に向かうところだ」
「規律を守らず、ダンジョンで危険な真似をしたと聞いたが」
「攻略できたんだから、それでいいじゃないか?」
「魔法学校の生徒の90人を犠牲にして、何をしたかったのだ?一人は亡くなったぞ」
「弱いからだだろう?」
シオンは何の感情を持っていないように答えた。
「シオンは守られていたのだろう?」
「王子を守るのは側近の役目だ」
「それで側近の家に隠れていたのか?今回の処罰を避けるために。今回のダンジョンへの参加はシオンが指揮を執ったと聞いた。魔術学校の校長は責任を取らされて、退職になったぞ」
シオンは体を斜に構えている。
「指揮を執っただけだ。何が悪い」
「指揮を執るというのは、預かった命を最大限に守る義務も出てくる。そこは考えて行ったのか?」
「勝手に倒れていく者までは責任は持てない。」
「その責任を取ることが、指揮を執ると言うことだ」
ビエントは弟に責任について、話して聞かせるが、シオンには聞く耳がないようだ。
廊下で話していたので、国王と王妃も出てきた。
「シオン、お帰り。無事で良かったわ」
王妃は今まで聞いたこともない猫なで声で言って、シオンを抱きしめる。
「初めての指揮はきちんと執れましたか?」
「母上、魔法学校の生徒、参加者100人のうち、90人が負傷。そのうち一人が亡くなりました。話では無茶な戦い方をしたと」
「騎士団の方は助けてくださらなかったのですか?」
王妃がリリーを睨む。
「シオン様が、手出し無用とおっしゃったのですわ」
リリーは正直に答えた。
「毎日、魔物と戦い、戦術を練って挑んでいきましたが、シオン様は私たちの手を拒絶なさった結果でございます。今回の魔物は以前の魔物より凶暴で毒も持ち、人の体を一瞬で骨に変えるほどの恐ろしい魔物もいました。騎士団でも毎日の狩りで死者が出るほどで、色々対策を練って、やっとダンジョンへの攻略ができるようになったのです。突然現れて、指揮が執れるはずありません」
リリーは捲し立てるように話した。
「そうだよ、突然、指揮なんて執れるはずがないさ」
開き直ったようにシオンが言葉を発した。
「そうだね、俺にできることは、死んだ生徒のところにお悔やみに行くことくらいだろう」
そう言うと、母の腕から出て、今、帰ったばかりの廊下を戻って行く。
「どこに行くの?シオン」
王妃はシオンの後を追う。
「騎士団の殉職者はいくら払うんだ?チビ」
「シオン、リリーは私の婚約者だ。その呼び名は私を愚弄したことになるぞ」
「いくらですか?オネエサマ」
シオンは棒読みでお姉様と言った。
リリーは不快に思ったが、殉職者のところへ行くのなら、答えなければならない。
「金貨100枚よ」
「父上、金貨100枚いただきます」
「シオン、私も一緒に行こう。指揮を執ったのがシオンならば、国王の私も頭を下げなければならない」
シオンはきょとんとしている。
「国王が頭を下げるのか?国で一番偉いのに」
「シオン、おまえは間違っている。国で一番偉いのは国民だ。国民があっての王族だ。息子が失敗した作戦に巻き込まれて亡くなったのなら、親として責任を取らなくてはならない」
国王様はどうやらまともなようで、リリーは少し安心した。
シオンは国王に連れられて、階段を降りていく。
執事を呼び、金貨100枚を用意させている。
国王の側近に、殉職者の家を調べるように指示を出している。
「リリー、部屋に戻ろう。アトミス嬢の事は改めて国王に話そう」
「お願いしますわ。明日、アトミスの家に行ってまいります」
「行っておいで。アトミス嬢も心配しているだろう」
「ええ」
ビエントと国王が、まともな考えの持ち主で良かった。リリーはビエントに手を引かれて、リリーの部屋に向かった。




