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悪役令嬢になるのも面倒なので冒険に出かけます(仮)  作者: 綾月百花
1   婚約者
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4   そのドレスは・・・

 

 そのまま壁の花になって、5曲ほど過ぎた頃に、兄のハスタが近づいてきた。

「どうして、そんなところに立っているんだい、リリー?」

「だって、アルが誘いに来ないんですもの。王族の婚約者がいますのに、他の殿方達とダンスをするわけにはまいりませんでしょう?」

「それはそうだが」

「お兄様はダンスを踊ってこられたのかしら?」

「ああ、ずっと踊っていた」

「いいですわね。私は退屈過ぎて、今日は来なきゃ良かったわ」

「僕と踊るか?」

「ハスタお兄様とならば当たり障りはないのでしょうが、・・・・・・このまま壁の花のままでおりますわ。アルの気持ちも知りたいし」

「そうか?」

「アルはミーネ嬢が好きなのかしら?」

「僕も二人でいるところは今日初めて見たが・・・・・・」

「そうですか・・・・・・」

 扉が開き、アルミュール王子の姿が見えたが、・・・・・・その彼の横には白いドレスを着たミーネがいた。

「彼女のドレス、あれは先ほど国王様と王妃様が仰っていた私宛のドレスではないのかしら?」

「ずいぶんと豪華なドレスだな。まるで結婚式のような・・・正式な婚約者であるリリーが着るなら相応しいと思うが、一体全体、あれはどういうことだ?」

 両親もリリーのいる場所に寄ってきた。

「・・・・・・様子をみていたのだが、アルミュール殿下はリリーを、自分の婚約者をどう思っているのか」

 父が怒り出した。

 国王と王妃もリリーの元に戻ってきた。

「息子が失礼な真似をしている」

 国王と王妃が頭を下げたが、リリーは婚約者を無下にされて、頭に血が上っている。

「すぐに息子を連れて来るのだ」

 側仕えの一人に命じると、みたび国王は頭を下げる。

「・・・・・・どうやらあのドレスは、婚約者である私へのプレゼントではなかったようですわね」

「リリー嬢、そなたの怒りは至極もっともだが、まずは息子の言葉を聞いてからにしてくれまいか?」

「・・・・・・国王陛下の仰せのままに」



 国王陛下の側近に連れて来られたアルミュール殿下は白いタキシードを身につけておられる。

 一緒にミーネも連れてきて、二人が並ぶと、初々しい新婚カップルのように見える。

 あたかもミーネ嬢の方がアルミュール殿下の婚約者に見える。

 ・・・・・・格下の子爵令嬢が、格上のアコラサード伯爵家をコケにしている行いだ。

「アルミュールよ、そのドレスはリリー嬢のためのドレスではなかったのか?」

「彼女の着るドレスが無いから。このドレスを彼女にわたしたんだぞ」

 国王に問われた、当のアルミュール殿下は、今回のご自分の行いの何処が悪いのか、皆目お分かりにならないご様子。

「アルミュールの婚約者はリリー嬢ではないのか?」

「ん、リリーだぞ」

「そなたが婚約者のリリー嬢に贈りたいと申したからこそ、その豪華なドレスを作ったのだが?」

 アルミュール殿下の腕からやっとミーネが腕を解いた。

「申し訳ございません。すぐ脱ぎます」

 ミーネは頭を下げた。

「・・・・・・付き合いもない赤の他人が一度たりとも袖を通したドレスなど、わたくしはいりませんわ。そのまま受け取ったらいかが?殿下に婚約者がいることを知りながら、腕を組み、堂々と入場なさって、その上ファーストダンスを踊り、更に他人のドレスを身につける、その恥知らずな心根が賤しいわ。アコラサード伯爵家を侮辱したの、分かっていらっしゃる?貴族として、いえ、人としての最低限の躾を御座なりになさったあなたのご両親はどこにいらしているの?」

「わたしの両親は今日は来ておりません。我が家はそれほど裕福ではございません。わたしのドレス一着を作るのに精一杯でした」

「ドレス一枚作るだけで困窮為さるのであれば、無理に来なくてもよかったのではありませんか?礼儀がなっていません」

 リリーは捲し立てる。

 壁の花にされ、今の今まで蔑ろにされ続けた屈辱は、そんなに簡単には消えないのでございます。

「リリー嬢の怒りは尤もであろう。おそらく彼女に悪気はなかったのだろう。悪いのは、我が息子だ」

 何故か子爵令嬢に気兼ねする国王に宥められ、仕方なく、父がリリーの腕を握った。

「箸にも棒にも引っ掛からぬ、木っ端貴族の端くれの小娘など、そろそろ許してやってはどうだ、リリーよ?」

「いいえ、殿下とは今この場で、婚約破棄していただきたく存じます。こんな恥をかかされ、このままおめおめと婚約者などと言われるのは屈辱的でございます」

 パーティー会場から人々が帰っていく。

 ダンスのための音楽も止まり、人々が流れるように帰っていく。

 国王も王妃も焦っている。

「アルミュールよ、謝罪しなさい」

「リリーごめんなのだ。ダンスならリリーとは何度も踊っているから、今日が社交界デビューのミーネと踊ってあげたかったんだぞ」

「アルは私以外の女性には殊更優しいけれど、婚約者の私には優しくないわ。この先、もし結婚したとしても、私を一番に考えてくださらない相手とは、結婚はしたくはありません。今日は帰ります」

 リリーは振り返ると、会場の出口へと足を踏み出した。


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