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悪役令嬢になるのも面倒なので冒険に出かけます(仮)  作者: 綾月百花
7   北の魔物の森
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7   戦死者


 お腹はすごく空いていた。またアトミスと同じ物を取り、リリーはアトミスよりたくさんお皿に盛った。アトミスは音に疲弊して食欲が落ちているのか、前より盛り付けが少ない。美味しそうなパンとバターをもらって、最後にオレンジジュースをトレーに載せる。

 アトミスに付いて、アハト達の前に座る。アハト達もいつもより食欲がないのか、いつもよりも盛り方が少ない。


「いただきます」


 リリーは普段と変わらない。静かに食事を食べて、おかわりにもう一個パンを貰って、オレンジジュースも持ってくる。


「リリーは元気だな」

「ええ、元気よ」

「あの音に悩まされるのかと思うと苦痛だな」


 珍しくアハトが弱気な声を出した。


「あんな音は初めてだ」

「志願したことを悔やんでいるよ」

「そんなに辛いんですの」

「聞こえないとは羨ましい」


 リリーは婚約の笛に触れた。

 ビエント様が笛を吹いても聞こえないのは寂しい。

 食べ終えて、トレーを片付ける。


「アトミス大丈夫?あんまり食べてなかったみたいよ」

「・・・・・・食欲も落ちるわよ」


 毎日支給される金貨を貰いに、事務所に行くと寄宿舎の前に戦士が四人並び、団長と副団長が外に出ていた。

 アハトが団長を呼びに扉を開けると、地面に箱が置かれていた。

 リリーは何気なく、箱の中を覗き込んだ。生々しい骨が入っている。

 並んでいる四人が泣いている。


「助けることができなくて申し訳ございません」


 パーティーリーダーなのだろうか、泣きながら頭を下げていた。


「続けられそうか?」

「少し考えさせてください」

「ミハイルは英雄として、見舞い金と共に故郷へ送り届ける」

「よろしくお願いします」


 四人が頭を下げた。

 声をかけられず、いったん、寄宿舎の中に戻る。

 しばらくして団長は箱を胸に抱き、寄宿舎の中に入ってきた。


「おまえ達、何だ?」

「金貨を貰いに寄りました」アハトが代表で答えた。

「ああ、少し待ってくれ」


 団長は箱を机の奥へと置いて、布をかけた。


「コウモリみたいなのにやられたんですか?」

「ああ、あいつらは獰猛だ。おまえ達も気をつけろ」


 団長は金庫から金貨を出して、一人二枚ずつ金貨を渡して、署名をするノートを差し出した。


「見舞い金っていくらもらえるのですか?」

「金貨100枚だ。大金になるだろうが、生きていればもっともらえる額だ。生きろよ」


 団長は「行きなさいと」とアハトに言った。

 外では仲間だった四人が泣きながら副団長と話している。


「行こう、みんな」


 アハトは、アトミスの肩に触れて、歩いて行く。アトミスは蒼白な顔色になっている。


「アトミス、戻りましょう」

「・・・・・・ええ、そうね」


 アトミスは胸の前で十字を切って神に祈った。

 リリーもその箱に十字を切り神に祈った。


「行きましょう、リリー」

「はい」


 リリーはアトミスの後ろを付いていく。


「リリーを危険な場所に連れて来てしまたったわ」

「いいえ、私はアトミスの方が心配よ。食事も食べられないほど、心を傷めている姿を見るのは辛いですわ」


 階段を上ると、リリーはアトミスの手を握った。


「私が必ずアトミスを守るわ」

「リリー」


 アトミスはリリーを抱きしめた。


「怖いの。あんな姿になってしまうのかと思うと」

「アトミスをあんな姿に絶対にさせません。アハトもワポルもフィジも」


 アトミスが何度も頷いている。


「リリーがいてくれて、心強いわ」

「あのコウモリみたいな魔物は、私がやっつけます」


 アハトもワポルもフィジも部屋の扉の前に立っていた。


「リリーがいるんだ。俺たちは大丈夫だ。アトミス」

「・・・・・・そうね」


 アトミスは涙を拭って、リリーと手を繋いだ。


「おやすみ、お嬢様達」

「おやすみ、男性諸君」


 アハト達は部屋に入っていった。

 リリーとアトミスも部屋に入った。


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