11 耳栓
夕方の食事の時間に耳栓が配布された。
「コウモリのような魔物の音を加減できるように、自分で穴を開けるなり工夫しみて欲しい。今日はダンジョンの内を見てきた。ラスボスはやはりコウモリだった。毒を吐く花は、毒マスクを用意しようと思う」
団長は最初から順番に見てきた魔物の話しをしていった。
「まずは耳栓に慣れるように工夫してみて欲しい」
戦士が手を上げた。
「話せ」
「ダンジョンの攻略を視野に入れているのですね?」
「最終目的は魔物の討伐だ。そのためにはいつかダンジョンを片付けたい」
「勝てるのでしょうか?」
「勝てると信じている」
ぼそぼそと戦士達は話し出した。みんなコウモリの大群を恐れている。生きたまま食べられる仲間を見た者は多く、なんとか踏みとどまっている者が多くなっている。リリーも仲間の誰かが目の前で襲われたら平常心ではいられないだろう。そのために、リリーたちのパーティーは音がしたらすぐにリリーに報告して、間近に来る前に倒している。
「俺たちにも戦えってことか」とアハトは言って、パーティーメンバーを順に見た。誰も失いたくないと思うのは、みんな同じだろう。
「試してみるより仕方がないだろう」とワポルも言う。
「いつまでも狩りをしていることもできないだろう。いずれ戦うのなら、早めに慣れておいた方がいいだろう」
フィジが耳栓を弄りながら言った。
リリーにも配られたが、念のためにポケットに入れておく。
アトミスは疲弊して見えた。耳栓に触れていたが、すぐにポケットに片付けた。
北の森の魔物の森は後回りにさせられてきたが、国境地帯の方が魔物を倒しやすかった理由があったのかもしれない。
「まずは確かめてくれ。以上だ。食事を摂ってくれ」
団長は食堂から出て行った。
ザワザワしながら、皆が料理を食べ始めた。
「リリーさん、団長からです」
シェフがご褒美を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
シェフは微笑んで調理場に戻っていった。
お皿にはアイスクリームとチョコレートが載っていた。
「リリー、なんのご褒美だ?」
「国境の寄宿舎から乗り物を持ってきました。その後、ダンジョンの中を見に行ってきました」
「倒せると思えたか?」
アハトが自信なさそうに言葉を発した。真っ赤な頭のアハトは、いつもどこか楽天的な方だと思っていたが、今回は自信がなさそうだ。
「今回のボスは、前回のボスより大きかったですね。飛ぶ魔物が多くて戦い慣れないと戦いづらいと思います。ラスボスは先ほど団長が言っていたコウモリなので、飛びながら小さな魔物を生み出されると耳のいい皆さんにはキツいと思いますけど、耳栓で音を加減出るのなら、倒せると思います」
リリーは急いで食事を食べながら、話す。急がなければ、アイスクリームが溶けてしまう。
「そうか、耳栓か」
アイスクリームまで食べて、アトミスを見ると顔色があまり良くない。
「アトミス、チョコレートを一つ食べませんか?」
「それはリリーへのご褒美よ」
「私がもらった物ですから、自由ですわ」
リリーは可愛い楊枝の付けられた生チョコレート一つをパン皿の上に置いた。
「ありがとう」
「いいえ、今日も頑張りましょう」
「・・・・・・そうね」
アトミスは生チョコレートを口に運ぶと、やっと微笑んだ。
リリーも生チョコレートを口に入れた。頬が落ちそうなほど美味しかった。




