1 アトミス
「お父様、お母様、お兄様、お元気で」
「リリーも元気でいるんだよ」
「はぁい」
パーティーが終わった次の日、リリーは両親を自宅に送った。
シェフの昼食を食べて、お茶を飲んだ後、アストラべー王国に戻った。パーティーでアトミスが一人でいたことが気になって、アトミスの家を訪ねた。
「昨日はパーティーに来ていただき、ありがとうございます」
アトミスの母親に挨拶して、応接室に招かれた。待っていると、アトミスが部屋に入ってきた。
「アトミスお姉様、昨日はありがとうございます」
「わざわざお礼を言いに来たの?」
「なんだか元気がないですわ」
アトミスは水色のワンピースを身につけ、寝起きのような顔をしていた。
「昨日はシオン様とお会いになれましたか?」
「ええ、パーティーが終わった後に、笛を吹いたの」
「まあ、来てくださいましたか?」
「来てくれたけれど、もう二度と吹かないわ」
アトミスの首には婚約の証の笛はつけられていなかった。
「喧嘩をなさったのですか?」
「婚約破棄していただきたいの」
「どうかなさったのですか?」
「今回の婚約は魔術師として戦うシオン様の命を救うために、光の魔術師である私を選んだんですって。光の魔術師であるなら私でなくても良かったようです。私はこの先も魔物と戦い、シオン様の命を守るために側に居続ける役目の婚約だったらしいの」
「そんなの酷いですわ」
「誰も愛していないと言われましたわ。婚約破棄もお願いしましたけれど、命綱だからと断られましたの」
「あまりに酷すぎますわ」
「浮気をされて婚約破棄されるよりも酷いです。私はシオン様の奴隷と言われました」
「・・・・・・お姉様」
アトミスは顔を覆い、涙を流している。
リリーはアトミスの隣に座り、背中を撫でる。
「リリー、シオン様はリリーの事を嫌っているわ。気をつけなさい」
「わかりましたわ」
アトミスはハンカチで涙を拭うと、リリーの手を握る。
「北の魔物の森に行こうかと思っていますの」
「・・・・・・どうして?」
「魔物退治に慣れておかなければ守る事はできませんし、北の森のダンジョンを攻略してしまえば婚約破棄をしていただけるかもしれません」
「ダンジョンを攻略すれば婚約破棄していただけるの?」
「シオン様はまだ魔術学校に通っておられますから、まだ魔物退治には出られません」
「そうなのですね。いつ出掛けますの?」
「まだ決めていません」
「それなら私も魔物退治に行きます」
「ビエント様は許されませんわ」
「説得してみます。少しお時間をくださいな」
「リリーまで私の運命に巻き込むことはできませんわ」
「私、毎日暇すぎて、時間を持て余していますの」
リリーは微笑むとアトミスの手を握った。
「背中を預けられる者は信頼できる相手だけですわ」
「リリーありがとう」
アトミスの手がリリーの手を握り返した。




