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足を踏み出した瞬間、後ろから誰かにドレスを踏まれた。もう一歩足を出していたら、確実に転んでいた。
振り向くと、ミーネが綺麗なドレスを身につけ、跪いていた。
床に広がるドレスは、繊細なレースでできていて、裾の方は、細かなレースで編まれている。リリーも着たことのない美しいドレスを見て、また怒りが満ちてくる。
「他人のドレスを踏まないでいただきたいわ。失礼よ」
「ごめんなさい」
ミーネが立ち上がり、リリーのドレスから足を退けた。
ミーネが踏んだドレスの場所が、黒く変色して破けていた。
向かい合って見ると、ミーネが身につけたドレスの胸元にも繊細なレースが施され、袖にも綺麗なレースで作られている。ハイウエストの切り替えもレースでできている。国王と王妃が楽しみにしていなさいと言った訳がわかった気がした。
確かにウエディングドレスのように豪華な作りだ。
見るだけで頭にくる。
「私の礼儀がなっていませんでした」
「礼儀以前の問題よ。他人のドレスの裾を踏むなんて、意地悪をしているみたいよ。見てご覧なさい。あなたが踏んだ場所が黒く変色して、破けてしまったわ。みっともないわ。恥でしかないわ。その上、こんな危険な事をして怪我でもしたらどうしてくれるの?」
「だから、ごめんなさい」
「だからって、なんなのよ。人のドレスを破いておいて」
ミーネが俯く。
「アルミュール殿下に婚約者がいることを知らなかったの」
「この国の誰もが知っているわ」
「それでも、私は知らなかったの。無礼をいたしました」
「この国で一番の世間知らずでしたと自慢されて、無理矢理謝ってもらわなくてもいいのよ。よかったわね。素敵なドレスまで着られて」
「リリーさん。私は本当に知らなかったの。ドレスを破いてしまってごめんなさい。リリーさんのドレスを奪うように着てしまって、ごめんなさい」
ミーネは突っ立ったまま、軽く頭を下げている。
正式な謝罪のお辞儀を知らないのだろう。
とても心からの謝罪には見えない。
従者がパーティー会場を片付けている。
「心がこもってないお粗末な謝罪ね」
従者のトレーからワインボトルを抜き取ると、そのままミーネの頭からワインをかけた。
美しい白いドレスがワイン色に染まっていく。
「これでおあいこね」
従者にワインボトルを返すと、リリーは帰って行く。
「リリー、おまえ、やり過ぎだろう」
兄が追いかけてくる。
「お兄様もアルミュール殿下の側近になるのを止めた方がいいわ。末はろくな国王にならないわね」
「おい、声が大きい」