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悪役令嬢になるのも面倒なので冒険に出かけます(仮)  作者: 綾月百花
8   北のダンジョン攻略
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4   ダンジョンへの攻防 (3)

 

 どちらかと言うと、リリーはコウモリを好きではない。子供の頃屋根裏に登ったとき、大量なコウモリと出くわした事がある。屋根裏を飛ぶコウモリが体に触れる度に、泣きたくなった。やっと窓まで行き、窓を開けると、コウモリは急いで外に逃げていった。あの時の肌に触れた感触は未だに覚えている。このダンジョンでも、できれば触れられたくはない。いつもの狩りと同じだと思えば冷静になれるはずだ。


 リリーは精神を集中させる。


「アトミス、耳栓はどうなさったの?」

「忘れていたわ」


 アトミスが忘れるなんて・・・・・・。


 シオン王子と出会ってからアトミスの様子がおかしい。シオン王子は耳栓ではなく補聴器のような物をはめている。騎士団と魔法学校の差なのだろうか?

 魔法学校の方が、設備がいいのかもしれない。


「リリー嬢、ファーストアタックだ。トルネードからのサンダーストームで頼む。ここの奴は風属性と相性がいい。予定通り子供が生まれたらすぐにトルネードからのサンダーストームな。残りの者は隙間ができたら、ボスに攻撃してくれ」


 ガースが攻撃方法の確認を行う。

 何度も相談して、決めた攻撃方法だ。


「わかりましたわ」

「了解」

「任せろ」

「では、開始するぞ」


 リリーは空中に浮かんで杖を構えた。


「では、いきますわ」


 魔術を集中させて、リリーはトルネードをかけて、サンダーストームで雷を落とした。雄叫びが上がって、コウモリが生まれた。次の風魔法の術者がトルネードをかけて、サンダーストームを落とした。その間に、火属性が魔物を焼いていた。火が消える寸前に、トルネードをかけて、サンダーストームを落とした。時間差攻撃で、風魔法で巻き取り、雷で焼き、火魔法で焼いている。


 雄叫びが上がった。

 コウモリが出てきて、またトルネードで巻き取りサンダーストームで焼き殺す。

 風魔術と火魔術の連続攻撃でボスは動けないのか、こちらには来ない。幸運だ。


 単純だが連続魔法は、コウモリによく効いていた。あと少しで殺せると思ったとき、背後から、テンペストが吹いてきた。強さはそれほどなかったが、突然の大嵐の風がトルネードの風を動かして、コウモリがトルネードから出てきてしまった。


「他の風属性、逃げた奴をトルネードで」


 トルネードをかけるが、コウモリはすり抜けるように飛んで、こちらに飛んでくる。

 ここで逃したら、危ない。


「すいません、捕まえられません」

「逃げられました、す、すみません」

「クソっ、逃げられた」

「駄目です。あいつ、向かってくる」


 ことごとく失敗して、術者が怯えている。


 ワポルが「オーストーム」水魔法で、叩き落とし、フィジが土魔法で潰した。


「後ろの学生、邪魔をするな」

「ふん」


 シオンの声だ。

 連続攻撃は続いている。リリーがサンダーストームを落としたとき、魔物がパンと弾けて消えた。


「やった!」

「リリー、またラストアタック」

「偶然よ」


 ボスが落とした物を見ると、宝箱と金貨と王冠だった。


「王冠はリリーだな。ラストアタック取った奴だし」

「金色に見えるから、専用かもしれないわ」


 リリーは宝箱を開けると、中からマントが出てきた。マントを纏った。


「専用なのか?」

「付けてみますか?」


 マントを床に置くとみんなが触れようとしても触れられない。王冠も置いた。誰も触れられない。


「リリーのものだってすぐ分かるな」

「みんなごめんなさい。たくさん、色々出なかったわ」

「これも時の運だぜ」


 リリーはマントを着けると、王冠を被った。記念に金貨一枚もらった。


「リリー嬢、金貨、一枚じゃなくても、もっと持っていけ。ここが最後だ。ポケットの中にでもどこでもいいから入れていけ」

「分かりましたわ」


 みんなが金貨を鞄に入れてくれる。ポケットの中も入るだけ入れてくれた。


 マントは体力だった。疲れていた体が回復するように楽になってくる。王冠は魔力だった。相当高い魔力を持っている。


 無理だと思っていたダンジョンの攻略は、無事になんとかなった。

 リリーはアトミスの手を握った。


「終わりましたわよ」

「・・・・・・そうね」

「大丈夫?気分が悪いのですの?」


 アトミスはただ首を振っている。

 洞窟の入り口から団長が「リリー嬢」と叫んでいる。


「行きましょう」


 アトミスを浮かべようとしたが、手を離された。


「先に行ってくださる?」

「早くいらしてね、たぶん、もう夕方ですわ。降りられなくなりますわ」

「・・・・・・わかったわ」


 リリーはアトミスを置いて、洞窟の中を飛んで行く。


「お待たせしました」

「これはまた、ラストアタックでも取ったのか?」

「はい、なんだか仰々しいですわね」


 王冠にマント姿は、少し恥ずかしい。


「いや、似合う。さあ、最後の仕事を頼む。日が暮れてきた」

「はい」


 リリーは杖を杖フォルダーにつけて、両手を開けた。

 リリーは乗り物に乗せられた負傷者を、持ち上げた。重なった体もあるから人数は分からないが50人以上いるような気がする。動かないので大勢乗っていてもそれほど気にならなかった。寄宿舎の前に降ろして、動けない者を寄宿舎の横に寝かせた。全員が魔法学校の生徒だった。重傷者もいるようだ。


 リリーはすぐにダンジョンのある山へと戻っていく。先に魔法学校の生徒を乗せて、降りている。

 行ったり来たりを繰り返して、すべての団員を降ろしたら、もう暗くなっていた。魔物がいたら、確実に襲われる時間だ。最後に団長が見回りをしてきたらしいので、残された者はいないと言っていた。

 体力のマントがなければ、リリーは疲れて動けなくなっていただろう。

 団員を降ろして、暗い場所で乗り物を片付けていく。


「リリー嬢、お疲れだったな」

「魔法学校の生徒が多すぎますわ。まったく怪我をしに来たようなものですわ」


「はぁ」とため息をついて、寄宿舎の中に入っていく。


「ほら、ちょっと待て、今日の報酬を貰っていけ」

「そうでしたわ」


 ノートに記入をして、袋に入れられた金貨を団長が数えて確かめてくれる。


「お腹も空いていますけれど、とても眠いですわ」

「寝ぼけて落とすなよ。30分後に集合だ。部屋に行ったら荷物を置いて戻ってきなさい」

「分かりましたわ」


 そういえば、いつも一緒にいてくれるアトミスがいない。

 先に部屋に戻ったのだろうか?


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