13 初めての麻痺(2)
医務室にリリーは寝かされている。
光魔法ができる救護員が待機している部屋だ。
「毒蜘蛛だな?」
「そうです。ポーションは3本飲んだのですが4本目の蓋が開けられなくて、意識喪失しました」
「掃除させていたのに、俺がリリーの背後を見ていなかった・・・・・・」
フィジがリリーの手を握ると、「邪魔だ」と救護員に叱られた。
「14歳になったばかりなのに」
「君たちも疲れただろう。椅子に座っていなさい」
「・・・・・・はい」
3人は長椅子に座って、リリーの回復を待っている。
カーテンを引かれて、女性の看護師がリリーの着替えを持ってきた。
「ガウンに」
「はい」
「体を拭いてくれ、傷の治療もする」
「わかりました」
リリーは目を覚ました。
「目覚めたか。まだ痺れるか?」
返事ができずに、瞬きする。
「まだ麻痺があるのか?」
また瞬きした。
「傷は塞がったが、厄介だな。麻痺が残るのか。もう一度解毒をする。目を閉じていなさい」
リリーは目を閉じた。
清浄な光を全身に浴びて、体から力が抜ける。
三度浄化の魔法をかけられ、リリーは動けるようになってきた。
「話せるか?」
「はい。もう痺れはありません」
「今夜は休みなさい」
カーテンを開けられると、3人が駆け寄ってきた。
「ごめんなさい」
「リリーが謝ることじゃない」
「掃除をさせているときは、術者の背後を守るのも仕事だ。俺たちがミスをした。すまなかった」
「出発が遅くなったのは、私のせいだもの」
「もう終わったことだ。これから気をつけなさい。今夜はみんな休むといい。リリー嬢は今日は戦えない」
「・・・・・・すみません」
「部屋に送っていこう」
看護師がストレッチャーを運んできた。
「力があるだろう。そっと移してやりなさい」
3人と看護師が、ストレッチャーに移してくれた。
「部屋を教えてくれるか?」
「399号室ですわ」
滅多に使わないエレベターに乗り、部屋に連れて行かれて、部屋の鍵を開けてもらうと、ストレッチャーはリリーのベッドに横付けされた。
普段は部屋に入れてもらえない男性の仲間達は、リリーをベッドに移すために、初めて部屋の中に入った。
「この部屋、広いな」
「特別室かな?」
「あんまり見るな」
4人にベッドに移されて、リリーは「ありがとう」とお礼を言った。
「男性諸君はお疲れ、さあ、出て行った」
看護師に部屋から追い出され、3人は廊下でポカンとしてしまう。
「部屋、いいにおいだったな」
「女の子だからかな?」
「何はともあれ、意識も戻ったし、痺れも取れたし良かった・・・・・・」
ストレッチャーと共に追い出された3人は、自分たちの部屋に戻った。
「アトミスが戻ったら、どやされそうだな」
「そうだな・・・・・・」
「アトミス怒らせると、怖いからな」
3人は自室でぼんやり天井を見上げる
「この部屋はずいぶん狭いよな」
「男の部屋だし、眠るだけだからいいけど」
「それにしても、広い部屋だったな」
リリーは初めて怖いと思った。
最初に上空から落下したときも怪我をしていたが、痺れはそれほどなかった。
看護師が熱を測っている。
「熱が出てくるかもしれません」
「・・・・・・はい」
「痺れは、もうないですね?」
「・・・・・・大丈夫だと思いますわ」
「腕はもう痛くはないですか?」
「もう痛くないです」
「また後で、看に来ますので、合鍵を使わせてもらいますね」
「お願いします」
「そのままお休みください」
「ありがとうございます」
看護師は出て行った。オートロックの部屋は入るときに、カードを差し込む。そのカードは、机の上に置かれている。
リリーは笛を抱きしめた。
死ななくてよかった。ビエント様と婚約できたのに、死亡なんて嫌だわ。
でも、辞めるとは言えない。
目を閉じると、吸い込まれるように眠ってしまった。
リリーは深夜に高熱を出して、翌日の狩りはお休みになった。




