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悪役令嬢になるのも面倒なので冒険に出かけます(仮)  作者: 綾月百花
8   北のダンジョン攻略
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6   退寮


 ダンジョン攻略の日は、さすがに疲労で、お風呂に入ったら眠ってしまった。

 翌朝の朝食時、リリーは誕生日ケーキをもらった。


「お誕生日、おめでとう。退寮の日だから、朝からケーキだ。食べられますか?」


 食堂の中で拍手が起きた。騎士団員がみんなお祝いしてくれている。


 振り向いて「ありがとうございます」と頭を下げた。

 リリーは「ありがとうございます」と、今度はシェフにお礼を言って、ケーキを5等分に切ってもらった。


 朝食を食べた後、シェフがケーキを持ってきてくれて、ロウソクを15本立ててくれた。

 リリーは微風の魔術で消した。


「リリーおめでとう」

「退寮の日にめでたいな」

「もうケーキも食べられないのか・・・・・・」

「リリーおめでとう。とても嬉しいわ」


 シェフがケーキを5等分にお皿に分けてくれた。


「シェフ、今までありがとう。誕生日を忘れるほど大変だったけれど、こうしてお祝いしてもらえて、とても嬉しかったわ」

「皆さんは戦士ですから、心を料理で支えることができて光栄でした」


 シェフは頭を下げて、戻って行った。

 みんなで食べる最後のケーキだ。

 わいわい騒いで、ケーキを食べる。

 最後に楽しく誕生日を祝ってもらえて良かった。





 制服のポケットからポーションを出し、たくさんあるポケットから金貨を取り出し、旅行鞄を開けて袋に入れるが、入りきらなかった。バスタオルに包んで金貨が落ちないようにして、鞄に詰めた。その上に洋服をしまっていく。久しぶりにレースの靴下をはき、普段着を着ている。毒蜘蛛を攻略したときに落とした赤いアクセサリーをアトミスに見せた。


「可愛いから普段着に付けてもいいと思ったの。これはお店では売ってないもの」


 自分で選んだ物以外を見せる。


「そうね、お店では買えないわね」

「私は選んだから、アトミスももらってくださいませんか?赤やピンクの服にきっと似合うと思うのよ」

「こんなにいただいていいの?」

「どうぞ、それはアトミスの分よ」


 アトミスはやっと受け取ってくれた。


「私、シオン様の奴隷と言われて、苦しかったの。大切な戦いの最中も集中できなくて。もらうのが申し訳なくて・・・・・・」

「シオン様が悪いのよ」


 片付けをしながら、アトミスはやっと話し出してくれた。


「・・・・・・もし、婚約破棄を申し出たら、お父様の立場も悪くなってしまうかもしれないし、でも、我慢して結婚するのも嫌なの。ずっと奴隷のように扱われるくらいなら、コウモリに食べられてもいいと思うほど、心が病んでいたわ。リリーがいなかったら、私は生きていなかったかもしれないわ」

「・・・・・・アトミス」


 リリーはアトミスに抱きついた。


「ビエント様にも相談しましょう。兄弟なのだから、弟のことも知っているはずよ。ビエント様はもう議会にも出ていらっしゃるし、その辺りもきちんとしてくれると信じているわ。もし、聞いてもらえないのなら、私も婚約破棄をしてもいいわ」

「リリーまで婚約破棄しなくてもいいのよ」

「金貨を大量に手に入れたのだから、何かお仕事を始めても楽しそうよ」

「リリーったら、ビエント様が聞いたら、慌ててしまいますわ」

「取り敢えず、お片付けをしましょう。アハト達を送って行くと約束しましたしこの部屋も綺麗にしなくてはいけませんわ」

「そうですわね」


 リリーはアトミスから離れて、片付けを再開した。

 大量に持ってきたシャンプーやトリートメントは、もう今使っているので終わる。それほど長い間、ここで暮らしてきた。化粧品はアトミスの分がなくなり、リリーの分を渡して使ってもらっていた。国境の魔物の森の時のお礼はできたような気がする。


 大きめで買ってもらった春の洋服は、窮屈になってしまった。誕生日を迎えたリリーは15歳になった。13歳で入団して、約2年だ。長い戦いだった。


 扉がノックされる。


「・・・・・・どうぞ」

「リリー。帰る準備できたぞ」

「もう少し待っていただけます?私の支度ができてないわ」

「ああ、なんかいいにおいがする」


 リリーは立ち上がると、アハトを追い出す。


「お迎えに行きますので、お待ちになってくださいな」

「リリー。その服、すごく似合っているね。出会った頃より、ずっと大人っぽい」


 身につけているのは、ビエント様が買ってくれたピンクのワンピースだ。耳には毒蜘蛛が落とした赤いイヤリングをして赤い指輪をはめている。


「ありがとう」

「部屋で待っているから」

「わかったわ」


 アハトは自分の部屋に戻っていく。

 それを見送って、リリーも自分の部屋に戻っていった。





 アハト達の荷物は多かった。荷物と言うより、金貨を入れた袋が重くて、底が抜けそうだ。

 アハト達は先に退寮の手続きをして、ポーションと部屋の鍵と制服を返した。

「団長、お世話になりました」

「元気でな」

「はい」

 三人は団長と握手をすると、「リリー」と大声で呼ぶ。

 リリーは乗り物を出してきて、アハト達の荷物を乗り物に載せる。

「私がいなかったら、どのように帰るつもりだったのかしら?」

「来ると思っていたんだ」

 リリーは微笑む。

 団長が見送りに出てきてくれた。

 アハト達が手を振っている。アトミスも久しぶりの空の散歩に楽しそうだ。

 ゆっくり上空に上がって行くと、スピードをあげて飛んで行く。

 みんなが嬉しそうな声を出す。

「フィジの家からだったわね」

「家、覚えている?」

「黄色い屋根だったわね」

「そうそう。ここだよ」

 リリーは乗り物を下降させる。

「またな」とアハト達に声をかけて降りていく。荷物はリリーが持っている。

「ただいま」

「おかえり。今回は早かったわね。あら、お嫁さんかい?」

「違う、友達。リリー、荷物はどこでもいいよ」

 リリーはそっと荷物を降ろして、「元気でね」と挨拶する。

「リリー、幸せにな」

「ありがとう」

 手を振り駆けていく。

 少し乗り物を飛ばして、今度はワポルの家の側に降ろした。

「重いのを持たせて、悪いな」

「魔法で持ち上げているから、平気よ」

「ただいま」

「おかえり、ああフィジ。会いたかったわ」

 フィジは恥ずかしそうにしているけれど、フィジの母親は、ずっと心配してきたのだろう。

 持ち物を床にゆっくり降ろして、フィジに手を振る。

「リリー、幸せになれよ」

「ええ、ありがとう」

 少し坂の上まで移動して、アハトの家まで送る。

「リリー、今までありがとう」

「私がありがとうって言わないといけないわ」

「リリーは、俺の初恋だ。幸せになれよ」

「ええ。ありがとう」

 家に入る前に抱きしめられた。

 アハトはすぐに体を離すと、「ただいま」と言って家に入っていった。

「荷物はどこでもいいよ」

「それでは、アハト、元気でいらしてね」

「ああ、リリーもね」

 リリーは駆けるように、乗り物の場所まで戻った。

「見たわよ」

「・・・・・・なにかしら?」

「ビエント様には秘密ね」

 リリーは微笑んだ。

「寒いけど綺麗な場所ね」

「そうね、金を換金するときも大変そうね」

「そういえばそうね」

 こんな山の上の村に銀行はないだろう。

「きっと旅をしながら換金するのね」

「大変そうだけど、それも楽しいのかもしれないわ」

 乗り物を山の上から下まで勢いよく降りると、冬の冷えた風が顔にあたり寒いが、スピード感は気持ちいい。しばらく山で遊んでから、寄宿舎に戻った。

「お嬢様達は夕食を食べていくのか?」

「帰りますわ」

「そうか、寂しくなるな」

「団長、ここがなくなったら、どこに配属になるのですか?」

「しばらく休暇をもらって、ゆっくり休ませてもらうよ。国の騎士団に所属しているから、どこかに配属になるだろうね」

 寄宿舎には、馬車待ちの戦士が数名残っているが、リリーは飛べるので、いつでも帰ることができる。

「アトミス、帰りますか?」

「リリーと眠れなくなるのは寂しいわ」

「それならもう一泊していってもいいですわよ」

「帰りますわよ」

「洗濯機はどうします?」

「寄付でいいわ」

「それなら戻りましょう」

 部屋まで戻って、最後の片付けを始める。

 バスルームの石けんや洗面所の石けんも片付ける。荷物はそれほど多くはなかった。大きな鞄に王冠とマントを入れて、杖とロットを背中に背負えるように固定するとそれを背負った。制服とポーションと鍵を持って、部屋を出る。

「団長、お世話になりました」

「元気でな」

「はい」

 二人で頭を下げると、寄宿舎を出た。手を繋いで一気に上空に上がると、風に乗って、アトミスの家に送る。

「会いに来ますわ」

「待っているわ」

 リリーはゆっくり上昇して王宮に向かった。部屋の窓が開けられている。

 寒くないのかしら?

 そっと覗くと、モリーとメリーがいた。

「ただいま」

 するりと窓から部屋の中に入ると、モリーとメリーが「お帰りなさいませ」と言いながら抱きついてくる。

「お怪我はありませんか?」

「はい、とても元気ですわ」

「大きくなられましたね」

「この洋服が窮屈になりました」

「美しくなられましたよ」

「ビエント様が驚かれますよ」

「お嬢様、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、二人とも」

 モリーとメリーが嬉しそうに微笑んでいる。

 リリーは荷物を取り敢えず置いていく。

 突然扉が開いて、「リリーはまだ戻ってこないのか?」と言いながら、ビエントが部屋に入ってきた。

「ビエント様ただいま帰りました」

「リリー、騎士団が解散になったから、いつ帰ってくるのか、窓を開けて待っていたんだ」

「朝からですの?」

「いや、昨晩からだ」

 リリーは苦笑する。さすがに解散はしたが、疲れて眠るだろう。

 この部屋にいたモリーとメリーが風邪を引かないか心配だ。

 二人ともメイド服にカーディガンとコートを羽織っているが・・・・・・。

「寒かっただろう」

「冷えますね」

「こんな薄着で」

「私は、この服しか持っていっていませんもの」

「そうだったな。冬用の服も仕立てなければ」

 モリーが部屋の窓を閉めて鍵をかけている。

「部屋を暖めよう。この部屋は冷えすぎている」

 ビエントは、リリーを抱きしめて「美しくなった」と喜んでいる。

「リリー、今日は誕生日だったね。おめでとう」

「ありがとうございます。ビエント様」

「今から少し洋服を買ってこよう。風邪を引いてしまう」

「もうお店が閉まる時間よ」

「そうか残念だ」

「お気持ちだけいただいておきますね」

 ビエントの優しさに触れて、心が温かくなった。


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