5 祝杯
怪我をした魔術学校の生徒はトラックが何台かやって来て、病院に運ばれていった。
シオンの仲間が、運ばれていった生徒の名前を確認して記録していた。90人ほどが運ばれて、残ったのは10人そこそこだ。
マイクを持ったシオンは、まだ偉そうな顔をしている。
「今日はダンジョンの攻略お疲れ様でした。無事に攻略できて何よりです」
「王子からは以上ですか?」
「はい」
シオンはマイクを騎士団長に渡すと、椅子に座った。
「王子だってさ」とこそこそと騎士団の中で皆が囁く。
「リリーの婚約者?」
「・・・・・・違いますわ」
「リリーがあんな心もなさそうな奴と結婚させられるなら、俺がリリーを守ってやる」
アハトが胸を張って、言った。
アトミスの顔色が悪い。
王子の挨拶も、素っ気なく、態度も悪い。
これでは、アトミスが婚約者だと胸を張って言えないだろう。アトミスが望んでいなくても、婚約者であることは変わらないのだから。
今日の攻略でリリーは何も言わなかったが、コウモリに余計な攻撃をしてきたのは、シオンだと気付いた。攻撃がそれほど強くなかったから、逃げ出したコウモリが一匹だけだった。あれでもっと力のある攻撃だったら、コウモリはもっとたくさん解放され、被害者が出たかもしれない。シオンは魔法が苦手なんだと感じた。それを悟られないように一生懸命隠しているような気がした。
団長がマイクを握り直し、騎士団員に向かって頭を下げた。
「今日は申し訳ないことをした。我々だけなら、もっと早く攻略できただろう。余計な怪我人も出して、皆を危険な目に遭わせた。魔法学校の生徒を受け入れた私の責任だ」
そう言うと、再び深く頭を下げた。
「まるで俺たちが邪魔をしに来たみたいに聞こえるんだけど・・・・・・」
シオンが不愉快そうに声を出した。
「ラスボス戦で余計な攻撃をしたのはシオン王子でしたね。私は透視ができる。なので、透視で見ていました。もし、もっとたくさんのコウモリが逃げ出てきて、襲いかかってきたら、団員の命も危なかった。シオン王子の命も危なかったのですよ。私はあのコウモリの怖さを知っています。群がったコウモリは骨を残すまで肉を食べ尽くします。王子、その哀れな最後の姿を想像できますか?私は騎士団長として、騎士団員の皆の命を守る義務があります。最初に攻略の指示がなされたでしょう。その通りに動かなければ危険だから、何度も話し合いをして攻略方法を考えてきました。どうか上に立つ身ならば、責任の重大性を考えていただきたい」
シオンは机を叩くと、食堂から出て行った。その後を、魔法学校の生徒が追った。
「では、諸君。立派に恐怖と戦いながら、よくやってくれた。国の誇りだと感じている。君たちほどの英雄はいないだろう。どうか胸を張ってこれから生きていって欲しい。身につけた魔法は良い使い方に使って、これから生かして欲しい。今夜はシェフが腕によりをかけた夕食だ。よく味わって欲しい。皆、ありがとう」
拍手が沸き起こった。
今日の食事はシェフがトレーを渡してくれる。美味しそうなステーキにサラダとスープとパンが置かれている。
「魔法学園の生徒の分が残っているから、皆、おかわりは自由だ。好きなだけ食べるといい」
スープとパンと飲み物は、いつもの定位置に置いてある。
リリーは久しぶりの豪華な食事に、眠気も吹っ飛んだ。
「アトミス、悩みは後にして、今は料理を食べましょう」
アトミスは苦笑しながら、頷いた。
「お腹が空いたわ」
「戦う前は、しっかり食べないと負けてしまうわ。私が婚約破棄したときは、お腹を満腹にしたわ。アトミスがどうしたいのか、後で教えてくだいますか?必ず協力するわ」
「・・・・・・リリー」
アトミスは頷いて、料理を食べ出した。
リリーはお肉もスープもパンもジュースもみんなおかわりした。
アハト達も喜んでおかわりしている。




