7 婚約破棄
「相手は礼儀がまるでなっていない無知蒙昧なゴブリン子爵令嬢だ。いい加減に相手になるな」
「お父様は、娘がこんなに侮辱的なことをされても、娘を庇ってはくださらないのね」
「そうではない。今は堪えよ。国王陛下の面前だ」
父は声を潜めて、リリーに告げる。
「お父様も嫌いよ」
「リリー」
濡れたリリーの髪を父が抱くが、リリーは嫌がって、父から離れる。
「リリー嬢、本当にすまないことを息子がした」
「さあ、アルミュール、リリーさんに謝って」
「リリーごめんなのだ」
「もう殿下の顔も見たくありませんわ、せいぜいそちらの子爵令嬢と仲好くされたらよろしいのですわ」
「リリーとは毎回ダンスをしているから、たまには他の女の子達と踊りたいんだぞ」
リリーは婚約者としては到底信じられないことを口にした、不実な王子の顔を見た。
少しも悪いことをしたと思ってはいない。
「国王陛下、王妃陛下、今のアルミュール殿下の言葉をお聞きになられましたか?殿下は、王家が定めた私を婚約者だと認識できていません。尚且つ、婚約の意味さえも理解されてはおられぬご様子。兄と同じ歳だというのに。もう我慢できません。きちんと婚約破棄してください」
「……すまない。そんなに嫌なら、一度白紙にしよう」
「ありがとうございます、国王陛下。心の底から感謝いたします」
第一王子のアルミュールは、身体はともかくも、心の成長が遅く知恵が回らない。
皆は一応口にしないが、見かけだけ立派になったとはいえ、中身はまだ幼子と変わらず成長の兆しさえ一切見えない。
年下のリリーでさえも、アルミュール王子を見ていると、いまだオムツの取れない年下の弟がいるような気がしていたのだ。
「ハイハイ~、それなら、私がアルミュールの婚約者に立候補いたします~♪」
空気を読めないミーネが声をあげてきた。
「好きにしたらいいわ」
リリーは、国王と王妃に丁寧にお辞儀をすると出口向かって歩いて行く。
「婚約の話は、すべて白紙だ」
国王が鳥頭のミーネに言った。
貴族としては最底辺近くにいる子爵令嬢相手に、政略結婚でも考えているのだろうか?解せぬ。