3 ダンスパーティー
アストラべー王国のダンスフロアーは、美しいシャンデリアが幾つも下がり、フロアーの端には軽食を食べられるように、丸いテーブルが所々に並べられている。料理がふんだんに並べられ、シェフがお肉を焼いて、振る舞っている。飲み物はワインから葡萄ジュースまで揃えられていた。同じ王宮でもフラーグルム王宮とは、また違った雰囲気があった。この宮殿の中でリリーを知る者は、アトミスしかいない。リリーは久しぶりのダンスパーティーに来て、楽しんでいた。
最後のダンスパーティーは最悪だった。ワインをかけられるし、ドレスも破られてしまった。なんと言っても婚約者がリリーを婚約者としてみてくれなかった。いつか婚約破棄していただこうとは思っていたが、屈辱的なダンスパーティーだった。
リリーは壁の花になったが、嫌な気分は味わっていなかった。アトミスが嬉しそうに微笑んでいる。婚約者と挨拶をして歩いている。アトミスの婚約者は、アトミスより一つ年下だと聞いた。並んでいる二人は仲良く見える。
「リリー。こちらが、私の婚約者のシオン様です。シオン様、リリーは騎士団で私と同じパーティーメンバーです。そのうえ、フラーグルム王国の伯爵令嬢なのですわ」
「初めまして、リリー・ホワイト・アコラサード伯爵令嬢でございます。このたびは、婚約おめでとうございます」
「ありがとう。アトミスがお世話になっているね。可愛い妹のような存在だと聞いているよ。これからも仲良くして欲しい」
「お優しいお言葉、嬉しく思います」
リリーは恭しくお辞儀をする。
リリーもアトミスの侍女に綺麗に髪を結ってもらい、綺麗に化粧をされた。隣の国だが、言葉が通じて良かった。言葉が通じていなければ、リリーは一人で孤独に陥っていただろう。
リリーの国の第二外国語は、隣の国のアストラべー王国の言葉だった。国境で隣り合っているので、国境近くの村などは、言葉が混ざっていることが多いために、伯爵家では子供の頃からアストラべー王国の言葉を習うのは慣例になっている。
「リリー嬢もアストラべー王国の婚約者がいるのかな?」
ネックレスをつけているので、相手が居るのかどうかはわかる。
「はい。おります」
「そうか。どんな婚約者だろう」
「素敵なお方です」
シオンは微笑んで、「それでは」と頭を下げた。アトミスも頭を下げている。
二人は離れていった。
「リリー」と名前を呼ばれて、リリーは辺りを見渡すと、ビエントがタキシードを身につけやってきた。
「ビエント様、今日は招待されたのですか?」
「いや、弟の婚約パーティーなんだよ」
「え?・・・・・・弟ですか?」
リリーはミッドナイトブルーのタキシードを着たビエントを見つめた。
「私はアトミスお姉様に招待されました」
「ちょうどいい。両親に挨拶してこよう」
「え?・・・・・・心の準備が」
「側におればいい」
「・・・・・・はい」
リリーはビエントの腕に掴まり、歩いて行く。
「父上、母上、少しよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ」
通りすがりの貴族が離れていく。
「ここにいるのが、私の婚約者のリリー・ホワイト・アコラサード伯爵令嬢でございます。今は国境地帯の魔物の森の騎士団に入っております。風魔術を使う戦士です」
「初めまして、リリー・ホワイト・アコラサード伯爵令嬢でございます。このたびは婚約のお話ありがとうございます」
リリーは礼儀正しくお辞儀をする。
「見目美しく、美しい発音をなさる。ようこそ、我が宮殿に」
ご両親とも金髪で、多少色は違うが、青い瞳をしている。
「騎士団はそろそろ辞めて、ビエントの花嫁修業をしないか?」
「騎士団は人が足りず、簡単には抜けられません」
「シオンの婚約者は騎士団を辞めると聞いたが」
「アトミス様が抜けられた穴は大きく。すぐに退団は難しいと思います」
「今は、その話はなしだ。リリーは私の妻になる身。その体を大切にしなくてはならない」
「・・・・・・はい」
「父上、母上、騎士団の話は、私からいたします。今日はアトミス嬢に招待されたとか。リリーは私が王子だと知らないと思います」
「え?え?・・・・・・王子なのですか?」
ご両親が笑っている。
「そういうわけで、今日は顔見せだけで申し訳ございません」
「・・・・・・ええっと、と言うことは、国王様と王妃様なのでしょうか?」
「リリー、慌てなくていい。私の両親は確かに国王と王妃だ」
なんてことでしょう。リリーは慌てていた。
「国王陛下、王妃殿下、どうぞよろしくお願いいたします」
リリーはもう一度、正式なお辞儀をし直した。
「ゆっくりしておいで」
国王陛下が優しく声をかけてくれた。
「・・・・・・はい」
リリーの胸はドキドキしていた。魔物と戦う時と同じくらい。




