6 図々しいのよ
出口に向かって行ったら、背後からまたドレスを踏まれ、今度は床に手を突いた。
「アルミュール様を悪く言わないでください」
ミーネがリリーの頭からワインをかけてきた。
白銀の髪がワイン色に染まる。青いドレスもワインをかけられ、変色していく。
「何をする気よ」
「お返しをしただけです」
「あなたは私に行った無礼な数々に対して、反省していないのね」
「してないわ。ファーストダンスに私を選んでくださったのは、アルミュール様です」
「もはや敬称もつけないのね?一子相伝の秘奥義の継承者?」
「リリーさんはアルと呼んでいらしたわ」
「無関係の十把一絡げの下位貴族令嬢と違って、正式な王家の婚約者だとは言わなかったかしら、この鳥頭の貴族モドキ?」
「二人ともいい加減にやめなさい」
兄が止めに入るが、ミーネは未だにリリーのドレスを踏んだままだ。
「いい加減、ドレスの裾から足を退けなさい」
リリーのドレスの裾はボロボロになっている。
「こんなことをして、不敬罪にあたるわよ。あなたは子爵の娘でしょ?訴えるわよ」
その場に駆けつけた国王と王妃がリリーのドレスを見て、ため息をつく。
「さあ、足を退けなさい」
「嫌です」
「本当に不敬罪にあたるのだぞ。もはや子爵の名も命もいらぬと見える。このまま処刑台まで引きづられたいのか、名も知らぬ小娘よ?」
「ごめんなさい」
国王に言われて、ようやくミーネは足を退けた。
「リリー嬢、ドレスは弁償しよう」
「いりません。このドレスは気に入っていなかったので。私は白いドレスが欲しかったの。お母様とお兄様が青いドレスがいいとおっしゃったから仕方なく、これにしたのですわ」
「わかったわ。白いドレスを作りましょう。リリーもう家に帰りましょう」
母が、リリーの濡れた髪をハンカチで拭ってくれるが、小さなシルクのハンカチで拭えるはずがない。
「タオルを二枚持ってきてくれ」
国王が声を上げると、従者が二枚以上のタオルを持ってやってきた。
母と兄がタオルを受け取って髪とドレスを拭ってくれる。
「リリー嬢、今日はすまなかった」
「いいえ。もう金輪際。こちらには参りませんので」
「リリー。いい加減にしなさい」
父もリリーを宥めに入った。
「殿下とは婚約破棄してください」
リリーは叫んだ。