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6   姉妹のように


「今日はとても楽しかったですわ」

「そうね。私はずっと緊張していたけれど・・・・・・」

「お姉様の婚約者のお方は、スマートなお方ですね。頭の回転が早そうですわ」

「あら、少し見ただけでわかるのかしら?」

「私の以前の婚約者は、頭のネジが壊れていましたので・・・・・・」

「リリー、お姉様と呼ぶのはおよしなさい。リリーの婚約者は第一王子ですよ。私の婚約者は第二王子。私がリリーにお姉様と呼ばなくてはなりません」

「形式上でしょう?きちんとした場所では呼びません。だって私にとって、お姉様なんですもの」

 やはりリリーはリリーのようだ。

「人前ではアトミスとお呼びなさいよ」

「わかりましたわ」

 リリーには従者が付けられた。アトミスの部屋で、お互いにドレスを脱いでいる。

「リリー先にお風呂を使ってもよろしくってよ」

「いいえ、この家のお嬢様はお姉様です。どうぞお姉様がお入りくださいな」

「わかったわ」

 リリーは言い出したら引かない。

 アトミスは心に浮かんだ邪悪な思いを流すように、お風呂に入り、侍女に綺麗にしてもらう。

 リリーお嬢様、客間にもお風呂がついておりますので、そちらに向かいましょうか?」

 リリーがドレスをドレスカバーに入れていると、侍女が声をかけてくれた。

「お待ちしてもいいのですけれど」

「裸でいらしたら風邪を引いてしまいますよ」

「それならお願いします」

 ガウンを身につけ、リリーは別の部屋に案内された。

 三人の侍女は、リリーの鞄まで持ってくれている。

 客間に案内されると、すぐにお風呂へと案内された。

「どうぞお入りください。ご主人様から丁重におもてなしをするように言われておりますので。ごゆっくりなさってください」

「ありがとうございます」

 ゆったり薔薇の香りのするお風呂に入ると、メイクを落とされていく。他の侍女は体をマッサージするように洗い、メイクを落とされると、髪をいい香りのするシャンプーで洗いマッサージをしてくれる。シャワーで流した後、トリートメントまでしてくれた。

「お嬢様、足下に気をつけて、隣のベッドに横になってください」

「こんなに綺麗にしてもらわなくてもいいのよ」

「ご実家に帰ったつもりで甘えてください」

 リリーはモリーやメリーのことを思い出した。幼いときから、毎日、体を洗って、肌のお手入れもしてくれた。家出する前日は、初めて二人の手を拒んでしまった。きっと傷つけてしまっただろう。

「お願いします」

モリーやメリーにも謝りたい。

いい香りのするオイルで肌を調えてもらうと、新しいネグリジェを出してくれた。

「少し大きいかもしれませんが、着られると思います」

「ありがとうございます」

 柔らかな綿のネグリジェを着て、ガウンを羽織らせてくれた。

「綺麗にしていただいて、ありがとうございます」

 丁寧に頭を下げると、侍女は、深くお辞儀をしていた。

「それでは、アトミスお嬢様のところに参りますか?」

「・・・・・・はい、お願いします」

「今日お召しになったドレスは乾燥させた方がいいと思いますので、ケースからお出ししてもよろしいですか」

「はい、よろしくお願いします」

 リリーは鞄の鍵を開けて、ドレスを取り出した。鞄を閉めて鍵をかける。

「それでは、こちらにどうぞ」

「お願いします」

 侍女に案内されて、アトミスの部屋に連れて行かれた。



「リリー気持ち良かったでしょう?」

「・・・・・・はい。もう1年くらい野生生活を送ってきたので、こんなに綺麗に洗ってもらい香油でマッサージされたのは、もういつだったのか思い出せません」

 アトミスは微笑んだ。

 白銀の髪は美しく、透き通る空のような青い瞳は、妖精のように美しい。

「殿下に、騎士団を辞めるように言われたでしょう?」

「・・・・・・はい。危険だから辞め欲しいと言われました」

「・・・・・・どうするの?」

「今回は戻ります。辞めるにしても、きちんと話してからではないと、アハトたちに申し訳ないので」

「責任感が強いのね」

「お姉様は、婚礼が近いのですよね?」

「・・・・・・そうでもないわ。殿下は年下だし。まだ学生だから」

「・・・・・・そうなのですね」

 リリーは目の前に置かれたカップを持つと、一口紅茶を飲んだ。

「私は実家から出ているので、止めるお方がビエント様しかいなくて、融通が利くので・・・・・・。お姉様は無理に戻る必要はないと思います。アハトたちも、もう戻ってこないかもしれないと言っていましたし。お姉様は、この国の伯爵令嬢なので、みんな納得していました」

「・・・・・・リリーは第一王子の妃になるのよ」

「実感がまだ湧かないのです。ビエント様が王子だと知らなかったので・・・・・・。でも、お姉様と姉妹になれるのですね。とても嬉しいですわ。お茶会をいっぱいしましょう。私はこの国に、知り合いはビエント様とお姉様しかいませんので・・・・・・。仲良くしてくださいますか?」

「私は少し僻んでいたのよ。誰よりも優越感に浸りたかったの。皆に馬鹿にされず、傅かれたかったの。だから、リリーが第一王子の婚約者だと知ったとき、悔しかったわ。リリーを蹴落としたくなったけれど、シオン様が姉妹のように仲良くすればいいとおっしゃったの。私は自分のことしか考えられなかったの。・・・・・・恥ずかしい事だわ」

「私はまだ14歳ですので、いろんな事を教えてください」

アトミスは自分の醜い心の中も晒したが、リリーはなんとも思っていないような顔をした。

「私は、今年18歳になるわ。そうね、結婚も私の方が早いかもしれませんね」

「家出をしてきた身なので、家族に会いたくなります。お姉様が羨ましいです・・・・・・」

 アトミスがリリーを抱きしめた。

「そうね、クローゼットの前で膝を抱えている姿を見ると、いつも寂しそうに見えたわ。今夜は一緒に眠りますか?」

「お姉様を蹴り落とさないといいけれど」

「リリーはいつも寝付きがいいわよ。すぐに熟睡してあまり動かないわ」

「お姉様はいつも見ていらしたの?」

「私は寝付きが悪いの。眠りも浅くて、狩りの時、眠くなって、ぼんやりしてしまうことが多かったわ。このままでは怪我をするだろうと思っていたの」

「・・・・・・お姉様、眠いです」

「そうね。こちらにいらして」

 アトミスは布団を捲ると、リリーを奥に入れた。体に布団をかけて、並んで横になった。

リリーはもう目を閉じている。規則正しい寝息を聞いていると、アトミスも知らぬ間に眠っていた。


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