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1   アトミスの婚約


 狩りを終えて食事を摂ると、団長に1週間の休暇届を出した。ゆっくりお風呂に入って、眠気を飛ばすと、リリーはアトミスからもらったワンピースを着て、子供頃から使っているポシェットを斜めにかけた。ポシェットの中のお財布の中に金貨が3枚入っている。

 準備ができたので、寄宿舎の外に出て、上空に浮かび上がっていく。空を滑り降りるように、アトミスの家の前まで来たが、訪問の時間には少し早すぎた。もう一度、空に浮かび上がると王都の街の真ん中に降りた。通勤時間なのか人が多く歩いていた。リリーは優しそうな女性に声をかけた。金貨を換金できる場所を知りたかった。親切な女性は足を止めて、金貨は銀行で換金できると教えてくれた。ついでに、銀行の場所も教えてくれた。

 リリーは金貨を初めて換金した。貯金をしませんか?と聞かれたが、断った。

 街に出て、お洒落なお菓子のお店を覗き込む。

 お土産を買っていこうと思った。開店仕立てのお店に入って、商品を見て回って、クッキーかチョコレートか迷い、チョコレートを買うと、アトミスの家の前にやって来た。

 訪問を知らせるチャイムを鳴らすと、侍女が出てきた。

「アトミスさんと同じ騎士団に入っているリリーと申します」

「どうぞお入りください」

 アトミスの家はリリーの実家のように立派な造りをしていた。お洒落な花瓶に綺麗な花が飾られ、左右から階段があり二階へと上がれるようになっている。

「どうぞ、こちらでお待ちください」

「・・・・・・はい」

 リリーは応接室のソファーを勧められ、ソファーに座った。

 応接室はブラウンのソファーに、壁はベージュで大きな天使が描かれた絵画が飾られていた。

「リリー。会いたかったわ」

 すぐに扉が開き、アトミスが部屋に入ってきた。

「よく来てくれたわ。休暇を取ったの?」

「はい、アハトたちがやる気をなくして、休みたいというので、一週間お休みをいただきましたの」

「あら、あの子達は・・・・・・」

「お姉様がいないと、アハト達はやる気が出ないようですの」

「困ったわね」

 リリーはクスクスと笑った。

「お姉様は、きっと調教師だったのですわ。私には男性諸君はどうにもできませんもの」

 今度はアトミスが笑った。

「私が調教師?リリーは面白いことを言うわね」

 侍女が入ってきて、紅茶を置いて出て行った。

「私、お土産を持ってきたんです。チョコレートです」

 リリーはアトミスに小さな包みを渡した。

「初めて、金貨を換金しました」

「そう。それで買ってきてくれたのね」

「はい。やっと手元にお金ができて、安心しています」

「それはよかったわ」

 アトミスはその場でチョコレートを開けて、テーブルに置いた。

「リリーも食べましょう」

「いいのですか?」

「寄宿舎では、こういった嗜好品は出てきませんから。よかったら、一緒に食べましょう」

「ありがとうございます」

 リリーの手に、小さなチョコレートの包みを置いてくれる。

「お姉様は、このまま退団なんさるのですか?」

「婚約が決まって、結婚を勧められていますの」

「お祝いごとですね」

「パーティーメンバーの事を考えると、ここで騎士団を辞めることは心苦しいのですが、今度の婚約者は王室の方なので、無下にできません」

「まあ、すごいですわ」

「第二王子ですの」

「これからは、王宮で過ごすのですね?」

「次男ですから、別邸だと思いますけれど。王族になるのなら、もう危険な場所には行かないで欲しいと言われました」

「お姉様が幸せになれるのなら、退団してもいいと思いますわ。魔物退治は危険ですもの。私、この間、初めてポーションを飲んだのです。とても苦くてまずくて。ポーションで効かずに、アハトが私を抱えて、皆で逃げましたの。とても怖かったです。一つ間違ったら、死んでしまうのだと思いました」

「私が抜けたから・・・」

「いいえ、違います。あれは事故のような物でした」

「解毒はきちんとできましたか?」

「はい。寄宿舎にいる光魔術師の先生に治していただきました」

「・・・・・・よかったわ」

 手の中のチョコレートが溶けそうで、リリーはチョコレートを口に入れた。そうしたら、アトミスもチョコレートを食べた。

「そうだわ、リリー。リリーはドレスを持ってきていたわね」

「・・・・・・はい」

「今夜、婚約者とのパーティーがあるの。よかったら、出席しない?私の婚約者を見ていただきたいの」

「お邪魔ではありませんか?」

「心強いですわ」

「そうしたら、お茶を飲んだら、ドレスを取りに出かけてきますわ」

「化粧品は私の物を使えばいいわ」

「できれば、新しく揃えたいと思っていますの。一週間お休みをもらいましたので、お姉様、一緒に探してくださいますか?」

「もちろんよろしくってよ」

「とても嬉しいですわ」

「私も、リリーが来てくれて、とても嬉しいわ。休みの間、うちに泊まりなさいね」

「いいのですか?」

「もちろんよ」

 ゆっくり紅茶を飲むと、リリーは一度寄宿舎に戻った。


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