10 飛べるの?
「リリーったら、明日もデート?」
「明後日、戻るので、会えるのは明日までですわ」
アトミスはリリーに嫉妬していた。アトミスはまだデートをしたことがない。年下の婚約者は、魔術学校に通っているし、皇族としての勉強もあるらしく、なかなか時間がないらしい。待っていると、待っている時間にいろんなことを考えてしまう。
また浮気をされるのではないかとか、年上の婚約者を嫌がったりしないだろうかとか。不安は絶えない。
「今日、公園に魔物が出たんです」
「あら。リリーが倒したの?」
「はい」
「王都にもたまに出るのよ。時々、人が亡くなることもあるの」
家に上がり、リリーが借りている部屋に向かう。
「魔物の森の奥に突き出た山があって、そこから魔物が出てくるんですって。ダンジョンとビエント様が言っていましたけれど、そこを攻撃する話も出ているそうです」
「危険じゃないのかしら?」
「危険だから、辞めて欲しいと言われましたが、私はダンジョンの中を見てみたい気持ちもあるの」
「どうして?」
「魔物がどうやって生まれてくるのか見てみたいのですわ。それに危険だからと皆が辞めてしまったら、誰も魔物を倒す者がいなくなってしまいますわ」
アトミスは黙った。
危険な場所から逃げだそうとしている自分が、あまりにも卑怯に感じていた。自分より幼いリリーが戦う意思を持っているのに、安全な場所にいて自分は、婚約者がデートしてくれないと、不満を抱いている。アトミスは自分が恥ずかしくなってくる。
「あっ、そういえば、どんな属性の方も、練習次第で飛べるようになるらしですよ。魔術学校で実証されているらしいのです」
「私も飛べるの?」
「はい」
リリーは笑顔で答えた。
「私は飛ぶ練習から始めていましたから、ビエント様に飛べるようになったら会おうと決めて、毎日、木から落ちていました。お姉様をここへお連れするときは、物を持ち上げる魔法を使ったのです。まだ私は幼く、旅行鞄を持ち歩く力がなかったので、旅行鞄を持ち上げる練習をしたのです。それを応用して、お姉様をお連れしたのです」
「リリーはすごいわね」
「お姉様も飛ぶ練習をなさいますか?」
「無理よ」
「ビエント様が、無理だと思うから飛べないのだと言っていました」
「ビエント殿下が?」
「はい」
「私も飛べるの?」
「飛べますわ」
リリーは借りている部屋に入って行く。アトミスが考えながら、後からついてくる。
「コツはあるのかしら?」
「気を溜めるように意識を集中させていますわ」
アトミスの前に立つと、リリーは深呼吸をひとつして、気を溜める。白銀の髪が膨らんでいる。20㎝ほど体を浮かせた。
「こんな感じですわ」
「わかったわ」
アトミスも深呼吸をして気を溜めている。黄金の髪がふわりと膨らんでいるが、上には上がらない。
「その練習で体は浮くようになると思います」
「本当に飛べるのかしら?」
「実証されているのだから、できるのでしょう。ビエント様が言っていましたし」
リリーはコートを脱いで、バックを置いた。アトミスを見ると、アトミスは練習をしていた。
「ねえ、リリーはどれくらいで飛べたの?」
「私の練習の方法は危ないのでお勧めできませんわ」
「どんな練習をしていたの?」
「木の上から飛び降りたり、二階の部屋から飛び降りたりしていましたわ。怪我が絶えず、お姉様の綺麗な足に傷ができたら、ご両親が嘆かれるでしょう」
「リリーは嘆かれたのね」
「・・・・・・はい。私はおとなしい子ではなかったので、両親はどこかでやんちゃをしているのだと思っていたようでしたが・・・・・・」
アトミスが笑った。
「膝を見せてくださいな」
「いいですわよ」
リリーはスカートを少し上げて、アトミスに膝を見せた。
「本当だわ、傷だらけですわね」
「・・・・・・ええ」
リリーもアトミスと笑った。




